第365話 マニラ制圧作戦(1)

「バカな!補給や増援も出さずフィリピン駐留軍を使いつぶす気か!?」


 本国のマーシャル陸軍参謀総長からの命令を受け取ったマッカーサーは、顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。


 日本軍からはフィリピンに駐留するアメリカ軍に対して、12月18日午前0時(現地時間)までに降伏をするようにとの勧告がされている。また、この降伏勧告は全世界の新聞やラジオでも報道された。もちろんアメリカでも報道されている。この猶予期間に降伏をしなければ、フィリピン駐留軍に対して苛烈な攻撃を開始するということだ。


 これに対してアメリカ本国からの指令は「降伏は許可しない。出来るだけ現状の戦力で持ちこたえるように」ということだった。


「しかも、虎の子のB17とB29をオーストラリアに待避させろだと!?ふざけるな!」


 日本は対ソ戦が終了して3ヶ月しか経過しておらず、陸上兵力の太平洋方面への配置転換は終了していないはずだ。たしかに、フィリピンに籠もって空襲に耐えていれば一年、いや、半年は持ちこたえることが出来るかもしれない。もっとも、それも補給や増援があってこそだ。


「しかも、全滅直前にはフィリピンを独立させるからその準備もしろと言うのか!?これではただの時間稼ぎだ!」


 本国は、このフィリピン駐留軍15万人を捨て駒にするつもりだ。第一次大戦をヨーロッパで戦ったマッカーサーには、本国の意図が手に取るようにわかった。


 自分自身、西部戦線で部下に全滅覚悟の指示を出したこともある。戦術的に犠牲は致し方のないことだ。祖国と世界平和のために命を投げ出した兵士は、誇りを持って神に召されたことだろう。しかし、今回使い捨てにするのは小隊や中隊ではない。15万もの駐留軍だ。なにより、犠牲になるのは自分自身なのだ。


「コレヒドール要塞の防御を固めるんだ!ありったけの対空砲と高射砲をコレヒドールに集めろ!戦闘機は出来るだけ上空から見えないように隠しておけ!日本はまず航空戦力で攻めてくる!それを押し返すぞ!アメリカ陸軍軍人の意地を見せてやれ!」


 マッカーサーは、コレヒドール要塞とバターン半島に籠城するための準備を指示した。コレヒドール要塞は、マニラ湾の入り口にあるコレヒドール島に構築されている。幅2km、長さ5kmほどのオタマジャクシのような小島だ。もともと、対日戦争計画(オレンジ計画)によって要塞化をしていた。それをさらに防御方面に戦力を集中させる。


 “まあいい、いざとなれば命令を無視して自分と家族だけでも先に逃げよう”


 ――――


 1941年12月18日21時


 台湾県西沙諸島沖


 第六空母打撃群 旗艦 鳳翔(大鳳型大型空母5番艦、初代鳳翔は退役済み)


「岡田艦長、定刻だ。九七式艦上戦闘攻撃機、全機発進!」


 第六空母打撃群を率いる西村祥治司令は、フィリピンに駐屯するアメリカ軍を殲滅するための号令を発した。


 第六空母打撃群は台湾とベトナム方面の防衛を任務として、通常は南シナ海に展開している。そして、フィリピン攻略用装備の補充を受けて、今作戦に臨んでいた。


 10日前、卑怯な偽旗作戦によって言いがかりをつけ、あまつさえ小倉に対して核兵器による無差別大量虐殺を引き起こした連中だ。そんな奴らに対してかける情けなどなかった。


 電柱ほどの巨大な爆弾を2発装着した九七式艦上戦闘攻撃機が、アフターバーナーの火炎を残しながらカタパルトによって次々に飛び立っていく。


 今回は、陸軍との合同作戦だ。台湾から発進した陸軍九八式重爆撃機510機と共に、コレヒドール要塞とバターン半島に立てこもっている米軍を一気に殲滅する。そして、すぐさまマニラに空挺部隊1万人を降下させ、フィリピン政府を制圧することになっている。


 ――――


「マッカーサー司令!レーダーに反応があります!高速で接近するものが約40、その後ろから反応の大きいものが・・・・200以上!」


 円形のPPIレーダー画面を見ていた兵士が叫んだ。開戦から10日、日本軍は早くもフィリピン攻略の準備が出来たということだ。しかし、アメリカ軍も十分に対応が出来ている。このコレヒドール要塞も、苛烈な爆撃に絶えられるようにコンクリートや土嚢で相当補強した。特に本部の置かれた司令部壕は、マリンタ丘の下に掘られた総延長2kmを超える強固なトンネル群の中に位置している。このマリンタ・トンネルはどのような攻撃にも耐えうると言われており、マッカーサーや軍高官の家族達も避難していた。


 それに、実用化されたばかりの射撃管制レーダー連動90mm高射砲を120門設置してある。これは、一台の射撃管制レーダーで4門の高射砲を動かし迎撃をするシステムだ。高精度なマイクロウェーブレーダーによって、敵機を0.06度の精度でとらえることが出来る。さらに、砲弾には近接信管も装備されており、この高射砲の射程圏内に入ってきた日本軍機を確実に撃墜できるのだ。


「さあ来い!ジャップ!目に物見せてくれるわ!」


※史実でも、レーダー管制システム連動の90mm高射砲は1941年から配備が開始されている。今世では、1939年の日本軍の戦訓によって、開発が加速された。

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