第381話 ハワイ侵攻作戦(1)

「ほとんどの都市が爆撃によって廃墟になり、二発の核爆弾を落とされ300万人以上の国民の命と引き替えに得た物が無条件降伏だったのです」


 太平洋戦争終結までの詳細を聞いた石原は、その甚大な被害にため息を吐く。


 そして、戦後の復興から高度経済成長、バブル崩壊、中共の躍進、そして加速器の事故までの話を聞いた。


「すると300万人もの同胞を殺されたにもかかわらず、国民はアメリカを憎まず“ともだち”として付き合っているということなのか?それに、ドイツはポーランドやフランスとも和解して同盟国になっていると・・・・。信じられない世界だな。高城くん、私をだまそうとしているんじゃないだろうね?」


「石原先生。今話した事は全て事実です。日本人はその敗戦を受け入れ、戦争をしない事を誓って再出発しました。そして“世界に良い影響を与えている国”調査で何度も一位に輝く事が出来ています。好印象や尊敬に関する調査でも、常にアメリカより上位で毎年5位以内には入っているんですよ」


「なるほどなぁ。それは誇らしい事だな。では、高城くんの世界では日本が敗戦して“良かった”ということなのかい?」


 石原は、嫌みな笑みを浮かべて高城蒼龍に問いかける。まるで負け犬を見るような目だ。


「どうでしょう?もし勝っていたら、どうなっていたでしょうね。国民は自由を謳歌していたでしょうか?経済力で世界第二位の地位まで昇る事が出来たでしょうか?正直わかりません。ただ、敗戦によって日本人は世界中の誰よりも平和の尊さを学んだ事は間違いないでしょう。例え、それがアメリカの核の傘の下の、偽りの平和だったとしてもです」


 石原は“ふんっ”と鼻を鳴らして高城を見る。満州国を手中に収めようとしていた野心家からすれば、高城の知っている日本国民は惰弱に見えたのかもしれない。


「で、高城くんは私に何をして欲しいんだね?前世の思い出話を聞かせる為だけに会ってくれたわけではないのだろう?」


 高城蒼龍は石原のその言葉を聞いて口角を上げる。さすがは石原莞爾だと改めて感心した。


「石原先生、本題はここからです」


 ――――


 1942年2月1日 ミッドウェー


 滑走路の修復も終わり、陸軍九八式重爆撃機が次々に着陸してきていた。


 そして、世界中の通信社および、英仏の軍人を招待してハワイ攻略作戦の説明会が開催される。


「それでは、250機の重爆撃機によってハワイのパールハーバーと飛行場を廃墟にすると言う事でしょうか?」


 ロイター通信社の質問に牛島満中将が答える。


「その通りです。大型拠点のみならず、どんなに小さな拠点であっても、一つ残らず爆撃によって破壊する予定です。ハワイのアメリカ軍拠点は、人工衛星と偵察機の画像によって30cm単位で把握しているので、民間人への被害を最小限に抑えて攻撃する事ができます。続きはこちらの士官が説明させていただきます」


 牛島中将の傍らに立っていた、紺色の制服を着た宇宙軍女性士官が会釈をする。そして、大型ディスプレイに表示される画像を示しながら説明を引き継いだ。


「人工衛星と偵察機のカメラは、赤外線領域から紫外線領域までの画像を取得します。その情報は東京の宇宙軍本部に送信され分析にかけられます。そして各種フィルターを通して分析をすると、ジャングルの中に隠してある地下壕の入り口もこのように映し出す事が出来ます」


 ディスプレイには、地下壕の入り口やカモフラージュネットの下にある戦車や対空砲の位置が映し出されている。さらに、赤外線画像には兵士一人一人の位置まで写っている。


「さらに今回は、小型無人機を大量投入する予定です」


 そこに、全面灰色に塗られた全長2m、翼幅5mくらいの飛行機が持ち込まれた。75ccの小型エンジンを搭載し、7kgの爆弾を積んで200kmの航続距離があるという。


「この無人機は段ボール紙で作られていて非常に安価に大量生産できます。そして、胴体には小型の成形炸薬弾を搭載し、カメラによる無線操縦で目標に体当たりするのです。こちらがその実験映像になります」


 ディスプレイには小型無人機が離陸していく姿が映し出される。次に搭載されているカメラ映像に切り替わり、上空から地上のアメリカ軍M3中戦車と歩兵に見立てたマネキンが表示された。


 ※フィリピンで鹵獲したアメリカ軍M3中戦車


「このように、戦車や車両もしくは兵員を発見するとコンピューターが自動的に判断して操縦手のモニターに表示します。操縦手は表示された目標をタッチするだけで、確実に命中します」


 今度は地上からM3中戦車を映し出す。そこに、先ほどの小型機が上空から降下して命中した。


 無人機の大きさの割には激しい爆発が起こり、砲塔正面に穴が開いているのが確認できた。周りに立たせてあったマネキンも破壊されている。


「この小型無人機を今回は1000機以上用意しています。航続距離は200kmほどなので、目標の近くまでは艦船で運んで発進させます。そして、爆撃から生き延びた残存兵をこの無人機で無力化する事ができるのです。しかも、この無人機は安全な日本から操縦しているのです。今後は、日本兵が直接戦闘するのではなく、このように無人機や無人戦車が活躍するようになるでしょう。そうする事によって、一人の戦死者も出す事無く、アメリカを降伏に追い込む事ができると考えています。味方の死傷者が出ない、とても”人にやさしい”戦争になっていくでしょう」


 紺色の制服を着た女性士官がにこやかに説明する。それを聞いていた通信社や英仏の軍人達は背筋が凍り付くほどの寒気を感じていた。


 今までも日本軍は一方的な攻撃を実施していたが、それはなんとなく理解できる攻撃だった。しかし今説明のあった小型無人機は、まるで機械が意思を持って人間に襲いかかってくるような、そんな恐怖を感じさせるものがあったのだ。

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