第408話 Civil War(3)

 1943年1月23日15時10分(カリフォルニア時間)

 1943年1月24日7時10分(日本時間)


 北海道 中空知 帝国宇宙軍戦略核ミサイル基地


 山の稜線が朝日で明るくなってきた頃、中空知の森の中、突如として激しい煙と炎が吹き出し、黒く塗られたロケットが浮上していく。


 この基地は半年前に完成したばかりの新しい基地だ。戦略核部隊であるが、侵略のためにその力を使うのでは無く、防衛のためだけに使うという信念から、非公式ではあるが“中空知防衛軍”と呼称されている。


 そして最初の冬、隊員達の仕事は毎日の雪かきだけだったのだが、とうとう発射命令が発令されてしまったのだ。


 発射されたミサイルは数十秒で大気圏を脱出し、真空の世界へ滑り込んでいく。そしてさらに加速をして時速25050kmに達する。この時の高度は1120km。そして内蔵されているフライホイールを駆動させて進路を地上に向け落下を始めた。高度が下がり大気の抵抗で弾頭は赤く輝き始め、そして、ほんの少しだけ速度を落とし、それでも音速の20倍の速度でビール陸軍基地に向けて落下していった。


 そして発射から22分後、核弾頭はビール陸軍基地の地面に接触したと同時に起爆装置が作動し、核の力を解き放った。


 ――――


 サクラメント


 日本からの攻撃目標にサクラメントは入っていなかったので、ウォーレン議長やその他の同盟幹部達は何ら決定することが出来ないまま北の空を見つめていた。


 そして15時30分、予告された時間、北の空に光る点が見え始め、その物体は白い線を描きながら地上に向かっていく。それは信じられない速さで地上に近づき、地平線と交差した。


 その瞬間、北の空が真っ白に輝いた。それは朝日の明るさを遥かに凌駕していて、まばゆいその光を直視することは出来ない。


 そして数秒後、光の暴力が少し収まり人々が目を開くと、同心円状に広がっていく衝撃波が見えた。


 ドンッ!!


 爆心地から60kmも離れているにもかかわらず、サクラメントではほとんどの窓が割れ、木々が大きく揺れて鳥たちが一斉に飛び立った。


 北の空には、熱によってオレンジ色に輝く巨大な雲が、ゆっくりと上昇していく様がはっきりと見えた。その高さは上空70kmにも達する。キノコ雲の先端は宇宙との境界で太陽に照らされ輝いていた。それはまるで、愚かな人類を見下ろす天使のようでもあった。


「神の火だ・・・・・」


 そのキノコ雲を見た人間は皆思った。神の怒りに触れてしまったのだと。


 そして同盟は、無条件降伏を受け入れた。


 ――――


 デトロイト 大統領府


「反乱軍が日本に無条件降伏をしただと!愚かにもほどがある!」


「はい、大統領。ビール陸軍基地に核爆弾の直撃を受けて、このままでは皆殺しにされると思ったのでしょう。カリフォルニアを含めて、反乱に加わった州は全て降伏をしています。明日には日本とイギリスの占領部隊が進駐すると発表がありました」


 アイクス内務長官が、あきれたような口ぶりでルーズベルトに報告をしていた。


 半日前、全世界に向けて独立宣言を発表した反乱軍が1日も保たずに消滅してしまったのだ。さらに日本は、核兵器による恫喝をおこなったとしてアール・ウォーレンとカーチス・ルメイを逮捕すると発表している。


「核による被害状況はわかっているのか?」


「はい、ビール陸軍基地から15km以内に人はそれほど住んでおりませんので、おそらく死傷者はほとんど居ないのでは無いかと思います。それより、混乱した民衆の事故死の方が多いのでは無いでしょうか。それと、連邦軍の軍人1100名が反乱軍によって基地に軟禁されていたようですが、こちらについてはまだ確認が取れておりません」


 反乱軍の独立宣言で、アメリカが偽旗作戦を実行したと暴露されてしまったが、アメリカ政府はこれに対して虚言であると反論している。反乱軍が独立の正当性を主張するために、カーチス・ルメイを買収したのだと。


「しかし反乱軍ももう少し頑張ってくれれば良いものを」


 西部地域の反乱自体は歓迎されるものではないが、その対応に日本軍のリソースが割かれれば、東部地域への侵攻が遅らせると期待していたところもあったのだ。しかし、まさかこんなに早く降伏するとは。


「日本軍の次の動きはどうなのだ?」


 この質問に対しては、スティムソン陸軍長官が答える。


「16日以降、大規模な爆撃は実施されておりません。日本の補給船はここしばらくパナマ運河を通過しておりませんので補給待ちだと分析しております」


「そうか。いずれにしてもそれほど時間は残されていないと言うことだな」


 ――――


 ビール陸軍基地のあった場所には、直径500メートルにもおよぶクレーターが形成されていた。そして、爆発によって巻き上げられた土砂は、60km離れたサクラメントにも大量に降り注いでいた。


 爆心地は町から離れたロッキー山脈の麓にあったため、爆発による死者はほとんど出ていなかった。実際の被害は、爆風と衝撃波によって割れたガラスで怪我をした人たちが数百人と、避難の混乱で事故死した人が2000人ほどだ。幽閉されていた連邦軍兵士も解放されて、皆無事だった。


 今回使用された核弾頭は、プルトニウムの使用量を極限まで減らした核融合弾頭だ。その為、爆発力に対して放射性物質の放出が少ない。それでも、100キロトンから1メガトンまでの出力調整が可能で、今回は200キロトンの核出力で爆発をさせた。上空で爆発させた場合、その熱線で広範囲の人が火傷を負ってしまうため、地上での爆発にセットしたのだ。そうすれば、被害を最小に抑えながら、禍々しいキノコ雲を多くの人に見せつけ、巨大なクレーターを残すことができる。


 最初の一発で降伏してくれたことに安堵する高城蒼龍であった。

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