第386話 国際連盟臨時総会(1)

 スイス ジュネーブ 国際連盟本部


「日本の侵略に対して国際社会は断固たる措置を執るように強く求める」


 オーストラリアのアーサー・ファデン首相、カナダのキング首相、ニュージーランドのフレーサー首相の要請で、緊急安全保障会議と臨時総会が開催されていた。


「さらに日本は我が国内の先住民をそそのかして独立を宣言させ、しかもオーストラリア国民の不法な排除を画策している!これは明かな犯罪行為である!平和と正義を希求する国際社会が、日本に対して経済制裁および軍事的圧力をかけることを強く望むものである!」


 オーストラリアのファデン首相は顔を真っ赤にして演説をしている。アメリカの要請(脅迫)によって共同参戦国に名前を連ねてしまったが、その代償として国家存亡の危機に瀕しているのだ。ルーズベルト大統領は新型爆弾によって瞬時に戦争は終わると言っていた。しかし、その報復で新型爆弾がアメリカに落とされ、さらにアメリカ太平洋艦隊は全滅。手も足も出ない状態にされて、内陸部に前線基地まで作られてしまったのだ。


 こうなっては講和しか道は残されていないのだが、日本政府とアボリジナル・オーストラリア共和国は、無条件降伏および国土の明け渡し以外に妥協の余地は無いとの一点張りだ。さらにアボリジニの子供たちを誘拐した容疑で、ファデン首相および国務大臣他数名の引き渡しを要求している。こんな要求が飲めるはずが無い。どんなことをしてでも、イギリスをはじめ国際社会の協力を得なければならないと、悲壮な決意で臨んでいたのだ。


「アメリカは自国が攻撃をされたと自作自演を行い、卑怯にも我が国の市民に対して新型爆弾による大量虐殺を実行しました。これはとうてい許される行為ではありません。そのアメリカに荷担し、我が国に宣戦布告をしてきたオーストラリアやその他の国は責任を取る義務があると考えます。特にオーストラリアにおいては、あからさまな人種差別政策を執っておりアボリジニの子供たちを誘拐するなどその行いは言語道断であります。オーストラリア政府はその非道な行いを恥じて反省し、容疑者の引き渡しをすぐさま決断するよう強く求めるものであります」


 オーストラリアの演説に対して、日本の鈴木貫太郎首相は毅然とした反論演説を行った。さらに、アメリカの自作自演を示す証拠として、傍受した暗号電の解読資料を提出している。


 ※宇宙軍では全世界の通信を傍受して記録しているが、ヨーロッパでの戦いが終わった後は中国方面とソ連共産党残党の監視を重点的に行っていた。その為、偽旗作戦の情報を事前に解読できなかったのだ。現在は人員を増強し、どんな暗号電でも傍受して2時間以内には解読する体制が構築されている。


 しかし、このアメリカ暗号電についてアメリカは“事実無根のでっち上げ”であるとのコメントを発表していた。


 ※アメリカは国際連盟に加入していないので、今回の臨時総会には参加していない。


 日本は特殊な技術によって複雑な暗号を解読したと説明しているが、本当にその解読方法が正解なのかどうかは誰にもわからないのだ。現時点でアメリカの主張と日本の主張のどちらも国際社会は受け入れていない。


「アボリジニの子供たちにも、我々の高等な教育を受けさせるためのプログラムだ!人道的な見地から行っている政策にとやかく言われる筋合いは無い!」


 オーストラリアのファデン首相は、アボリジニの子供たちを白人家庭で受け入れて教育をするのは人道的な活動であると強弁する。しかし、その主張は誰の目にも白人の独善的行為としかうつらない。


「高等な教育と言うなら、アボリジニの集落に対して学校を作るなりすればいい!親の意向を無視して子供を取り上げることを日本では一般に“誘拐”と呼ぶのだ!ファデン首相!あなたには誘拐の疑いで逮捕状が出ている。世界のどこに逃げようとも必ず逮捕して罪を償わせる!」


 鈴木首相もファデン首相の物言いに声を荒げてしまった。鈴木首相には、先立たれた妻トヨとの間に三人の子供が居る。その子供たちや孫が白人に取り上げられて、意に沿わぬ教育(洗脳)を受けさせられているような事だと思うと、どうにも怒りを抑える事が出来なかった。


 カナダやニュージーランドも日本を非難するが、結局の所戦争を継続するつもりは無く、イギリスの仲介でなんとか講和に持ち込みたいというのが本音だった。


 ――――


 ジュネーブ イギリス大使館


 国際連盟臨時総会の1日目が終わった後、オーストラリア・カナダ・ニュージーランドの首相はイギリス大使館に招待されていた。


「アメリカに脅迫されたのでしょうが、安易に共同参戦国に名前を連ねたのは大失態でしたな。数万人の市民を殺された日本の怒りは、我が大英帝国でも抑えることはできませんよ」


 キューバ産の高級葉巻をふかしながら、チャーチル首相は各国の首相に哀れみのこもった視線を向けている。


 オーストラリア・カナダ・ニュージーランドは、1930年ごろからはイギリスよりアメリカとの経済的結びつきが強くなっていて、アメリカの意向に逆らえなかったのだ。アメリカは短期間で戦争は終結すると説明し、万が一長期化してもアメリカが絶対に守ると言っていた。さらに、もし共同参戦国にならないのであれば、貿易は今まで通りに行うことは難しいと脅迫してきた。


「し、しかしチャーチル首相。我々にはどうすることも出来なかったのだ。なんとか日本との講和の仲介をお願いしたい」


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