第355話 鎮守府上空

 1941年12月8日午前2時18分


 深夜の暗闇に、レシプロエンジンの音とジェットエンジンの轟音がはるか上空から響いてくる。


 そして誰にも気づかれること無く、その戦略爆撃機は自らの腹を割いて悪魔の子を産み落とした・・・・はずだった。


「上空のB29より落下物1確認。あと43秒で地表に到達します。FCSに補足しました!」


「SAM4、発射!1000m以上の上空で確実に仕留めろ!」


 薄暗いCIC(戦闘指揮所)の中で、艦長の羽原祥子少佐が発令した。そして砲術科の士官がミサイルの発射ボタンを押し込む。


 次の瞬間、前部主砲のすぐ後ろにあるVLSのハッチが開き、激しい火炎を吐きながらSAM4がほぼ垂直に上昇していった。そして5秒後、呉鎮守府の1500m上空でその落下物に正面から接近し、爆発する。


 近接信管による至近の爆発は爆弾の外郭を砕くことこそ出来なかったが、その先端に取り付けられているレーダー測距計連動信管の機能を停止させるには十分だった。


 そしてB29から投下された物体は、その勢いのまま呉駅の東側300m付近に着弾した。


 同時刻


 佐世保鎮守府上空で投下された物体も、同じように信管が破壊されて爆発を起こさないまま鎮守府近くの畑に落下した。


 ――――


「こちら宇宙軍巡洋艦 白銀(しろがね)、上空のB29より投下された物体にミサイルを発射。物体はそのまま呉市街地に落下した。B29は敵性航空機の可能性有り。厳に警戒されたし」


 各鎮守府の防衛として、宇宙軍所属の大淀型巡洋艦を配備している。この巡洋艦白銀もその一隻だ。


 落下物を迎撃した宇宙軍の巡洋艦から、それぞれの鎮守府と小倉管制に連絡が入った。B29が何を投下したか解らない以上、敵性航空機と断定するには早計に過ぎるが、いずれにしても不審な行動を取っていることには間違いなかった。


「こちら小倉管制。対応に感謝する」


 呉鎮守府と佐世保鎮守府上空で“何か”を投下したB29は、高度を維持したまままっすぐ東に向かって飛行していた。


「ウィザード、プリースト、B29に着陸するよう発光信号を送れ!ナイトへ、別府湾へ着水を指示したB29の消息はどうなっている?」


 この管区にはB29が3機が進入してきている。上空にいる2機の所在は確認できているが、別府湾へ着水を指示したB29は、高度を下げたため小倉管制のレーダーからロストしていた。


「こちらナイト、降下したB29を見失った。B29の速度がこちらの失速速度を下回ったため、一度旋回して戻ったがロストしている。現在捜索中」


 九七式戦闘攻撃機のAESAレーダーは確かに高性能なのだが、全方位に渡って完璧というわけではない。暗闇で、しかも低空を飛行する航空機を一度ロストすると再発見は困難なのだ。


 ――――


 1941年12月8日午前2時15分(東京時間)

 1941年12月7日午前7時15分(ハワイ時間)


「南雲司令、ハワイのラジオや米軍の無線がおかしな事を言っています。日本軍から奇襲を受けて基地が燃えているとのことです」


 空母大鳳の艦橋で、通信士が南雲司令に報告をする。つい先ほどから米軍の無線量が激増し、どれもこれも日本軍から奇襲を受けたとの内容だった」


「日本軍から奇襲だと?どういうことだ?米軍基地に問い合わせてみろ。何の冗談だと」


 通信士に指示を出した瞬間、今度はCDC(空母戦闘指揮所)から緊急連絡が入ってきた。


「南雲司令!魚雷です!雷数48!ほぼ全方位から向かってきます!巡洋艦群、対魚雷迎撃開始します!」


「魚雷だと!?どこの船だ!ナチスの残党か!?」


「潜水艦8隻を確認!距離3000mから5000m!無音で停止しています!国籍不明!」


 アクティブソナーを打ったところ、8隻の潜水艦を確認した。距離は3000mから5000mで囲まれているようだ。おそらく、この8隻の潜水艦が各6発の魚雷を撃ったと考えられた。


「待ち伏せか!注水音は聞こえなかったのか!?対潜ミサイルは撃つな!魚雷の迎撃が終わってからだ!」


 南雲は潜水艦の排除より、近づいてくる魚雷への対応を優先させた。対潜ミサイルを発射した場合、その雑音で近づいてくる敵魚雷を見失ってしまう可能性があるからだ。


 魚雷の発射まで注水音は確認できていない。推進音も無かった。ということは、南雲艦隊の進路を正確に把握し、あらかじめ魚雷発射管に注水をした状態で待ち伏せしていたということだ。


”我々の正確な進路を知っているのは、本国とアメリカ軍だけだ。まさか・・・・”


 空母大鳳を取り囲むように航行していた巡洋艦群から、すぐさま魚雷迎撃魚雷が発射された。これは通常の短魚雷だが、発射時に魚雷迎撃モードで発射をすると近づいてくる小型の物体にめがけて推進するようになる。そして、距離が7m以内になった瞬間に爆発をする。7mの距離で爆発があれば、ほとんどの場合魚雷の制御に不具合を生じて停止するか正常に進まなくなるのだ。

 そして空母打撃群の周辺で爆発が起こり始める。水上から確認できた爆発だけでも、優に50は超えているようだった。


「魚雷は迎撃できたか!?」


 南雲はCDCに状況報告を要求した。しかし、爆発のキャビテーションで、敵魚雷を撃退できたかどうかはすぐに確認できない。


 爆発による影響が収まるまで数十秒ほどかかる。しかし、その時間が永遠と思えるほどもどかしかった。


 と、その時、2時の方向500m付近を航行していた重巡妙高の右舷で激しい水柱が上がった。そして、少し遅れてその衝撃波が伝わってくる。


「妙高被雷!」


「くそっ!他の魚雷はどうだ!?」


「魚雷2、3時の方向から本艦(空母大鳳)に接近!命中します!」


「総員、衝撃に備えろ!」


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お盆の期間中は休載します。


次回更新は、8月19日(月)の予定です。

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