第385話 アボリジニの誇り
オーストラリア ニューサウスウェールズ
1942年3月31日午前6時
首都キャンベラから北西に200kmほどの地点。雨が少なく広大な草原が広がる地域に、20機の日本陸軍4発輸送機が飛来した。そして、あらかじめ現地に潜入していたエージェントがマーキングしている場所に着陸する。
着陸した輸送機からは、分解された九七式自走高射機関砲やブルドーザーなどの重機が次々に荷下ろしされていく。
「高射機関砲とレーダーの組み立てを急げ!工兵は3時間以内に滑走路を整備するんだ!」
オーストラリアはとにかく広い。1940年当時、オーストラリアの人口は700万人ほどで、そのほとんどが東海岸に集中していた。キャンベラから200kmほど内陸のこの草原地帯に、人が居ないことは確認済みだ。万が一オーストラリア軍に発見されても、地上部隊が到着するまでには時間がかかる。しかし、航空機ならすぐに襲ってくるはずだ。その前に、高射機関砲を組み立てなければならなかった。
フィリピンから5000kmを飛行して到着した輸送機は、荷物を下ろした後に給油機から地上で燃料補給をしてすぐに飛び立っていく。第二陣の120機が3時間後に到着するので、それまでに滑走路の整備を終わらせる。そして、本日中に強固な前線基地を構築するのだ。
1942年4月1日正午
オーストラリア 日本軍前線基地
「我々はアボリジニの全てを糾合し、その代表としてここにアボリジナル・オーストラリア共和国の独立を宣言する」
一人のアボリジニの青年が胸を張って高らかに宣言をした。それを見守っていた数十人のアボリジニ達が雄叫びを上げる。
この当時、オーストラリアに存在するアボリジニは7万人程度にまで減らされていた。そして、その多くは白人社会への強制的な同化政策により子供を取り上げられ、その子らは白人家庭で育てられていたのだ。
ほとんどのアボリジニは白人に抵抗することが出来ずに従っていたのだが、一部の部族がオーストラリア中央部の乾燥地帯で細々と生活を営んでいた。日本はその部族と協定を結び、オーストラリアにてアボリジニ国家の独立を実現したのだ。
そしてアボリジナル・オーストラリア共和国はオーストラリア白人政府に以下の要求を突きつけた。
・オーストラリア大陸とその付属島嶼はアボリジナル・オーストラリア共和国の領土で有り、その領域を不法に占有している者達の即時退去を要求する。
・アボリジニの子供たちを強制的に取り上げた者達は誘拐犯として処罰する。
・アボリジナル・オーストラリア共和国に存在する不法占有者の財産は没収する。
・アボリジニに対して過去に行った残虐行為や差別行為に対して、上記の誘拐行為以外での処罰や賠償請求は行わない。
・現時点以降において、アボリジニに対して差別行為や暴力を行ったものは処罰する。
EATO(東アジア条約機構)の国々は、このアボリジナル・オーストラリア共和国を即時承認した。そしてEATOの枠組みとは別に、日本と個別安全保障条約を結んだ。
――――
首都キャンベラ
「バカな!ここから200kmの地点に日本の前線基地だと!だれも気づかなかったのか!?」
「はい、首相。情報によれば昨日の早朝にはじめて日本の部隊が着陸し、一日で前線基地を作ったようです。現在も休むこと無く輸送機が到着しています」
首相官邸では、ファデン首相に陸軍長官が報告をしている。オーストラリアの内陸部は乾燥地帯が多く、そのほとんどが手つかずだった。そして、誰も住んでいない地域が多い。日本軍はそこを狙ってとんでもなく大胆な作戦を実行した。
「それにアボリジニが独立宣言か?くそっ!どれもこれもアメリカのせいだ!駐留米軍に攻撃をさせろ!奴らに責任を取らせるんだ!」
オーストラリア政府は、アメリカとの軍事条約を根拠に日本軍前線基地への攻撃を要請したのだが、アメリカ軍からは「今は実施できない」との返答があった。
駐豪米軍は、B17およびB29爆撃機と500機あまりの米軍機からなる。戦力的にはそこそこの規模なのだが、日本軍に対して無力であることはわかっていたのだ。さらに、南太平洋には日本の潜水艦や巡洋艦が多数進出してきており、アメリカからの輸送船はことごとく撃沈もしくは拿捕されていた。オーストラリアとニュージーランドは、ほぼ完全に隔離されてしまったと言って過言では無い。
オーストラリアは英連邦の宗主国であるイギリスに対して日本との講和の仲介を依頼していたのだが、日本からは良い返事を得られていなかった。なんとか国土の保全だけでも勝ち取りたいと思っていた矢先にアボリジニが独立を宣言した。世界に向けて宣言した以上、日本がアボリジニ国家を見捨てるようなことは絶対に無い。この時点で、オーストラリアの国土失陥は確定的となった。
――――
ワシントン
「オーストラリアの内陸部に日本が基地を作ったというのか!?本当なのか!?」
オーストラリアでの情報を受けて、ホワイトハウスは混乱に陥っていた。
「はい、大統領。現在情報を収集中ですが、どうやら事実のようです」
「そんな・・・、もし我がアメリカで同じ事をされたら・・・、我が国の砂漠地域はどうなのだ!?大丈夫なんだろうな!?」
アメリカも中西部の砂漠地帯にはほとんど人が住んでいない。もし今回のオーストラリアと同じように、内陸部に突然基地を作られてしまったら大混乱に陥るだろう。そんな事だけは絶対に避けなければならない。
「今までは沿岸部にだけレーダーを設置していましたが、内陸部にもすぐに設置します。それに、万が一内陸部に基地を作られたとしても、あの九六式主力戦車の搬入は出来ないはずです。あの戦車さえなければ我が国の地上軍でなんとかなります」
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