第384話 ハワイ共和国独立

 ワシントン ホワイトハウス


「大統領。イギリスからの返答です。現時点で日本は一切妥協するつもりは無いとのことです」


「チャーチルの役立たずが!対独戦ではかなりの借款をしてやっているんだぞ!あの恩知らずめ!」


 ハル国務長官からの報告に、ルーズベルト大統領はいらだちを隠さない。アメリカはイギリスに対して、日本との停戦の仲介を依頼していたのだが、イギリスからの返答はルーズベルトの期待には添わないものだった。


「借款に関してはドル建ての為、イギリスはアメリカが敗北することを望んでいるという観測もありますな。ドルが暴落すれば、イギリスの借金は目減りします」


 対日戦争勃発以来、為替市場ではドルの下落が進んでいる。さらに、戦費調達のための臨時国債発行によってドル安は加速していた。イギリスはドル建てでアメリカから借金をしているため、ドル安になれば実質の借金額が小さくなる。


「スティムソン陸軍長官。今後の日本軍の動きはどうなる?我が国の太平洋艦隊は全滅してしまったが。とはいえ、連中にも大規模な上陸作戦を実行することは出来ないのだろう?」


 ヨーロッパでの上陸作戦に用いられた舟艇は主にイギリスで建造された物で、太平洋を横断できるようなものではなかった。日本軍にも強襲揚陸艦はあるが、大規模な敵前上陸作戦が実行できるほどの装備では無い。


「はい、大統領。日本軍の九七式戦闘攻撃機の作戦半径は800kmなので、空母艦隊が西海岸近くにまで来たとしても大規模かつ継続的な攻撃は出来ないと思われます。九八式重爆撃機は行動半径5000kmありますので、日本軍が我が国を攻撃するならこの重爆撃機を運用するはずです」


「しかし重爆撃機は空母での運用は出来ないだろう?どこかを占領して飛行場を作るということか?」


「はい、大統領。アラスカ・グアテマラ・ニカラグアが考えられます。これらの地域のどこかが占領されて飛行場の建設がされると、連中の九八式重爆撃機の行動半径にアメリカ全土が入ってしまいます」


 ※グアテマラやニカラグアなどアメリカの影響力の強い国々も、日本に対して宣戦布告している。


「防衛の範囲が広すぎるな・・・。対策はあるのか?」


「大規模な飛行場建設が可能と思われる地域には、陸軍部隊を送ります。国内徴兵組の訓練も進んでおりますので、5月までには600万人が任官できる予定です。その後も毎月120万人が訓練を終了します」


「ジャップの上陸を阻止できれば良いが、万が一どこかに飛行場の建設を許してしまった場合はどうする?敵の重爆撃機対策はできているのか?」


「はい、大統領。排気タービン装備のP47戦闘機の量産が始まっております。この戦闘機は13200mの高さまで上昇できるので、重爆撃機を十分に迎撃できます。また、各拠点や都市には新開発のM1・120mm高射砲の配備が進んでおります。この高射砲は最大射高18000mでかつレーダー連動射撃ができるので、対策は万全です」


 アメリカ軍は120mm高射砲の量産を開始し、本土の主要拠点や都市への配備を進めていた。その生産と配備の速度はすさまじく、3月には月産300門にも達している。また、排気タービン装備のP47も量産に入っている。それまでは、B17やB29の生産を優先していたのだが、本土防衛に戦略爆撃機は必要ないためその生産を中止し、全てのリソースを防衛的な装備の生産に当てている。


 海軍艦艇を作っていた造船所のほとんどは破壊されてしまっているが、内陸部にある航空機工場や製鉄所などは無傷であったため、短期間での大増産を実現できたのだ。


 そして、日本軍の九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機の戦闘半径は800kmと言われているため、内陸部を爆撃しようとすると日本軍の重爆撃機は護衛無しになる。そうすれば、新開発のP47戦闘機で十分に迎撃が出来るはずだ。


「とにかく日本軍の足止めをするんだ!本土にさえ上陸されなければ、なんとか講和にこぎ着けることができるはずだ!」


 ――――


 ハワイ共和国独立


 1942年3月20日


 ハワイ共和国の独立式典が執り行われた。


 臨時憲法が発布され、すぐに国政選挙が実施された。上院と下院議員、そして大統領が選出される。


 旧王族を国王に推挙して立憲君主制での独立を検討していたのだが、ハワイの王族はヨーロッパ人との混血が進み、また王家の血を引く者全てが国王への就任に難色を示したのだ。その為、完全な共和国となった。


 そして、新政府が発足後最初に実行したのが、先住民や日系人に対して私刑や暴力行為を行った犯罪者の検挙であった。


 1941年12月の日米戦争開戦直後の暴動で、このハワイでも多くの日系人や先住民がアメリカ人に襲われ、殺害された犠牲者も多い。そして、その暴動に加わったとされたアメリカ人は全員証拠不十分で釈放されていた。それに対して、暴動から自らの財産や生命を守ろうとして反撃をした日系人の多くが逮捕されていたのだ。


 日系人や先住民の釈放は占領後すぐに行われたのだが、暴動に参加したアメリカ人の検挙が手つかずだった。そして、被害者からの聞き取りを元に被疑者のリストアップが実施され、次々に逮捕されていった。


 その逮捕者の人数は、実に2万3000人にも及んだ。


 暴動による死亡事件に関与した者については原則死刑が適用された。そして、商店の破壊や略奪、暴力行為に関与した者には、懲役5年から無期懲役の判決が出される。彼らは、それまで白人が経営し日系人や先住民を奴隷のように働かせていたプランテーション(農場)で、サトウキビの栽培に従事することとなった。


 また、それ以外のアメリカ民間人や軍人は、イギリス軍の艦船に乗ってアメリカ西海岸に強制送還された。

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