第34話 長老と青年団の会議


 夕方。

 アイシャたちが長老の家から帰った後、長老の家には青年団がやってきた。

 10人ほどが部屋に入り、代表してアイシャの父が報告を始める。


「精霊の木の周りを探しましたが、花は見つけられませんでした。結界の方も確認しましたが、特に異常はありません。通常の通り抜けのあとはありますが……なにぶん、村人には伝えていないので、通行手形持ちは皆自由に出入りしていますし……」

「ふむ」


 長老は揺り椅子に座って、報告を聞いていた。

 

「結界には、特に不自然な破壊などはなかったということじゃな?」

「はい、そうです」

「……ひとまず、よかった、というべきなんじゃろうな」

「明日からは、どうしますか?」

「…………」


 長老は言った。


「わしは本当はこんなにきびきび動きたくないんじゃ」

「……祭りの後はのんびりしたいですよね」

「魔法はまだ使えるか?」

「まだいつも通りです」

「…………」

 

 長老は、アイシャの父を近くに呼んだ。

「……時に。……トリス様のことを、どう思う?」

「はっ。……お体も回復されてなによりかと」

「…………」


 長老が黙っていると、別の団員が恐る恐る言った。

「……もしかしてですが、長老はこの件、……トリス様が怪しいと――……?」

「「「えぇっ?!」」」


 青年団がどよめく。

 アイシャの父も焦った。

長老に視線が集まった。


 しかし、長老は首を振った。

 

「……いや。トリス様からも聖なる力は感じるゆえ、教団の上層部ではあることは間違いない。聖職者は、悪事は出来ないはずじゃ。悪事を働くと、聖なる力が弱まるはず。……トリス様の聖なる力は強い」

 

「……司祭の衣装も確認させた。怪しい持ち物――聖なる力の増強アイテムのようなものは、見つけられなかった」


「では、だれが――……」

「このことについて、護衛団にも相談しようと思う」


 長老は言った。


 護衛団――村にいる数軒の人間ヒユーマン達は、ほぼ全員がこれだった。ほぼ、というのは、護衛団の人間が家族を連れて引っ越してきたからである。つまり、人間の世帯で護衛団がいない家はない。

 

「わかりました。護衛団長を呼んできます」


 アイシャの父が目配せをすると、すぐに青年団のひとりが出て行った。


 

 普通なら――『人間ヒユーマンには話すべきではない、事件時は移民が一番怪しい』だとか『身内以外信用できない』だとかいう話になってもおかしくなかったが、彼らはそうは思わなかった。

 

 キールを含め――村に住む人間は、ドリアードと同じような生活習慣で、同じように暮らしている。決して、人間だけのコミュニティで暮らしていない。

 長老たちは、それを受けて――彼らを尊重していた。

 護衛団の、『ドリアードを守るために派遣されてきた』という肩書きを、そのまま文字通り受け取っているのだ。


 

「時に長老。トリス様はもう1週間、村に滞在されるとか」

「怪我が酷くてのぅ。……トリス様のことは三日間見ておるが、……とても嘘をつく性格には見えん。不審な動作もない。……少々疑ってしまったのじゃ」

「……」


 司祭様を疑いたくはない。人柄も問題なさそうだ。不審な所持品もない。聖なる力も強い。

 しかし、どうにも気になる。


「……やはり、教団からの手紙ですか?」

「うむ」


 長老の元には、先月末――教団から『ロフィマ様が出発』という電報が入っていた。


 『出発する予定』という連絡なら、分かりやすい。途中で派遣する人物がトリスに変更があったと。


「……記憶を失っているというのが厄介じゃ。本人の記憶違いで『本当はトリス様ではなくロフィマ様』なのか。はたまた――……」


 そこで長老の言葉は途切れたが、アイシャの父は頷いた。

 

「今から、はなきゆうを飛ばしましょう。……森の中に人がいれば、反応するはずです。……トリス様が村へ辿り着いたとき、わたしたちは司祭様が到着したと思って、花気球をさげてしまいましたので……」

「花気球か……。どうなるかのぅ」

 

 花気球――グリーンベルの花でできた魔法の探査花だ。探したい相手の名前を“命令”で付けて、探すことが出来る。


「……手配を頼む。ノアはだめだ。あれは休ませる」

「では一体どうすれば……」

「ちょうどいいのが、おるじゃろう」


 長老はアイシャの父を見て言った。

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