第370話 ミッドウェー海戦(1)
アメリカとカナダの国境にあるセント・ローレンス川の岸に、アメリカ内陸部からかき集めたアメリカ陸軍および州軍の部隊が集結しつつあった。
開戦初日の核攻撃によって、沿岸から500km程度の陸軍基地は甚大な被害を受けていたが、巡航ミサイルの届かない内陸部には、ある程度の戦力が残っていたのだ。そして、その残存部隊の一部を、カナダとの国境に集めていた。
「ケベック橋の保全を実施する!」
そして、セント・ローレンス川の岸に集まったアメリカ軍は、川にかかっている橋を素早く占領していった。
これは、テロリストによる破壊から守るためという理由だ。セント・ローレンス川に架かる橋の多くはアメリカとカナダの共同事業で作られた物だったため、それを保全する義務はアメリカにもあるという理由で、国境を越えて進駐した。
しかし、本当の理由はカナダ軍による破壊を防ぐためだ。もしアメリカとカナダが戦争になったら、カナダは国境の橋を破壊するだろうと予測されたためだ。
そしてそれに対応するカナダ軍は、アメリカ軍の行動を遠巻きに見守ることしか出来なかった。
開発されたばかりのM3中戦車を大量に投入してきたアメリカ軍に対して、小銃と少しの機関銃しか装備の無いカナダ軍に対抗する手段など無かったのだ。
「最後通牒だ!キング首相(カナダ首相)に伝えろ!米加同盟の維持とアメリカ軍進駐の許可を出せと!もしも拒否する場合、アメリカは自衛のための必要な手段を講じる!」
もう後の無いルーズベルト大統領は、カナダに対して最後通牒を突きつけた。もし拒否をすれば、セント・ローレンス川に集結したアメリカ軍が、50km先のオタワ(カナダ首都)を1日で占領すると。
――――
カナダ オタワ
「くそっ!アメリカめ!イギリスから返答は無いのか!イギリス軍には日本製の武器もあるんだろう!それを持ってきてくれればアメリカを押し戻せる!」
アメリカがカナダに進駐した場合、イギリスはアメリカに対して宣戦布告を“検討する”と警告を出していた。しかし本音では、アメリカ軍がカナダに侵攻してもアメリカに対して宣戦布告するつもりは無かったのだ。
大西洋を挟んでいるので、イギリスの装備では大規模な陸上兵力を輸送できないという事もある。それに、日本から供与された兵器は、自国の防衛か、もしくは日英同盟の発動による参戦以外に認められていなかった。
今回は、アメリカの侵略からカナダを防衛する目的であるため、日本製の兵器は使えない。旧来の兵器だけでは、アメリカに対抗は出来なかった。
※日本とカナダは戦争状態にあるため、日本の敵であるカナダを助けるために日本の兵器を使うことが許可されなかった。
※1900年代初頭に、アラスカの国境問題でアメリカはカナダ国境に陸軍を集結させて恫喝した前科がある。しかも、この時イギリスはアメリカ側に立って仲裁を進めた。
アメリカとしても、出来ればカナダと武力衝突を起こしたくは無い。そのため、恫喝をしつつカナダの講和を見守っていた。
――――
1942年1月10日
ミッドウェー近海
アメリカ軍の保有する空母、戦艦、巡洋艦、潜水艦のほとんどが、ここミッドウェーとハワイ近海に集結しつつあった。
空母艦隊はその機動力を活かしてミッドウェー近海まで前進し、戦艦および旧式重巡は防衛のためハワイに集結している。
ハワイを失陥してしまえば、アメリカ大陸上陸への足がかりを与えてしまうためだ。
「くそっ!このハワイを死守してもカナダが降伏してしまっては意味が無いだろう!」
第16任務部隊を率いるハルゼー司令は、旗艦エンタープライズの艦橋で本国からの電文に目を通していた。
「圧倒的な核攻撃と、フィリピンがたった1日で陥落した事実を突きつけられましたからね。カナダの臆病者達が日本に尻尾を振ってしまうのも仕方がありません。カナダの離反を防ぐためにも、このハワイとミッドウェーで日本軍に勝利するしか無いでしょう」
激情的でブル(猛牛)ハルゼーと言われる司令官に対して、エンタープライズのホワイト艦長は冷静沈着との評判があった。
「まあ、その通りだな、ホワイト艦長。事ここに至っては、全戦力を持って日本軍に打撃を加える必要がある」
日本はアメリカ侵攻のために、必ずミッドウェーとハワイを占領すると予想されていた。ハルゼー達の使命は、この日本軍を押し返すことだ。
「そうですね、ハルゼー司令。しかし、フィリピンを攻撃した空母機動艦隊はそのままフィリピンに留まっていますし、ハワイを攻撃した南雲艦隊は、傷ついてなんとか日本に帰り着いたばかりです。そのほかの空母もヨーロッパから帰って来てドック入りしていると聞きます。このまま膠着状態が続いてくれれば良いのですが」
「甘いな、ホワイト艦長。卑怯な騙し討ちをしてきて、さらに核攻撃で200万人ものアメリカ市民を虐殺したモンキーどもだぞ。戦争狂のクレイジーな連中がおとなしくしているはずは無いだろう。いつ攻撃があっても不思議では無いな」
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