第373話 ミッドウェー海戦(4)
「御須磨(みすま)司令。ミッドウェーから約200機がこちらに向かっています。距離300km、高度は2000mから5000mです」
電測士官は哨戒機や巡洋艦から送られてくる情報を的確に分類し、御須磨に逐次報告をする。そして、その情報を元にして御須磨は最適な判断を下す。
「敵機は九九式艦上戦闘機に任せて、九七式艦上戦闘攻撃機はミッドウェー基地の爆撃に専念しろ。巡洋艦隊、対潜対航空警戒を怠るな。同士討ちには十分気をつけろ」
今回新編された第七空母打撃群は、空母玉鳳こそ宇宙軍所属なのだが、それを護衛する巡洋艦隊は海軍から臨時編制されている。これは、ドックに入っている大鳳型空母の点検が終わらなかったため、点検が早く終わった巡洋艦を回してもらったのだ。
第七空母打撃群に配属された海軍士官の中には、宇宙軍の指揮下、それも女性将官の下に入る事に不快感を示す連中もいたらしいが、御須磨は彼らの事を鼻で笑っていた。
“それが嫌なら、自分が実力を示せば良いだけだ”
15歳で宇宙軍士官学校に入学した御須磨は、幼年学校組とは違い不遇な家庭で育ったわけでは無い。宇宙軍の士官学校は女子でも受験できると聞いて親の反対を押し切って受験したのだ。
そして士官学校で頭角を現し、第一期を首席で卒業する。
任官後数年で妊娠が発覚してしまったが、宇宙軍の福利厚生は非常に充実していて任務に全く支障は無かった。相手の名前を明かす事はないが、唯一、それが自分にとって“女”の部分であったと思っている。
1932年の黒海会戦では、ロシア軍に派遣された駆逐艦の艦長として大任も果たし、順調にキャリアを重ねてきた。
しかし、宇宙軍の外では“女だてらに”とか“ててなし子を産んで”などと後ろ指をさされ、実家からは勘当されてしまったが、それに屈する事無く努力を続けてきたのだ。
だからこそ思う。不平不満を言う時間があったら、国家の平和のために尽くせと。
――――
北西を目指していたアメリカ軍航空部隊は、自分たちの上空5000mくらいの高空を飛行する日本軍機を発見した。しかし、これだけの高度差があるととてもではないが迎撃は出来ない。
ミッドウェー基地に連絡をしたいが、妨害電波によって無線は封鎖されている。彼らは迎撃をあきらめて、日本艦隊がいると思われる方角を目指した。
「くそっ!あの高さじゃどうしようも無い。なんとかジャップの艦隊を見つけて一矢報いなければ」
日本艦隊に向かっている機数は約200機に増えている。撃沈された空母から避難してきた爆撃機達が、ミッドウェーへの着陸をあきらめて日本艦隊の攻撃に加わって来た。彼らの多くは、おそらく帰りの燃料は無いと思われる。それにも関わらず、爆弾を抱えて戦列に加わっているのだ。
「絶対俺たちが守ってやる!」
F4F戦闘機の操縦桿を握るサザーランド中尉は、ノーフォークで消滅した戦友達の事を思いながら神に誓う。あの悪魔達を絶対に許さないと。
北西の空をにらんでいると、前方を飛ぶ僚機のF4Fが翼を揺らしてチャフを放出した。それに気づいた者達もチャフを一斉に放出する。
日本軍のミサイルを見つけたのだ。
欧州での戦訓から、日本のミサイルはマイクロウェーブレーダーによって敵を捕捉していることは解っていた。その為、その波長を乱す事の出来る大きさのチャフを研究していたのだ。
そして、放出したチャフは相当の効果を上げる事が出来た。
かなりの数のミサイルが、チャフによる電波の乱反射によって軌道を逸らされ、目標をとらえる事無く通り過ぎて行ったのだ。
「よし!効果はあった!」
命中率90%以上と聞いていたミサイルだったが、その半数以上が目標を外した様子を見てサザーランド中尉は歓喜した。妨害電波によって無線は使えないが、きっと誰かが生還してその事を報告してくれるだろう。偉大なるアメリカなら、きっと短期間で日本の技術に追いつく事が出来るはずだ。その為にも、自分たちは少しでも抵抗しなければならないのだ。
しかしそれでもかなりの機数が撃墜されたのは間違いない。残存兵力は100機と少しだろう。
「ん?日本軍機か?」
正面の少し上方に、こちらに向かってくる機影が確認できた。数は70機くらいだろうか。その機影はだんだんと大きくなってきた。
サザーランド中尉はF4Fの翼を揺らし、僚機に発見を伝える。そしてスロットルを全開にして速度を上げた。
「ドッグファイトなら負けないぜ!」
――――
ミッドウェー基地
「パイロットは防空壕に入れ!高射砲部隊、味方の機を撃つなよ!」
ミッドウェー基地のライル司令は、空母から避難してきたパイロット達に防空壕への待避を命じた。地上基地でパイロットが出来る事は知れている。貴重なパイロットを無駄に失うわけにはいかなかった。
日本軍の無線封鎖が解除されて5分ほどで、基地のレーダーや無線が一切使えなくなってしまった。日本軍の妨害電波だ。こうなってしまっては、敵の接近も観測員頼みになる。また、迎撃に上がった戦闘機部隊がどうなったかも判らない。しかし、少しでも生存の可能性を高めるために、出来る事はすべてしなければならなかった。
「煙幕を焚く!重油も燃やすんだ!少しでも見えないようにしろ!」
ミッドウェー基地のライル司令は、日本軍の爆撃を少しでも妨害するために煙幕と重油の燃焼を命じていた。しかし、この小さい島に航空機200機以上と兵員3000名が駐留している。簡易な防空壕はあるので人員の損害は防げるだろうが、航空機のほとんどは露天駐機だ。爆撃による破片を喰らうだけで飛べなくなってしまうだろう。
「北北西の方向!未確認機です!高度約10000!機数およそ60!」
「来たか!高射砲部隊以外の基地要員は全員防空壕に入るんだ!高射砲部隊、頼むぞ!」
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次回更新は18日水曜日です
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