第406話 Civil War(1)

 ロスアラモス爆撃より4時間後


 アメリカ デトロイト 大統領府


「ロスアラモスが爆撃されただと!防空体制はどうなっていたんだ!あそこには重点的に120mm高射砲とP47戦闘機を配備していただろう!」


 ルーズベルト大統領が陸軍長官を怒鳴り散らしていた。もはや朝の風物詩になっている。


「日本の爆撃機はレーダーに全く映りませんでした。投下された爆弾はレーダーに捕捉できましたが、その時にはもうすでに時遅く、どうすることもできませんでした」


「バカな!爆弾が映っているのに爆撃機がレーダーに映らないのか!爆撃機の方が爆弾より何十倍も大きいんだぞ!バカにしているのか!」


「小官にもにわかには信じられなかったのですが、ロンドンからの報告では間違いないようです。昨夜(デトロイト時間)日本の硫黄島(いおうじま)で開催されたロケット打ち上げの発表会で、今回の爆撃が生中継されたそうです。その様子はロンドンのテレビ放送で一般市民がリアルタイムに視聴したとのことです」


「そんな、ばかな・・その映像は無いのか?ロンドンではリアルタイムで見ることが出来たんだろう!?」


「大統領。日本とロンドン間では衛星による高速通信が出来ますが、我が国は極長長波か海底ケーブルを使うしかありません。海底ケーブルによるテレックスで、ロンドンで放送された画像を受信中とのことですが、ここに届くまでもうしばらくかかります」


 ※テレックス 正確にはテレックス通信網を利用した画像送信技術。光電管(送信側)で読み取った濃淡を、受信側の電球で印画紙に焼き付ける。ファックスの前身のような技術。当然白黒の静止画しか送れない。画像の送信には相当の時間がかかる


「硫黄島の発表会に参加したエージェントからの情報ですと、全幅51メートルもある“無人”戦略爆撃機で、20トンの爆弾を積んで13000kmの航続距離があるそうです。爆弾搭載量を減らせば、高度20000メートル以上に上昇でき、さらに、レーダーにはコガネムシ程度にしか映らないとの事。もしこれが事実なら、もはや我々には何も出来ません」


「なぜだ!我々はマニフェスト・ディスティニーに従ってこの地に文明を花咲かせたのだぞ!そしてハワイ、フィリピン・中国へ文明を教えてやろうとしていたのだ!我々アメリカ人こそ世界に福音をもたらせるのだぞ!それなのに、それなのに、あの毛の生えていないサルどもに・・なぜこんなことになったんだぁ!」


 この日から毎夜、どこかの核開発施設が爆撃を受け完全に破壊されていった。それに少し遅れて、製鉄所や発電所といった工業施設へ九八式重爆撃機300機による爆撃も激化していく。


1943年

1月3日

 ピッツバーグ空襲(製鉄所・発電所)

1月4日

 ベツレヘム空襲(製鉄所・発電所)

1月5日

 ゲーリー空襲(製鉄所・発電所)

1月6日・7日

 ヒューストン空襲(製油施設・発電所)

1月8日・9日

 ダラス空襲(航空機工場)

1月10日

 フーバーダム空襲(発電所)

 アトランタ空襲(航空機工場)

1月11日

 デトロイト空襲(戦車・重砲工場・発電所)

1月12日

 デトロイト空襲(戦車・重砲工場・発電所)

1月13日

 デトロイト空襲(戦車・重砲工場・発電所)

1月14日

 アルコア空襲(アルミニウム工場)

1月15日

 ナッシュビル空襲(戦車・鉄道関連工場)

 サンアントニオ空襲(航空機部品製造)

1月16日

 セントルイス空襲(戦車・重砲工場)


 この他、鉄道や橋梁などの輸送インフラも壊滅的な被害を受けた。


 パナマ運河を手に入れることが出来たため、日本軍はEATO(東アジア条約機構)の国々で全力生産した爆弾をキューバ基地に運び込んでいた。その大量の爆弾が届いたと同時に、軍需工場への爆撃を開始したのだ。


 また、フロリダ・タンパの滑走路やアメリカ沿岸に進出した空母からの、戦闘機による護衛が付いたことも爆撃作戦を支えた。


 1月3日から始まった空襲は1月16日まで休むことなく毎日続けられ、14日間の延べ出撃爆撃機3720機、投下爆弾45,544トンにも及んだ。


1943年1月18日


 アメリカ デトロイト 大統領府


「大統領。この2週間の空襲で中部から東部の鉱工業生産工場は壊滅的な損害を受けました。この爆撃によって東部の鉄鋼生産は完全に停止しています。また、このデトロイトをはじめ、五大湖沿岸の工業地帯もほぼ壊滅です。市街地への被害はそれほどではありませんが、工場労働者を中心に10万人以上の死傷者が出ました。町への電力供給もほとんど停止し、復旧の目処は立っていません」


 日本軍からはあらかじめ爆撃目標のリストが提示されていた。そして、そのスケジュール通りに爆撃が実施されたにもかかわらず、アメリカ軍は全く対応する事が出来なかったのだ。これは、昨年12月から始まったGNSSを利用した精密爆撃によって、配備していた120mm高射砲やP47戦闘機の掩体壕がピンポイントで破壊されていたためだ。


 さらに悪い知らせは続く。


「大統領!カリフォルニアが・・・反乱です!独立宣言をしました!州軍が連邦軍基地を取り囲んで降伏を要求しています!」


「ば、ば、バカな!!!」


 中部以東の地域が壊滅的打撃を受けたことによって、まだ被害の少ない西部地域に動揺が走っていたのだ。一年前に核攻撃は受けたが、狙われたのは連邦軍基地で市民への被害はそれほどでもなかった。しかしこの2週間の爆撃を見て、全く頼りにならない連邦政府を見限って独立を宣言。そして、日本との講和交渉を開始した。さらに、カリフォルニアに続いて、アリゾナ・ネバダ・オレゴンなどの西部8州とアラスカがカリフォルニアに同調。アメリカ自由州同盟(Allied Free States of America)の建国を宣言。そして、初代評議会議長兼同盟首長として、アール・ウォーレンが選出された。

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