第353話 ターニングポイント(3)
1941年12月8日午前1時(東京時間)
「こちらアメリカ陸軍中国派遣軍第3旅団第11戦略爆撃機小隊。航法装置の故障で現在位置がわからない。応答願う。応答願う」
共産党軍に対する夜間爆撃のため飛び立ったB29の内3機が、中国大陸を離れて東シナ海を東に向け飛行していた。この日は上層に雲がかかっており、天測航法も使えなかった。
「こちら日本陸軍済州島管制。貴飛行隊は日本列島に近づきつつある。現在位置は北緯31度68分、東経127度11分だ。すぐに回頭し中国大陸へ進路をとれ」
「こちら第11戦略爆撃機小隊。応答に感謝する。しかし、この位置からでは大陸まで燃料が持たない可能性がある。出来れば、貴軍の飛行場に誘導を願う。それと、2番機は舵の故障で安全な着陸が出来ない可能性がある。陸に近い洋上で脱出をするので、救助の艦艇を回して欲しい」
12月は季節風の影響で西風が強い。中国大陸に引き返すためには向かい風となって燃料消費も増えるはずだ。そう判断した済州島管制は、熊本の陸軍第六師管に連絡をとる。そして1番機は福岡の大刀洗陸軍飛行場に、3番機は愛媛の松山海軍飛行場に誘導することになった。別の飛行場に誘導するのは、慣れない飛行場で着陸に戸惑っていると、待機している機が燃料切れを起こす可能性があるためだ。そして舵の故障している2番機には、大分沖の別府湾への着水を要請した。
また同時に、万が一に備えて大刀洗の九七式戦闘攻撃機にスクランブル発進を要請する。そして大刀洗からウィザードとプリーストそしてナイトの3小隊がスクランブルに上がった。
1941年12月8日午前2時(東京時間)
1941年12月8日午前1時(南京時間)
南京郊外にあるアメリカ陸軍の飛行場
突然、駐機してあるB29およびB17が次々に爆発を起こし始めた。
「敵襲です!攻撃手段はわかりませんが、戦略爆撃機が正確に狙われています!」
下士官がルメイ大佐に報告する。汪兆銘が米軍の作戦停止を要請してきたため、深夜にもかかわらず士官以上の者は起きて対応に当たっていたのだ。
「ピンポイントで狙われていると言うことは共産党軍ではあるまい。これだけ正確に攻撃が出来るのは、・・・・連中だけだろうな。くくく」
報告を受けたルメイは、少しあごを引いて邪悪な笑みを浮かべた。
1941年12月8日午前2時(東京時間)
1941年12月7日午前7時(ハワイ時間)
ハワイ オアフ島
日本海軍の歓迎行事のため、ここパールハーバーのアメリカ海軍基地には多数の戦艦が停泊していた。
そして良く晴れた日曜の朝、突如激しい爆音が湾内に響き渡る。
「戦艦が!戦艦の舷側で爆発が起こっています!アリゾナ、メリーランド、オクラホマがやられました!」
「どういうことだ!航空機による攻撃か!?事故では無いのか!?」
「はい、キンメル司令!同時に3隻です!事故では無いと思われます!それと、航空機の目撃はありません。突然爆発しました!こんな攻撃が出来るのは、潜水艦か、もしくは例の・・」
「・・・・日本軍の対艦ミサイルか・・・」
1941年12月8日午前2時15分(東京時間)
「こちら日本陸軍小倉管制。アメリカ陸軍戦略爆撃機1番機に告げる。進路を7度右に取れ。このままだと佐世保鎮守府に近づきすぎる。すぐに進路を7度右に取れ」
航法装置が故障していて、深夜の暗闇であれば指示通りの飛行が出来ないこともある。これまでも細かく進路の修正を指示し、その都度従っていた。これまでは・・・。
「進路を7度右に取れ。応答を願う」
「どうした?返答がないのか?」
「ああ、さっきまでは返答があったんだけどな。無線機の故障かもしれん」
「アメリカ軍戦略爆撃機3番機に告げる。進路がずれている。進路を12度右に取れ!」
隣のブースからも、3番機を誘導していた管制官の大きな声が聞こえてきた。
「そっちもか?どういうことだ?」
「こちら小倉管制。プリースト応答せよ!B29に異変は無いか?」
B29との無線が通じないようなので、スクランブル出動している九七式戦闘攻撃機に問い合わせる。
「こちらプリースト。B29から応答は無い。あ、発光信号を確認。・・・・“メーデー”を繰り返している。なにか異常があったようだ」
※メーデー 船舶や航空機における緊急事態のサイン
――――
同時刻 長崎五島列島上空
B29のパイロットは、無言で対地レーダーをにらんでいた。その円形のPPIスコープには、真下に五島列島の姿と前方に佐世保湾と思われる地形が映し出されている。
距離は30km。現在530km/hで飛行しているため、あと3分で目標地点に到達する。
「弾倉開け」
「弾倉開きます」
B29の下腹が不気味に割れて、ゆっくりとその扉が開く。その中にはたった一つだけ、大きな筒状の爆弾が懸架されていた。
「・・・・・3・2・1 投下」
爆撃手があらかじめ命令されていたとおり、爆弾の投下ボタンを押す。総重量4トンにも及ぶ巨大な爆弾をつなぎ止めていた金具が開き、外に吸い出されるように黒い塊は虚空に落ちていった。
――――
同時刻 広島呉鎮守府上空
「投下」
同じく、氷点下の空にその物体は吸い込まれていく。黒く塗られたその物体は、深夜の闇に紛れて、随伴する九七式戦闘攻撃機からも視認することは出来なかった。
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