第372話 ミッドウェー海戦(3)
ミッドウェーから北西に500kmの海上、択捉島単冠湾を出港した大日本帝国連合艦隊が、一路ミッドウェーを目指していた。
連合艦隊司令長官 山本五十六大将
旗艦 重巡摩耶
第一空母打撃群 司令 山口多聞
空母 赤城
空母 加賀
第五空母打撃群司令 小沢治三郎
空母 瑞鳳
第七空母打撃群 司令 御須磨(みすま)ゆりか 宇宙軍所属
空母 玉鳳(ぎょくほう) (改大鳳型)
今回新編された第七空母打撃群は、改大鳳型の大型空母「玉鳳(ぎょくほう)」を中心とする航空艦隊だ。司令の御須磨ゆりか(37歳)は宇宙軍士官学校一期生随一の才女であり、将来は宇宙軍を率いていくことを嘱望されている。ちなみに15歳と13歳の子供を持つシングルマザーだ。
※空母 玉鳳 大鳳型空母の6番艦 リベットではなく全溶接で建造されているため、軽量化と強度アップが実現されている。改大鳳型と呼称される。
「御須磨(みすま)司令、旗艦摩耶より入電。“砂漠に飛ぶのはサボテンの棘”、“砂漠に飛ぶのはサボテンの棘”です」
通信士官が御須磨に電信の符丁を報告する。この空母玉鳳の乗組員は全員宇宙軍の軍人で構成されていて、その6割が女性兵士だ。
「よし!現時点で無線封鎖を解除。九七式艦上戦闘攻撃機、ミッドウェーに向けて全機発進!」
――――
連合艦隊旗艦 重巡摩耶
「宇垣参謀、ついに始まったな」
山本五十六は、目の前のディスプレイに映し出される戦況図を凝視していた。
空母瑞鳳と玉鳳からは爆装した九七式艦上戦闘攻撃機80機、赤城と加賀からは九九式艦上戦闘機88機が対空ミサイル装備で飛び立っていく。その様子がリアルタイムで表示されていた。
「はい、山本長官。しかし、対米戦争計画がこのような形で現実の物になるとは、複雑というか残念な感じがしますな」
※海軍では常に対米戦争の研究を重ねていた。
「そうだな。まさかアメリカが偽旗作戦を実行して市街地に核兵器を使うなど、想定外だったよ。さらなる核攻撃を防ぐためとはいえ、アメリカへの核攻撃で市民200万人以上の犠牲が出ている。どうせ戦争をやるなら、民間人を巻き込まず正々堂々としたかったな。軍人の私が言うのもおかしな事だが、現代の民間人を巻き込む戦争などろくなものではない。 “この日米戦争を人類史における最後の戦争にしなければならない”か。私もその意見に賛成だよ」
「大本営で宇宙軍の高城(たかしろ)参謀総長が言った言葉ですか。しかし、そうなると我々も失業してしまいますな」
※高城蒼龍の宇宙軍参謀総長任官は戦時特例人事。平時は天皇が兼務している。
「失業か。それも良いでは無いか。最大の脅威だったソ連はもう存在しない。この戦争に勝って、次に中国の内戦を収めれば世界から不安定要素は無くなるよ。アフリカやアジアでの小規模な戦争は起こるかも知れないが、国際連盟を強化することによって押さえ込む事が出来るようになる。平和な世界の実現だ」
――――
同時刻 ミッドウェー
「日本軍と思われる無線通信を確認!北西の方向です!」
ミッドウェー基地では、撃沈された空母から飛来した艦載機の着陸作業が必死で行われていた。この海域で撃沈された5隻の空母から、約160機の航空機が避難してきている。そして、ミッドウェー基地にはもともと130機の航空機が駐機しており、明らかにキャパシティオーバーに陥っていた。
「無線封鎖を解除したという事は日本軍からの攻撃があるぞ!着陸はいったん中止だ!戦闘機隊を発進させろ!」
日本軍の高性能なジェット戦闘機を相手にしては、F4F戦闘機で対抗できるはずも無い。しかし、何の抵抗もせずに降伏する事などあり得なかった。
「くそっ!空母機動艦隊は全滅したんだぞ!これでどうやってこのミッドウェーを防衛できると言うんだ!」
基地を任されているライル司令には、空母機動艦隊と連携してミッドウェーを守り切る事が厳命されていた。しかし、日本軍の潜水艦攻撃によって空母機動艦隊は全滅したとの報が入る。そしてその艦載機がこのミッドウェーに避難してきているのだ。
空母機動艦隊を撃滅させたと言う事は、日本軍は本気でミッドウェーを占領するつもりだろう。今ある航空戦力だけで日本軍を押し返す事は不可能だ。迎撃に上がらせた戦闘機隊はおそらく全滅、そして、日本軍機による爆撃によって基地は大損害を受けて降伏を余儀なくされるはずだ。
それが解っているにもかかわらず、降伏を選択する事は許可されていなかった。
「ライル司令!エンタープライズ所属のドーントレス爆撃機部隊から入電です!日本の機動部隊に対して攻撃をかけると言っています!」
「バカな!止めさせろ!返り討ちに遭うだけだぞ!せっかく拾った命を無駄にするな!」
着陸待ちだった味方航空機に北西より日本軍が接近してきているので着陸を後回しにすると伝えたところ、そのほとんどが日本艦隊へ攻撃をするために転進してしまった。皆、アメリカ市民が虐殺されたこと、そして、母艦が攻撃されて多くの戦友を失った仇をとりたかったのだ。
「馬鹿野郎ども・・・帰りの燃料も無いだろうに・・・」
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