第333話 モスクワ最終決戦(1)
「宮間めさの『テイコク立体』」さまのチャンネルにて、書籍のティザームービーが公開されました!
https://www.youtube.com/watch?v=m9WUn8b5oR0
作中に出てくる重巡高雄が再現されています!
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1941年7月21日
日英軍170万人がモスクワの西側を、日露軍130万人がモスクワの東側を包囲していた。
史実に於いてソ連軍は、重要な河川のダムを破壊して人工的な洪水を発生させドイツ軍の進軍を妨げた。その洪水によってソ連国民数万人から数十万人が溺死したとされる。
このような非人道的な作戦を防ぐため、日本軍はあらかじめ主要なダムや貯水池に軍を送り、支配下に収めていた。
※フランス軍は、解放された自国の治安維持とヴィシーフランス政府対応のため、対ソ戦には参加していない。
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「もうソ連には迎撃できる戦闘機も高射砲もほとんど残っていない。モスクワへの補給も完全に封鎖した。あとは重爆撃機で空襲を続ければ良いのではないですか?それが最も友軍の損害を抑えることが出来る作戦です」
日露英軍の最高作戦会議に於いて、英モントゴメリー将軍は強く空襲を主張する。ベルリンで相当の損害を出してしまった英軍にとって、これ以上の損害は何としても避けたいところだった。
「モントゴメリー将軍。確かに損害を減らす為には空襲が一番でしょうが、それではロシア国民の被害が増大してしまいます。(アナスタシア)皇帝陛下は一般市民が犠牲になる作戦を許容されません。モスクワから赤軍と共産主義者だけを排除する方法を検討しましょう」
モントゴメリーの主張に対して、ロシア帝国陸軍バヨノフ元帥は一般市民の犠牲を最小限に抑えるように訴える。ロシア帝国にとっては、ソ連の支配下にある地域であってもそこに暮らす国民は“ロシア国民”という認識だった。現在は不幸にも共産党に洗脳されて敵対しているが、本来は庇護するべき同胞だ。その人々の犠牲を考慮しないなど、考えられないことだった。
「スターリンは、クレムリン宮殿の中に“避難民”と称して子供やその母親のみを大量に収容しています。事実上、人間の盾ですな。このような状況でモスクワやクレムリンに対する大規模な空爆は実施できないでしょう。地上部隊によって徐々に占領地域を拡大するしかありますまい」
阿南司令は渋い顔をして発言する。大量の地中貫通爆弾によってクレムリンを廃墟にすることが最も手っ取り早いのは確かだが、スターリンは多くの子供たちをクレムリンに“幽閉”しているのだ。公式には避難民を保護しているとしているが、実際は人質、人間の盾である。この非人道的な行為に、連合軍は非難声明と非戦闘員の解放要求を出しているのだがモスクワからの返答は無い。
モスクワに至るまでの道程ではそれほどの抵抗があったわけでは無いが、要所要所でソ連軍やパルチザンのゲリラ戦術に悩まされていた。特にパルチザンは、10代の少年少女達が中心となって抵抗してきたのだ。ベルリン攻防戦でもそうだったのだが、独裁者の支配する国は追い込まれると女子供でも平気で動員し自殺攻撃を敢行させる。その攻撃に発狂する連合軍兵士が後を絶たなかった。
また、イギリスにとって直接的な脅威であったドイツを排除することは、絶対に必要なことであったが、ソ連は地政学的な観点からどうしても排除しないとならない敵では無い。今次欧州大戦に於いて、日本が協力する条件として合意しただけだ。本音では、対ソ戦に関しては後方支援のみに徹したいと考えていた。これ以上、イギリスにとって無益な戦闘で自国兵士を犠牲になどしたくはないのだ。
「阿南司令。ソ連が人間の盾を使うといった非人道的行為をしていることはとても許容できる事ではありません。そして、その被害を最小限にしたいという日露の意向も理解出来ます。しかし、我がイギリス軍はベルリンで大損害を被り、本国では厭戦機運が高まっております。対ソ戦に参戦するという日本との条約はありますが、これ以上イギリス軍兵士に死傷者が出ると今後の協力関係に支障が出ないとも限りません。空襲を実施せず地上軍による進軍を選択するのであれば、イギリス軍は後方支援と後詰めへの配置を希望します」
阿南司令とロシア陸軍バヨノフ元帥は顔を見合わせる。ロシア軍は対独戦にほとんど参加していないので、イギリス軍が対ソ戦に対して及び腰になるのは理解出来なくも無い。しかし、イギリスに大量の最新鋭兵器を供与し、少なくない損害を出している日本軍にとってモントゴメリーの発言は容認できるものではない。
「モントゴメリー将軍。ここへ来て日本とロシアのみに犠牲を強いられるとおっしゃるのですか?対独戦において我が日本軍にも少なくない損害が出ています。それなのに、イギリス軍だけは損害を出したくないと?」
阿南はモントゴメリーの発言に不快感をあらわにする。もしこれがイギリス本国の正式な方針であるなら、今後の同盟関係にも亀裂を産みかねない重大事案だ。
“これがイギリスの二枚舌外交の真骨頂なのか・・・”
阿南は宇宙軍の高城大佐から、イギリスの二枚舌には十分気をつけるようにと、何度も念を押されていたのだ。しかし、この最終局面に於いてその二枚舌が発揮されるなど、正直思っていなかった。
「お待ち下さい、モントゴメリー将軍。その方針は本国の正式決定なのですか?」
イギリス軍代表団に参加していた軍人が話しに割って入る。発言したのはイギリス陸軍第7派遣師団を率いるブラックマン少将だった。
「モントゴメリー将軍。本国からの方針は少将以上の将官には等しく通達されるはずです。しかし、私はそのような方針転換があったとは聞いておりません。それともモントゴメリー将軍への極秘指令だったのでしょうか?」
モントゴメリー将軍はブラックマン少将の発言に顔をしかめてにらみつける。まさか自分の部下から疑問の発言があるなど夢にも思っていなかったのだ。
ブラックマン少将の発言を聞いて、阿南もモントゴメリー将軍の発言に違和感を覚えた。もし、イギリス軍に重大な方針転換があった場合は、阿南の所にも統合幕僚本部から連絡があるはずなのだ。イギリス軍の無線通信は全て宇宙軍が傍受しており、リアルタイムでの暗号解読が出来るようになっている。手紙による指示でも無い限り、日本軍が把握できない事など無いのだ。
「ブラックマン少将。発言が過ぎるぞ。イギリス軍の全権は私にゆだねられている。私の方針がイギリス軍の方針だ」
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