第382話 ハワイ侵攻作戦(2)

 1942年2月3日0時00分


 ミッドウェー近海にて補給を完了させた連合艦隊と、陸軍九八式重爆撃機による合同作戦が開始された。


 日本はアメリカに対してハワイの無血開城を要求していたのだが、それは残念ながら無視されてしまった。イギリスの調停工作も不調に終わり、ハワイ侵攻作戦が開始されたのである。


 空母瑞鳳と玉鳳を発艦した九七式戦闘攻撃機による精密爆撃が実施された。高射砲の届かない11000mの高空から、ハワイの司令部や陣地、ヒッカム飛行場に対して爆弾が投下される。


 特に、12月7日の攻撃(自演)によって破損していた戦艦アリゾナ・オクラホマ・メリーランドは、動くことこそ出来ないがその5インチ速射砲が生きているため、最優先で目標にされた。


 九七式戦闘攻撃機から投下された爆弾は、一発も外すこと無く戦艦の砲塔や甲板を捕らえる。500kgの高性能炸薬弾による攻撃によって、三隻の戦艦は大爆発を起こし機能を停止した。


 ハワイのアメリカ軍基地への攻撃を予告していたので、基地の周りから民間人の避難は完了している。現地の諜報員からも確認がとれていた。


 高射砲陣地を粉砕した後は、九八式重爆撃機250機による爆撃が開始される。深夜に開始されたオアフ島への爆撃は朝方まで続いた。


 東の空が少し白んできた頃に、日本軍の爆撃は終わりを告げた。ミッドウェーと1000kmほど離れているので、さすがに補給してすぐに再攻撃とはならなかったのだ。


「消火班!石油貯蔵タンクへの延焼は絶対に防ぐんだ!負傷者の救護を急げ!」


 あらかじめ爆撃の予告がされていたこともあり、人的被害はそれほど多くは無かった。それでも高射砲陣地に居た者達をはじめとして100人ほどの死傷者は出ているだろう。


 ウオオオォォォーーーン!


「空襲警報だ!負傷者を担いで壕に逃げ込め!」


 空には朝焼けに染まった雲と火災の煙しか見えないが、空襲警報が鳴ったと言うことは敵機が近づいてきているのだろう。レーダーは破壊されているので、高台から見張り員が発見したのだと思うが、何かの見間違いであって欲しいと願った。


「なんだ・・・あれは?」


 西の空から見えてきたのは、灰色に塗られた小さな飛行機の大軍だった。音も無くとても低速で迫ってきている。


「あれは、ブリーフィングで説明のあった無人機か!?」


 ハワイの米軍基地に飛来した多数の無人小型機は、次々に降下を始める。すぐ近くに天井のある防空壕があれば良いが、建物の陰や塹壕に退避した兵士達は上からなら丸見えだった。そして、その無人機は次々に米兵に向かって体当たりを開始した。


 ハワイは、阿鼻叫喚の地獄と化してしまった。


 得体の知れない小型機が自分を見つけて体当たりをしてくるのだ。配給されているM1ガーランド小銃を撃っても全く当たらない。ブリーフィングによれば紙で出来てると説明があったので、弾が当たっても突き抜けてしまっているのかもしれない。無機質な機械のはずなのに、それは生命を与えられた人造人間(ホムンクルス)のようにも感じてしまう。とにかく、はじめて戦闘を経験するアメリカ兵にとっては信じられないくらいの恐怖体験だったのだ。


 この小型無人機は、高高度に滞空している日本軍哨戒機と衛星を使って日本から操縦されている。完全に安全な場所から一方的な攻撃をかけることが出来るのだが、この一回の攻撃の後、しばらく使われることが無かった。


 日本で操縦していた若い兵士達が、精神異常を起こしてしまったのだ。


 操縦の任務に当たっていたのは、パイロットの訓練を受けていた陸海軍の若い飛行兵達だった。実際にパイロットとなって戦場に行く前に、無人機での任務は操縦技術にとってプラスになると考えられてのことなのだが、それが裏目に出てしまった。


 命中の直前まで、米兵の顔が鮮明に見えてしまったのだ。背中から当たる場合はまだ良かったが、無人機の方を振り向いて両手を挙げて命乞いをしても、もう攻撃を止めることは出来なかった。低速と言っても時速100km程度は出ているのだ。スティックを操作しても、すぐに進路は変わらない。


 それに、無人機相手に降伏の意思を示しても捕虜にする事は出来ない。例え戦う意思を喪失していたとしても、軍服を着ている者には攻撃するように命令が出ていた。生真面目な若い兵士達は、その命令を実直にこなした。そして、ある程度の兵士が精神に異常を起こしてしまったのだ。


 ――――


 夜明けと同時に妨害電波を停止して、ハワイ周辺に展開している米戦艦部隊に対し山本長官の名前で通信を送った。


「ハワイ基地は完全に無力化した。無条件降伏を要求する。3時間以内に降伏を受け入れない場合、アメリカ艦隊全艦を撃沈する」


 それを戦艦ウエストバージニアの艦橋で聞いていた太平洋艦隊司令官のニミッツ大将は、苦虫をかみつぶしたような渋い顔をしていた。


「ラマ-大尉。どうするかね?ハワイ基地も空母艦隊も全滅。残っているのはこのウエストバージニアと5隻の戦艦、それに旧式の巡洋艦が少しだけだ。それに、ご丁寧に我々のいる座標まで教えてくれている」


 ニミッツはつきあいの長い副官のラマ-大尉に問いかけた。理知的な判断が出来、最も頼れる部下であった。


「はい、ニミッツ司令。ハルゼー司令からの報告では日本軍の魚雷は艦底で爆発をするそうです。そうであれば、戦艦の装甲をもってしても防ぎようがありません。それに、連中には対戦艦用の巡航ミサイルもあります。これは厚さ900mmの装甲を打ち抜ける性能があるということなので、いずれにしても、日本軍に一矢も報いることは出来ないでしょう」


「そうだな。我々の選択は二つだけか。このまま突撃をして多くの兵を死なせるか、降伏をして全員の命を救うのか・・。どちらを選択しても、日本軍に傷一つ付けることが出来ないということに変わりはないのだがね」


 こうして、太平洋艦隊司令のニミッツは降伏を受け入れた。キンメルの後任として太平洋艦隊司令に就任して、たった約一ヶ月後の事だった。

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