第407話 Civil War(2)
1943年1月23日
カリフォルニア州 サクラメント
カリフォルニア州会議事堂
「我らアメリカ自由州同盟はここに独立を宣言し、世界の平和と安定のため、この無益な戦争を人類の叡智によって即時に終わらせることを望む」
同盟政府の初代評議会議長に選出されたアール・ウォーレンが独立宣言を声高らかに読み上げた。そして、この独立宣言は全米にテレビおよびラジオ中継されていた。また、日本軍も当然傍受しており、EATO諸国とイギリスに転送されている。
「そして日本と交渉するに当たって、心強い英雄が強力な武器を持って駆けつけてくれました。同盟国防委員長に就任したカーチス・ルメイ元帥です!」
―――
「そんなばかな!ルメイだと!」
その中継を宇宙軍本部で見ていた高城蒼龍は、そう叫んで立ち上がった。1年前に核爆弾を持って行方不明になっており、その動向はKGBとルルイエ機関をもってしても追跡できていなかったのだ。それがまさかアメリカに戻っていて、しかも同盟の独立に荷担していたとは。
「“強力な武器”とは、まさか・・・・」
――――
「ルメイ元帥は1年前、在中国アメリカ戦略爆撃機部隊の責任者として活躍されていました。そして、アメリカの中枢より信じられない命令を受けたのです。日本から先制攻撃を受けたと偽装するので、それに合わせて核爆弾を日本に投下するようにと。当時大佐だったルメイ元帥は、その命令に従うしかありませんでした。そして、小倉に核爆弾を投下せざるを得なかったのです。しかし、その不正義を受け入れることの出来なかったルメイ元帥は、今、我々の為、本当の正義の為に同盟の独立に参加してくれました!」
そして右手を挙げながら登壇したルメイは、カメラの前でウォーレン議長と固く握手を交わす。
「さらに、独立したばかりの我々同盟にとって非常に強力で心強い武器も提供してくれました。それは、核爆弾です!」
壇上にその禍々しい爆弾の写真が持ち込まれた。傍らに立っている男と比較すると、全長は3メートルくらいにみえる。史実の広島型原爆リトルボーイそのものであった。
「我々同盟は、何も知らない市民を戦渦に巻き込んだルーズベルトを糾弾します。そして、日本政府に対して条件無しでの即時停戦と講和を求めます。私は、領土と市民の生命財産・権利の保全を確実なものとする事を誓います。我々の領土を1インチでも侵す者があれば、躊躇無く核爆弾を使用します。それは、領土と市民を必ず守るという覚悟に他なりません!」
その演説を聴いていた聴衆は一斉に雄叫びを上げた。この1年間、アメリカ全土で200万人以上の市民が核兵器によって焼かれ、フィリピン・ハワイ・パナマの失陥、そして中部以東の都市への爆撃で10万人以上の死傷者を出してしまった。同盟の独立は、この陰鬱とした空気を完全に吹き飛ばすだけの内容だったのだ。
「「「A.F.S!!A.F.S!!A.F.S!!A.F.S!!」」」 ※Allied Free States(自由州同盟)
――――
日本 東京
この事態を受けて、緊急に大本営が招集された。三軍の長と首相が、用意された書類に連名で署名をする。
核兵器による恫喝を受けたときの基本対応は、既に決められていたのだ。世界にどんな犠牲を強いたとしても、金輪際日本を、日本人を核の炎で焼かれるようなことは許容できない。その為には、人間のいかなる感情も慈悲も排除したプロセスを用意している。
――――
カリフォルニア州 サクラメント
「ウォーレン議長、に、日本政府からの回答です」
秘書官がウォーレンの執務室で日本政府からの返答文書を手渡した。独立宣言と同時に、日本政府に対して講和の打診をしていたのだ。その返事が早速返ってきた。
「早いな。日本政府に通告してからまだ4時間しか経っていないだろう。どれどれ」
日本に通告したのがカリフォルニア時間の午前9時だった。そして、現在は13時前。結果が出るには早すぎる。ウォーレンは嫌な予感を覚えながら返答文書を広げた。
「な、なんだと・・・そんな・・・・」
『日本政府からの最後通牒
・日本帝国は同盟政府を承認しない
・核兵器による恫喝は一切許容できない
・アメリカ西部を占有する勢力は、カリフォルニア時間で本日15時までに無条件で武装解除し、日本軍の進駐を認めること
・無条件武装解除が実現されない場合、15時30分にビール陸軍基地に対して核攻撃を実施する
・その後、無条件武装解除が実現するまで、以下の基地に対して核攻撃を実施する
・16時 サンフランシスコ海軍工廠
・17時 ニューポート沿岸警備隊基地
・18時 ピュージェット・サウンド海軍造船所
・19時 ・・・・・・・・
・20時 ・・・・・・・・
・
・
・
・ ・・・・・・・・・
・1年前に使用した核兵器の数十倍の破壊力をもって攻撃を実行する。民間人に対しては、攻撃目標から30km以上の避難を要求する』
ビール陸軍基地は、このサクラメントから北に60kmほどの場所にある連邦軍基地だ。ここは、同盟軍の包囲に対して降伏をしていた。降伏をした連邦軍にとってはとんだ巻き添えだろう。
「1年前の数十倍の破壊力だと?そんなことが・・・本当に・・?ルメイを呼び出せ!先制核攻撃さえしなければ日本は核を使うことは無いと言ったではないか!」
日本からの最後通牒は、イギリス経由の国際電話で各ラジオ・テレビ局にも通告された。そして、各局はすぐ市民に避難を呼びかけた。1年前の核攻撃の際も、日本大使館からラジオ局に通告があったが小さく取り上げただけで、結果被害を拡大させてしまったという反省があった。その為、攻撃目標にされた基地のある町に対し、とにかく遠くへ避難するよう最大限呼びかけたのだ。
ラジオ放送を聞いた市民の行動は速かった。攻撃目標近くの市民はすぐに避難を開始する。多くの人が駅や港、空港に殺到した。皆殺気立っている。あと数時間でこの場所は蒸発して無くなってしまうのだ。1秒でも速く、1ヤードでも遠くに逃げなければならない。
駅に殺到した人たちは、列車のドアや窓にしがみついて町を離れようとした。当然屋根にも限界まで乗っていて、列車が揺れるたびに何人かが転落する有様だ。港では出港する船に息が出来ないほどの人が乗り込んだ。小型船では、定員の10倍以上の人が乗り込み転覆する事故が多発する。民間空港に集まった人たちは離陸する飛行機にしがみつこうと、アリの群れのように滑走路になだれ込んだ。そして、人々をひき殺しながら旅客機が離陸していく。
誰もが自分と愛する家族だけでも助かろうとしている。愛する人のため、他人を蹴落とし、殴り殺し、撃ち殺してその席を獲得する。アメリカ西部の多くの都市は地獄と化していた。
そして、同盟政府は意思決定の出来ないまま15時を迎えてしまった。
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