第347話 ノーフォーク・フレンドシップデー(1)

 1941年11月初旬


 南雲中将を司令とする第二空母打撃群が、アメリカ東海岸のノーフォーク海軍基地に入港した。空母大鳳を旗艦とした、空母1隻、重巡2隻、軽巡8隻からなる艦隊だ。それに補給艦が随伴している。


「ハル国務長官、どうですか?我が国が誇る空母打撃群の勇姿は?」


 ノーフォーク軍港にある海軍施設の窓から、タグボートに押されて桟橋に近づきつつある空母大鳳を二人の男が見ていた。


「東郷外相、素晴らしいですな。これならドイツとソ連を屈服させたことも納得がいきますよ。しかし、この大鳳はニューポートで作られたそうですね。他の大型空母もニューポートとニューヨークの造船所で“貨物船として”作られたと聞きます。まさか、当初より空母への改装を前提に発注したわけでは無いでしょうな?」


 ハル国務長官は東郷外相に牽制を入れた。ロシアの海運会社からの不自然な貨物船発注とリチャード・インベストメントの動向、そしてその後日本が買い取って巨大空母への改装。あまりにも話が出来すぎている。しかも、建造された貨物船の設計図が造船所に残されていたのだが、これを解析した結果、明らかにミリタリー仕様の防水区画の増設と、飛行甲板の取り付けを前提とした設計が随所に組み込まれていたのだ。アメリカの調べでは、99%、最初から空母への改装を前提とした偽装取引であると結論づけていた。


「いやぁ、何をおっしゃいますか、ハル長官。本当に偶然なのですよ。ロシアの海運会社が業務の縮小のため、この“貨物船”の買い取りを日本に打診してきたのです。そして、たまたま我が国の宇宙軍で買い取ることになったのですよ」


 東郷外相は、何らやましいところの無いさわやかな笑顔で返答した。しかしこれは、外務大臣の仕事としての作り笑顔では無い。宇宙軍と海軍は、政府に対してたまたま買い取って改装したと“公式”に伝えていたからだ。軍事の専門家でも当時の関係者でも無い東郷は、その言い分を疑いも無く信じていた。


 ハル国務長官は、この東郷外相の返答に対して“侮れない政治家”という評価をする。相手国の言い分をそのまま真に受けることなど有りはしないのだが、これだけ裏表の無いように見える笑顔を作ることが出来る東郷に、ハルは警戒のレベルを一段階引き上げた。


「まあ、それはいいでしょう。我がアメリカも貴国の空母を参考にして新型空母の建造に入っています。この20世紀において、我が国は世界の平和に貢献していきたいと思っていますからな。まあ、その話は来週の会議において話し合いましょう」


 南雲艦隊の歓迎式典の後に、イギリスのイーデン外務大臣を交えた三国会議が開催される予定となっている。そこで、なんとしてもアメリカを国際連盟へ加入させ、核兵器の国際管理に向けたテーブルにのせることが、東郷外相に与えられたミッションだった。


 ――――


 南雲艦隊の歓迎式典が終わった後、「日米フレンドシップデー」として交流イベントが開催された。そして、日米の各種兵器の展示や実演が実施されることになった。


<日本軍からの展示>

 ・九七式艦上戦闘攻撃機(海軍)

 ・零式艦上戦闘攻撃機(海軍)

 ・九九式艦上戦闘機(海軍)

 ・対潜哨戒ヘリコプター(海軍)

 ・九九式襲撃機(陸軍)

 ・九八式攻撃ヘリコプター(陸軍)

 ・多目的ヘリコプター(陸軍)

 ・九八式重爆撃機(陸軍)

 ・九六式主力戦車(陸軍)

 ・九七式自走高射機関砲(陸軍)

 ・多連装ロケットシステム(陸軍)

 ・その他、対空ミサイルや巡航ミサイルなど多数


<アメリカ軍からの展示>


 ・F4Fワイルドキャット戦闘機(海軍)

 ・SBDドーントレス爆撃機(海軍)

 ・PB2Y大型飛行艇(海軍)

 ・P38ライトニング戦闘機(陸軍)

 ・P40戦闘機(陸軍)

 ・B17戦略爆撃機(陸軍)

 ・M2軽戦車(陸軍)

 ・M2中戦車(陸軍)

 ・Jeep(陸軍)

 ・その他、軍用車両や装備品多数


 ノーフォーク海軍基地の陸上滑走路には、所狭しと多くの兵器が並べられている。今回のフレンドシップデーには、軍関係者のみならず一般市民も入場することが出来た。そして、日本の軍関係者が出店する”屋台”も多数出店している。このイベントで対日感情の向上を図り、そしてアメリカ軍関関係者には、どんなことをしても絶対に日本には太刀打ちできないという事実を”わからせる”ことが目的でもあった。


「パンフレットをどうぞ。日本軍の兵器についての紹介があります。14時からは日本海軍航空隊によるアクロバット編隊飛行がありますよ」


 日本軍ブースの入り口で、大日本帝国宇宙軍の女性士官がパンフレットを配っていた。今回のフレンドシップデーにあたって、英語の出来る軍人が大量に必要となった。その為、陸海軍だけでは足りず宇宙軍の女性士官が応援に駆けつけているのだ。


「日本軍にはあんなかわいらしい女性軍人が居るのかよ?どう見ても15歳くらいだろ?」


「日本人は若く見えるからな。さすがに15歳ってことは無いんじゃないか?」


 実際には全員24歳以上なのだが、アメリカ人から見ると日本人女性はとても幼く見えるようで、そんな驚きの声があちらこちらから聞こえた。


「ボブ!早く九七式戦闘攻撃機を見に行こうぜ!あれでドイツ軍のBf109をたたき伏せたんだろ?すごい戦闘機らしいじゃないか」


「待てよジョン!あっちの屋台で”たこ焼き”を買ってから行こうぜ!そんなに急がなくても時間は十分にあるから!」


 ボブとジョンはアメリカ海軍の飛行隊に所属している。いつもは空母でF4Fワイルドキャットの操縦桿を握っているのだが、今日は非番をもらい観客として来場していた。


「これが九七式艦上戦闘攻撃機かぁ・・・・でかいな・・・最高速度はマッハ1.6(約2,000km/h)ってあるけど、本当なのか?」


「それもそうだけど、ここに並べてある爆弾を全部搭載できるって書いてあるぞ。全部で8,000kgもあるって・・・・・ちょっと信じ難いな」


 九七式艦上戦闘攻撃機の周りにはポールが立てられていて近づくことは出来ないが、すぐそばに大量の爆弾やロケット弾が並べられており、その総重量は8,000kgと表示してある。


「SBD爆撃機でもせいぜい800kgだぞ。開発中のTBF爆撃機でもなんとか1,000kg程度なのに、8,000kgか。マジかよ」


 そんなことを話していると、日本軍の女性士官が近寄ってきてパンフレットを差し出した。


「どうぞ。九七式艦上戦闘攻撃機の詳しいパンフレットです。よろしかったらご説明しますよ」


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