第357話 Point of no Return(2)

1941年12月8日午前2時35分(東京時間)


 宇宙軍本部


「バカな!小倉に核攻撃の可能性だと!?」


 汪兆銘のクーデターを受けて、この日、高城蒼龍達は宇宙軍本部に詰めていた。そこへ、小倉に核攻撃を受けた可能性があると連絡が入ったのだ。


「はい、今から10分ほど前です。陸軍の小倉管制もかなりの被害を受けたようですが、なんとか通信を確保しています。巨大な爆発が発生し、市街地の全てが炎上しているとのことです。大刀洗基地の宇宙軍所属多目的ヘリを偵察に向かわせました。あと5分ほどで映像が入ります」


 宇宙軍の女性士官が高城達に報告をする。彼女たちも既に18時間以上連続で勤務をしており、その顔に疲れが見て取れた。


「わかった。ヘリには小倉の東側には絶対に行くなと伝えてくれ。今の時期は強い西風が吹いているはずだ。万が一核攻撃だった場合、放射性物質を浴びてしまう」


 つい数分前に、呉鎮守府と佐世保鎮守府の防衛にあたっていた宇宙軍巡洋艦から、B29が何かを投下したので迎撃したと連絡があったばかりだった。そして、海軍と陸軍に状況を問い合わせた矢先にこの事態だ。


「3機のB29の内、1機の所在が解らないと言うことだったが、その1機が攻撃をしたのか?」


「陸軍から連絡です!呉と佐世保上空を通過したB29を撃墜したとのことです!小倉に爆弾を投下したと思われるB29は南に転進し、熊本方面に向かって飛行しているため、大刀洗からスクランブル発進をして迎撃に向かっているそうです!」


「海軍からも連絡が入りました!ハワイ沖で南雲艦隊が国籍不明潜水艦により待ち伏せ攻撃を受けた模様!重巡妙高と空母大鳳が被雷して死傷者が出ているようです!」


「くそっ!アメリカはいったい何を考えているんだ!」


 欧州での大戦も終わり、平和と繁栄に向かって歩み出そうとしたところだった。アメリカを国際連盟に加入させ、核兵器の共同管理体制の構築をする。そして永遠に対立の無い、恒久平和を実現するはずだったのだ。


「偵察に出したヘリからの映像です!モニターに送ります!」


 宇宙軍本部のモニターに、ヘリからの映像が映し出された。画面の揺れから超望遠での撮影だと解る。


「なんだ・・・・これは・・・・」


 そこには、赤々と燃え上がる小倉の市街地が映し出されていた。製鉄所があったと思われる地域には、溶鉱炉の残骸だろうか、いくつかの建物が存在し、激しく燃え上がっている。そして、その周囲は対照的にほとんど火災も無く、暗い地域が製鉄所を囲んでいた。さらにその外側は、広範囲にわたって大規模な火災が発生しており、所々に火炎竜巻が発生していた。また、上空の雲の中では激しい稲光が発生し、それはまるで龍が踊り狂っているようでもあった。


「ばかな・・・そんな、ばかな・・・・」


 ――――


 1941年12月8日午前4時00分(東京時間)

 1941年12月7日15時00分(ワシントンD.C.時間)


「本日1941年12月7日は、将来、屈辱として記憶に刻まれることでしょう。アメリカ合衆国は、大日本帝国から突然かつ準備周到な攻撃を受けました。アメリカ合衆国は、日本と平和的な関係を維持しており、また、日本側の求めに応じて、国際連盟への加入や、核兵器の平和的管理を実現するため協議を続けているところでした。しかし、日本はオアフ島の我が艦隊を攻撃し、同時に、中国の平和のために派遣している陸軍航空隊を攻撃したのです。これは中国大陸と太平洋全域を支配しようとする野望であることは明らかです。

 私は陸海軍の最高指揮官として、我々を守るため、あらゆる措置を取るよう命じました。そして、強大で凶悪な日本軍に対抗するため、致し方なく核兵器の使用を命じたのです。この核攻撃によって、軍需物資を製造している八幡製鉄所を壊滅させることに成功しました。軍事施設を目標にしたとはいえ、周囲の民間人に犠牲が出てしまったことは残念でなりません。


 大日本帝国はその野望を諦め、平和を愛する諸国の信義を受け入れて無条件降伏することを求めます。これ以上、核攻撃による犠牲が増えることを合衆国は望みません。もう一度言います。大日本帝国に、速やかに無条件降伏を受け入れるよう求めます」


 アメリカのルーズベルト大統領から、世界に向けて声明が発表された。そして、卑怯な奇襲攻撃を受けたため、致し方なく核兵器を使用したと強弁する。


 また、アメリカからの宣戦布告には、オーストラリア・ニュージーランド・カナダが共同参戦国として名前を連ねていた。


 太平洋地域で米軍が活動できるよう、事前にアメリカが圧力をかけていたのだ。


 ――――


 イギリス ダウニング街10番地(首相官邸)


「ばかな!日本がアメリカに奇襲攻撃だと!?そんな事をするわけは無いだろう!日本大使館はなんと言っているのだ?」


 イギリス首相のチャーチルは、イーデン外相から今回の事件の報告を受けていた。


「はい、首相。日本大使館からは、日本からの攻撃はアメリカの自作自演で有り、奇襲攻撃を受けたのは日本側であると説明がありました」


「まあ、そうだろうな。日本が先制攻撃をする理由が無い。しかし、まいったな」


 日本と締結している第4次日英同盟では、他国から侵略や攻撃を受けた場合、共同参戦する義務が生じる。日本側の言い分を鵜呑みにするのであれば、イギリスはアメリカ・オーストラリア・ニュージーランド・カナダに対して宣戦布告をしなければならないのだ。反対に、日本が先に手を出した場合には参戦の義務は無い。


「まずは状況確認だ。現時点ではアメリカと日本の言い分は真っ向から対立している。真偽が明らかになるまで、我が国は静観するしかあるまい」

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