第348話 ノーフォーク・フレンドシップデー(2)

「どうぞ。九七式艦上戦闘攻撃機の詳しいパンフレットです。よろしかったらご説明しますよ」


 そう言って、紺色の制服を着た日本軍の女性士官がパンフレットを渡してきた。ボブとジョンからは、どう見てもティーンエイジャーにしか見えない少女だった。


「あ、ありがとう。君は日本軍の士官なのかい?まだ未成年に見えるが、日本軍は少年兵もたくさん居るのか?」


 そう言われた日本軍の女性士官は、ボブとジョンの顔を見上げて目を丸くしている。


「あ、あはは、いえ、私は24になります。日本人は幼く見えてしまいますからね。それと、女性に年齢の話題を振るのはマナー違反ですよ!」


 そう言ってかわいらしい笑顔で返答する。


「そ、そうか。それは失礼した。じゃ、いろいろと教えてもらおうかな」


 手渡されたパンフレットには、九七式艦上戦闘攻撃機の乾燥重量から最大航続距離、搭載できる兵装や内部構造の簡単な透視図面なども記載されている。


 “最新鋭戦闘機の情報を、こんなにも詳しく公開しても良いのだろうか?”


 ボブとジョンはそんな事を考えながら質問をする。


「この機首に搭載されたAESAレーダーとやらの性能を教えてくれないか?」


「はい、このAESAレーダーの探知距離は150km以上あります。最大距離については公開していませんが、これは天候にも左右されるのでなんとも言えないですね。同時に32の目標を識別して、その内8機に対して同時攻撃が出来ます。それと、実際の作戦では哨戒機とセットで行動します。本日は展示していませんが、強力なレーダーを装備した哨戒機が遠方の敵機や敵艦を発見して、戦闘機隊に攻撃指示を出します。空対空ミサイルはおおむね50km程度の距離で発射をして、マッハ4で飛んでいくんですよ。欧州大戦時の命中率は90%ちょっとでしたので、この九七式艦上戦闘攻撃機に狙われて、生きて帰ることはほぼ不可能ですね」


 説明を受けたボブとジョンは、なんとも言えない恐怖感に襲われる。この少女のような士官は笑顔で楽しげに説明をしているが、実際に数千機のドイツ軍機を撃墜し、日本軍の損害はほとんど無かったのだ。まるで、ドイツ兵を切り刻んで煮込み料理を造りながら、そのレシピを得意げに説明する魔女のように思えた。


 ボブとジョンは背筋に冷たい物を感じながら質問を続ける。


「そ、そんなにすごいのかい?そういえば、日本軍は敵の無線やレーダーを封じることも出来るんだろ?」


 その質問を受けた女性士官は、よく聞いてくれましたと言わんばかりの笑顔で説明する。


「はい、その通りなんですよ!電子戦機によって半径数百キロの無線やレーダーを完全に無力化出来ます。日本に戦争を仕掛けることがどれほど愚かな事であるかわかりますよね。想像してみてください。目隠しと耳栓をされて、バッキー・ウォルターズの剛速球を避け続けろって言われるようなものですよ。日本軍の前に立たされる敵国兵士のなんと可哀想なことでしょう。本当に同情を禁じ得ませんわ」


 ※バッキー・ウォルターズ 1939年メジャーリーグ・ナショナルリーグの三冠投手


「どうぞ、あちらのテントで対ドイツ戦における記録映像を流しています。聞くよりも実際に見た方がよくわかりますよ!」


 そう言われたボブとジョンは、案内されるままにテントに入って椅子に腰を下ろした。正面には銀幕があって、映写機によって記録映像が映し出されている。


「これは1939年11月のイギリス・ファウルネス島沖海戦での記録映像です。高度16,000mを飛ぶ偵察機から撮影しました。一部の映像はコンピューターグラフィックスで補完しています」


「コ、コンピューターグラフィックス?」


 二人の戸惑いを無視して記録映像は進む。


「今写っているのは、日本軍の九九式艦上戦闘機とドッグファイトした後、生き残っているドイツ軍機ですね。3000機以上のドイツ軍機に対して空母赤城と加賀の艦上戦闘機87機が応戦しました。この緒戦において、約800機のドイツ軍機を撃墜しています。しかし、我が日本軍も6機が撃墜されるという大損害を被ってしまいました」


 “800機を撃墜して6機の損害が大損害?”


 悲しそうに目を伏せて損害を説明する女性士官に対して“何を言っているんだ?”という視線を向ける。800対6のキルレシオで大損害などと・・・・。


 スクリーンには、九九式艦上戦闘機のコクピットから撮影したと思われる映像が流れている。すさまじい機動でドイツ軍機の後方上空につけて一瞬だけ射撃をする。そしてすぐさま離脱。弾が敵機に当たったかどうかを確認していない。一撃離脱のお手本のような戦い方だ。

これは、よほど射撃の腕に自信が無ければ出来ない芸当だ。


 そして、パイロットである自分たちにはわかる。


 “こんな機動は不可能だ”


 明らかに、機体と人間の限界を超えた機動をしている。自分たちの乗っているF4Fで同じ事をしろと言われても、とてもでは無いが出来ないだろう。


「そして緒戦を生き残った2000機以上のドイツ軍機が日本艦隊に襲いかかったのです!さあ!日本艦隊の運命は!?」


 女性士官はノリノリで説明を続ける。

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