第350話 ノーフォーク・フレンドシップデー(4)

「重巡高雄と愛宕から、対戦艦巡航ミサイル8発が発射されました!見てください!あの屹立する雄々しい白煙を!グナイゼナウとシャルンホルストに、最後の審判を下すべく放たれた神の槍なのです!この巡航ミサイルの射程距離はなんと1500km以上!哨戒機からの誘導と、内蔵された高精度ジャイロスコープによって目標に向かっていきます!その速度は時速1000km!目標に接近すると最終ブースターに点火してマッハ4.2まで加速します!そして、確実に喫水線付近に命中するのです!命中した弾頭は最大800mmの装甲を打ち抜き、内部で大爆発を起こします!この攻撃に耐えられる戦艦はこの世に存在しません。こうしてドイツの二大戦艦は、実戦で一発の主砲も発射すること無く無情にも轟沈してしまったのです」


 コンピューターグラフィックスによって再現された、グナイゼナウとシャルンホルストが映し出されている。艦の中央で大爆発を起こし、真っ二つに折れた巨大戦艦が黒煙と共に沈んでいく様子は見る者を恐怖させた。


 そして最後に、ファウルネス島沖海戦での双方の損害対比表が映し出される。


 日本軍 損害

 航空機 6機

 死者 0人

 負傷者 5人


 ドイツ軍 損害

 航空機 2800機

 戦艦 2隻

 死者 10,100人

 負傷者 1,500人


 それを見た米軍関係者は言葉を完全に失ってしまった。ワンサイドゲームという言葉があるが、そんなものでは言い表せないほどの一方的な虐殺だった。日本軍が負傷者5人に対して、ドイツ軍は1万人以上の死者を出している。これはもはや戦争と呼べる代物ではなかった。


「戦争とはなんと愚かな行為でしょう。たった1時間足らずの戦闘で1万人以上の若者が無意味に死んでしまったのです。戦争さえなければきっと結婚し子供をもうけ、良き父として家族を守り、年を重ねて家族に見守られながら天寿を全うしたことでしょう。しかし、愚かな独裁者の野望によって、絶望的な戦地に送られてしまったのです。人類史は戦争の歴史と言っても過言ではありません。しかし、その歴史の裏では未来ある若者達が無残にも死んでいくのです。そして、夫を、息子を送り出した家族には、晴れることの無い悲しみと、敵国に対する無限の憎悪だけが残されます。長い人類史において、この第二次大戦が最後の戦争であることを、私は願ってやみません。皆さん、ご清聴ありがとうございました」


 そう言って日本軍の女性士官が深々と頭を下げた。ボブとジョンの他にも多くの観衆がいたが、誰も拍手を送ることが出来なかった。皆、映像の迫力と戦闘の結果に言葉を失っていたのだ。そして、しばらくすると一人、また一人と無言で立ち去っていく。


「あんなのが戦いって言えるのかよ・・・・。あれじゃ、あまりにもドイツの兵隊が可哀想だ」


「ああ、確かにな。しかし、命令が出れば戦うのが軍人だ。それは俺たちも同じだろう。間違っても日本と戦火を交えることの無いよう願うよ」


 ボブとジョンは、九六式主力戦車やミサイルなどの装備品を見た後に、民生品の展示ブースに移動した。


「おい、ジョン!マイクロウェーブ・オーブン(電子レンジ)だってよ!電波でハンバーガーを温めるらしいぜ!」


 ※史実では、1947年にアメリカのレイセオン社が世界初の民生向け製品を発売した。原理自体は1930年ごろから知られており、1933年のシカゴ万博でウェスティングハウス社が、サンドウィッチを温めるデモンストレーションを行っている。


 チーン!


「はい、どうぞ。冷凍されていたハンバーガーがたったの2分でホカホカですよ!」


 白いエプロンをした日本軍の女性士官が、60cm×40cm×50cmくらいの白い箱からハンバーガーを取り出してきた。


「すごいな!こんな簡単に調理できるなんて。これはアメリカでも発売されるのか?」


「イギリスやフランスの同盟国では発売予定ですが、残念ですがアメリカには禁輸品目に指定されていて発売は出来ないのです」


「えっ!そうなの?」


 ボブとジョンは驚いた顔で女性士官を見る。さっき見た冷蔵庫や洗濯機はアメリカでも発売予定と聞いたが、同じようにキッチンで使うであろうこの電子レンジが発売出来ない理由がわからない。


「はい。この電子レンジには小型マグネトロンが内蔵されていて、これはレーダーにも使われる部品なのです。ですので、アメリカに対しては輸出規制がかけられています」


 それを聞いたボブとジョンは顔を見合わせて驚く。レーダーに使われる技術を日本はキッチンにも使うのかと。しかもそれがサラリーマンの月給ほどの値段で販売されるらしい。


「そうかぁ。残念だな。しかし、日本の技術はすごいんだな」


 ――――


「なあジョン、どう思う?中国内戦は陸軍が関与しているが、欧州大戦に参戦しなかったからアメリカはほぼ平和なものだけど、世界から孤立しているような気がしないか?」


「ああ、そうだなボブ。今見た兵器や家電製品は、イギリス・フランス・ドイツ・ロシアには提供されるそうじゃないか。それに、家電製品は各国の企業と合弁でアメリカ以外の世界中に工場が建設される。科学技術はアメリカが一番進んでいると思ってたけど、大きな勘違いだったみたいだな。このままだと、ヨーロッパや日本から、アメリカは未開の地って言われるようになるぞ」


「そんなの、まっぴらごめんだな。やっぱり、世界の国と仲良くするべきだよ。それに、あの電子レンジは絶対に欲しいな」


 ノーフォーク・フレンドシップデーはこうして無事に終了した。そして、一般市民へは日本に対する好感度の向上と、軍関係者には日本と絶対に戦争をしてはならないという意識の植え付けに成功する。


 しかし、アメリカ政財界と軍の上層部の受け取り方は全く違うものだった。

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