第349話 ノーフォーク・フレンドシップデー(3)

 映像には、青い海を背景に黒い点が無数に映っている。この黒い点がドイツ軍機であるとテロップで説明がつけられていた。


 そして、薄い白い線を空に残しながらそれに向かって行く物体がいくつも見えてきた。ボブとジョンはそれを見て心拍数が跳ね上がる。これが対空ミサイルというやつだろう。命中率は90%以上と言っていた。そうすると、あと数秒後にこのミサイルとほぼ同数の機が撃墜されるということだ。もし自分があの場所に居て、F4Fを操っていたとしたら・・・・・・。そう思うととても平常心で居ることが出来なかった。


 次の瞬間、ミサイルはドイツ軍機の先頭に到達し連続して爆発をしていく。何も出来ずに粉々になった機体とパイロットが海上に落ちていく。いや、そこまで詳細に映っているわけでは無い。しかしパイロットであるボブとジョンには、何が起きたかもわからずに死んでいったドイツ軍パイロットの魂の叫びが聞こえてくるようだった。


「巡洋艦艦隊から発射された約900発のミサイルによって800機のドイツ軍機を撃墜しました!これが世界初の艦対空ミサイルによる大規模戦闘です!銃弾より速く飛んでくるミサイルによって、ほとんどのパイロットは何が起きたかもわからずにヴァルハラに旅立たれたことでしょう。本当に残念でなりません。独裁者に騙された優秀な若者が無為に死んでいくことは人類にとっての損失です。しかし、ドイツ軍には2000機近くの残存機と衰えることの無い強い戦意があります!しかも、日本艦隊にはもう護衛の戦闘機もミサイルも残っていません!距離10kmまで近づいてきました!数万名の将兵とイギリス本土の命運を託された山口司令の胸に去来するものは!?」


 映像が切り替わり、巡洋艦の艦砲の上に取り付けられたカメラ視点になった。そして、127mm速射砲が発砲を開始する。その数秒後、数キロメートル先のドイツ軍機の編隊が爆発を始めた。


「映像では良くわかりませんが、有効射程距離7000mの速射砲によって次々にドイツ軍機が撃墜されていきます!この速射砲は、距離7000mの航空機に対して命中率60%!距離4000mではほぼ100%を誇ります!日本艦隊に近づくドイツ兵は思ったことでしょう。“たかだか1門の砲で何が出来る!”しかしっ!普通の高角砲の命中率は4000mで0.1%未満ですが、この砲は100%!たかが1門の砲ですが、実際には1000門以上の砲と同じ能力があるのです!それがなんと2.5秒間隔で連射できるのですよ!20隻の巡洋艦から放たれる砲撃は、一斉射で20機のドイツ軍機を撃墜します!1分後には480機!2分後には900機以上のドイツ軍機が海の藻屑となってしまいました。本当に、本当に悲しいことです」


 女性士官の説明に少しイラッとしながら、ボブとジョンは瞬きもせずに映像を見ている。こんな戦闘が本当に繰り広げられたのだろうか?これは七面鳥撃ちなどというレベルでは無い。鳥かごに入った鶏を、至近距離から散弾銃で虐殺しているようなものだ。そして、その鳥かごに入れられているのは我々パイロットなのだ。


「しかし!勇猛果敢なドイツ兵はこの砲煙弾雨をものともせずに迫ってきます!127mm砲の嵐をかいくぐった戦闘機が近づいてきました!なんという殺意でしょう!この記録映像からでもその鬼気迫る魂の叫びが聞こえてくるようです!憎き日本艦隊に一矢も報いずになぜ退却できようか!仲間の仇を討つまでは帰ることは出来ない!この命に代えても必ず斃す!彼はまさに古(いにしえ)のドイツ騎士団の英雄なのです!」


 映像には日本軍の攻撃をかいくぐって近づいてくるBf109が見えてきた。まっすぐにこちらに向かってきている。ボブとジョンは心の中で叫んだ。なんとしても日本艦隊に一撃を加えてくれ!無残に殺された仲間の仇を討ってくれ!


 パイロットであるボブとジョンは、いつの間にかドイツ軍パイロットに感情移入をしてしまっていた。


 しかし次の瞬間、35mm連装砲の曳光弾がBf109に近づいていく。そしてその弾丸は確実に命中し、Bf109は主翼が折れて海面に激突してしまった。


「あ、ああ・・・・・・」


 一機、また一機とドイツ軍機が撃墜されていく。日本艦隊に肉薄しているので、この記録映像でもその姿がはっきりと見えた。そして、映像越しにドイツ軍パイロットと視線が合ったような気がした。


「やめろ!もういい!逃げるんだ!無理なんだよ!」


 次の瞬間、その戦闘機は火を噴き主翼が折れて海面に激突してしまった。


 ジョンは思わず立ち上がり叫んでしまっていた。両手を強く握り体を震わせて、いつの間にか涙をぼろぼろと流していた。


 2年も前に起こった過去の出来事だ。しかし、鮮明なカラー映像からその戦闘のすさまじさがひしひしと伝わってくる。艦砲が爆発するたびに、戦闘機が海面に激突するたびに、確実に一人の若者の人生が終わりを告げているのだ。


「3000機以上で迫ってきていたドイツ軍機は、ついに300機にまですり減らされ、力尽きて引き返していきます。しかし、まだ戦いは終わりません。我が軍の哨戒機が500km離れた場所にいるドイツ戦艦グナイゼナウとシャルンホルストを発見しました。そして山口司令は決断します!この二艦を葬り去ることを!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る