第364話 東京宣言

 EATO(東アジア条約機構)の首脳が集まり、各国の連名で「東京宣言」が採択された。


 ・東アジア条約機構は、この戦争の終結の機会をアメリカとその同盟国(以下アメリカ)に与えることで意見が一致した。

 ・アメリカ国民をだまし、間違った戦争に導いた勢力や権力は排除されなければならない。

 ・アメリカ政府は存続し、その責任において平和的な新秩序を確立するものとする。それが確立されるまで、EATO諸国が平和裏に占領し指導する。

 ・この戦争における賠償を、EATOはアメリカに請求しない。

 ・野蛮な暴力、および、先住民の意向を無視した策略によって手に入れた領土は、速やかに開放されそもそも権利を有していた先住民に返還される。最終的なアメリカの領域は我々が決定する。

 ・我々はアメリカ人を奴隷化するつもりもなければ国を絶滅させるつもりもない。しかし、全ての戦争犯罪人に対しては厳重な処罰を行う。

 ・我々はアメリカ政府に対して、アメリカ軍の無条件降伏の宣言を要求する。


 陸海軍からは、報復的な賠償を苛烈に要求するべきとの意見が出たが、戦後、アメリカとも友好的な関係を維持するために、賠償は要求しないとの結論に至った。そして、北米大陸およびオーストラリア・ニュージーランドは先住民のもので有り、本来の所有者に返還することが明記された。


 ――――


 ハワイ沖


 日米開戦時、ハワイ島近辺にいた南雲艦隊は危機的な事態に陥っていた。燃料がないのだ。南米で補給をした後、ハワイに入港して補給を受ける予定だった。一部の艦以外、このままでは、最も近い日本領までたどり着くことが出来ない。


 ハワイを占領する案も検討されたが、欧州戦線からの帰路のためミサイルや弾薬が定数に達していないし、陸戦部隊もほとんどいない。どう考えても不可能だった。


「イギリス・フランスとも、自国領域への入港を断ってきたか」


 太平洋地域には、イギリスやフランスの植民地が多く存在する。しかし、両国とも中立を表明したため、民間船舶以外の入港を拒否してきたのだ。


「まったく、欧州戦線で助けてやったのにここまで恩知らずとはな」


 南雲は悔しそうに歯がみするが、国際政治は軍人が考えるほど単純ではないことも知っている。


 いずれにしても積極的な行動を取ることは出来ない。統合幕僚本部からの指示で、敵潜水艦に注意しつつ、北赤道海流に乗ってマーシャル諸島を目指す事になった。この海域で、補給タンカーから給油を受ける。


 ――――


 アメリカ ワシントン


「何が東京宣言だ!こんなものが受諾できるか!」


 大統領のルーズベルトは、ハル国務長官を始め陸海軍長官を怒鳴り散らしていた。


「おまえ達は南雲艦隊と呉・佐世保に打撃を与えれば、太平洋で動かせる日本軍は無く短期間で勝利できると言っていただろう!それがどういうことだ!南雲艦隊は健在!呉と佐世保への攻撃も失敗!唯一小倉への攻撃は成功したが、それが日本人の怒りに火をつけてしまったんだぞ!それでこっちは20カ所もの都市や基地が消滅!死者も200万人を超えている!どうしてくれるんだ!」


 南雲艦隊と呉・佐世保に停泊している空母打撃軍を葬ることが出来れば、日本の大型空母は2隻のみであり、広大な太平洋で十分な作戦は出来ないと分析していた。しかし、そのことごとくが失敗してしまったのだ。


 幸いにも、ハワイ近海にいた南雲艦隊からの攻撃はなく、今のところ12月7日(日本時間8日)の核攻撃以降の一週間、日本とは大規模な戦火を交えていない。


 しかし、核兵器による応酬こそリバプール条約で禁止されたが、現在点検中の大鳳型空母3隻が再稼働すれば苛烈な反撃に出てくるだろう。



「大統領。日本の艦船の航続距離ですと、補給なしでアメリカ本土への攻撃はほぼ不可能です。西海岸へ到達は出来ますが、帰りの燃料がありません。もし日本が西海岸への上陸を実行するなら、まずハワイを占領すると思われます。なんとしてもハワイだけは死守する必要があります」


 日本の巡洋艦の航続距離は、およそ10000kmから12000kmと見積もられている。この航続距離だと、日本からアメリカ西海岸を攻撃する場合、帰りの燃料が足りない。アメリカ本土を攻撃するためには、どうしてもハワイを必要とするだろう。だから、徹底してハワイの防衛をすれば、日本に勝つことは出来なくとも、負けることはないはずだ。


「しかし、例の核攻撃で空母ワスプとサラトガは消滅、太平洋で動ける空母はレキシントンとエンタープライズだけだろう?この戦力でなんとかなるのか?」


「ハワイで攻撃を受けた戦艦の損傷も軽微なものでしたので、短時間で戦列に復帰できます。また、大西洋のレンジャー・ヨークタウン・ホーネットを太平洋に移動させます。大西洋側の守りがなくなりますが、英仏蘭が中立を表明した以上、日本は大西洋側で補給基地の確保が出来ないので問題ないでしょう」


「わかった。では、フィリピンの防衛はどうするのだ?」


「フィリピンにはB17とB29の戦略爆撃機隊が駐屯しておりますが、日本の防空能力を考えると有効に使う手段がありません。それに、周りを中立国と日本に囲まれているので、補給もままならないでしょう。戦略爆撃機は一度オーストラリアに待避させて、出来るだけ現地陸軍による時間稼ぎをします。フィリピンが陥落するまでは、この方面に日本軍を釘付けに出来ます。もしくは、今回の戦争に対して中立を維持することを条件に、フィリピンを即時独立させるのです。そうすれば、広大なフィリピンの領域において、日本軍は作戦行動も通過も出来なくなります。日本も独立国となったフィリピンに軍事侵攻することはためらうことでしょう」


「なるほど、それは妙案だな。では、ぎりぎりまで現地陸軍に抗戦させて、全滅直前にフィリピンを独立させてやろう。マッカーサーのやつはいい顔をしないだろうが、その方針で行くぞ」

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