第371話 ミッドウェー海戦(2)
おそらく、アメリカ艦隊の行動は衛星からの偵察によって筒抜けになっているはずだ。それに対して、日本側の動きは全くわからない。
ハルゼーは、できる限りの航空機を索敵に飛ばして警戒に当たらせている。また、ミッドウェーの飛行場から陸上機にも索敵をさせていた。それでも、せいぜい半径300kmほどの範囲しか索敵できないのだ。広大な太平洋から比べると目隠しをしているのと変わりは無かった。
「駆逐艦エバールより入電!魚雷と思われる推進音を確認!QCソナーには反応がありません。かなり距離があると思われます!」
※QCソナー アメリカ軍が実用化したアクティブソナー。距離が遠いと探知できない。
「潜水艦の攻撃か?雷跡を見落とすな!爆撃機を発進させろ!」
今日はよく晴れているので、魚雷発射深度にいる潜水艦であれば、空から見えるはずだ。
「潜水艦をなんとしても見つけろ!ありったけの爆雷を投下してやれ!」
アメリカ軍は水圧式起爆装置では無く、磁気感知型の航空爆雷を実用化していた。潜水艦を発見できれば、高い確率で撃沈できるはずだ。
「魚雷、依然接近してきます!雷数、およそ10!深度・・・・200m!」
「なんだと!魚雷が深度200!?バカな!」
魚雷が深度200mで進んできているのであれば、その深度でも魚雷を発射出来ると言う事だろう。この深度で活動されては、上空から発見することは不可能だ。
「その深度じゃぁ雷跡は見えないな。空母以外はとにかく回避行動だ!」
日本軍の魚雷は、アクティブソナーによる追尾機能があるとの事だ。そうであれば、回避行動をとっても無意味である可能性が高い。そのため、空母は回避行動をとらず、爆撃機の発艦を優先している。万が一このエンタープライズが被雷してしまっても、空にいればミッドウェーに着陸できるはずだ。
「重巡ソルトレイクシティ、ノーザンプトン被雷!」
エンタープライズの前方800mほどを航行していた重巡2隻が、爆発によって一瞬浮き上がったように見えた。通常の魚雷による水柱では無く、艦の周りの水面が盛り上がったような爆発だった。
「くそっ!こっちもやられるぞ!衝撃に備えろ!」
艦橋でハルゼーが叫んだ瞬間、激しい衝撃がエンタープライズを襲った。爆発によって巨大なエンタープライズは数十センチ浮き上がったのだ。
「ハルゼー司令!大丈夫ですか!?」
そして次の瞬間、随伴する6隻の駆逐艦のうち5隻も同じように被雷してしまう。
「艦底に被雷した模様です!ボイラー室に大量の浸水!防ぎきれません!」
「隔壁閉鎖!ボイラー室を放棄!人命を最優先させろ!」
ホワイト艦長は、次々に入ってくる被害報告に対して的確に指示を出す。ボイラー室がやられたと言う事は、もはや作戦行動はとれない。そうであれば、やるべき事は人的被害の最小化だった。
日本軍の使用した長魚雷は、最大射程50kmの高性能を誇る。しばらくは有線誘導によって敵艦に向かっていき、スクリュー音を探知できるようになればパッシブ誘導に切り替えられる。そして、最終誘導はアクティブソナーによって目標艦の艦底4m下で爆発をするのだ。
搭載された400kgの炸薬の爆発によって、艦の中央部が下から持ち上げられる。そして、爆発は瞬時に収縮し今度は艦底を下方向に引っ張るのだ。短時間の間に、上方向と下方向の巨大な力を加えられた艦底は、その圧力に耐える事が出来ずに裂けてしまう。小型の駆逐艦や軽巡なら、艦が真っ二つに折れて沈没するのだ。
エンタープライズのボイラーは浸水によって水蒸気爆発を起こしてしまった。その水蒸気のすさまじい圧力は、上部の隔壁を破って航空機格納庫に噴出して、航空要員を焼き殺してしまった。
「なんとしても沈没だけは食い止めろ!うぉっ!」
必死のダメージコントロールをしているところに、さらに激しい爆発の衝撃が響いた。
「何だ!誘爆か?」
「艦底で爆発が起こりました!重巡ソルトレイクシティとノーザンプトンの艦底でも爆発が起こっています!第二次攻撃の可能性あり!」
「くそったれ!轟沈するまで撃ってくるつもりか!」
被雷した駆逐艦5隻はすでに真っ二つに折れて轟沈している。なんとか耐えていた空母と重巡2隻も、第二次攻撃によって沈没は免れないだろう。第16任務部隊で無傷なのは、駆逐艦エバールだけだった。
「ハルゼー司令。総員退艦を発令します。司令も救命胴衣を着用してください」
ホワイト艦長が悔しそうに唇をかんでいる。1938年に就役したこの空母エンタープライズは、敵の姿を一度も捕らえる事無く海の底に消えてしまうのだ。海軍軍人にとって、これほどの屈辱は無かった。
この日、日本海軍の潜水艦による攻撃で、エンタープライズ以下5隻の空母と、重巡11隻、軽巡8隻、駆逐艦19隻を失ってしまった。
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