第331話 ルメイ vs 高城蒼龍(4)

「リリエル、あなたは“神の計画”を知らないのよ。なぜルシフェル様が堕天したか知ってる?それはね、ルシフェル様が“真理”に到達したから。神の計画を知ったからなのよ」


 アンドラスは、優しくゆっくりと、リリエルに教え諭すように語りかける。


「なによ!天使の私が“神の計画”を知らないわけ無いでしょ!救済よ!救世主が再臨して人間の罪を許して神の王国を作るのよ!」


 “神の計画?”


 リリエルから高城蒼龍は、神は人類に対して直接的な力を行使することは出来ないと説明されている。神の出来ることは、天使を使って啓示や聖遺物を与えて導くことだけだと。


 そしてキリスト教においては、キリストが復活し人類の罪を赦して救済し、神の王国を完成させることだと説かれている。天使であればそんな事は百も承知だ。


 しかし、アンドラスがあえて“神の計画を知っているのか?”と問いかけるのであれば、聖書に書かれている神の計画では無いのだろう。


「リリエル、本当にあなたはおバカさんね。でも、そういう所、好きだったわ。純粋で無垢で、まるで創られたばかりのエヴァ(イブ)を見ているようだった」


 アンドラスは天使だった頃の思い出をリリエルに聞かせた。お姉さん肌だったアンドラスと無邪気なリリエルは、仲の良い姉妹のようだったらしい。しかし、約一万年前にアンドラスは堕天してしまった。


「どうして?どうして堕天したのよ!なんで神様の祝福を疑ったの?」


「そうね、私も堕天するなんて思っていなかったわ。人間を見守り導くことが神から与えられたミッション(使命)だと思ってた。神の王国を創るための仕事をしているのだと思うと嬉しかったわ」


「だったら何故!?」


 リリエルは悲痛な声で問い返す。仲の良かった天使が堕天して、今では悪魔となっているのだ。そして、庇護するべき人類を戦争に導き虐殺し、この地球の支配権を神から奪おうとしている。そんな事が許されて良いはずはない。


「リリエル、あなた、神の声を聞いたことがある?神に会ったことがあるの?」


「えっと、私のような下っ端に会ってくれるわけ無いでしょ!お会いできるのはミカエル様達、熾天使(してんし)だけよ!そんな事、あなたも知ってるでしょ!」


 神は至高の御方だ。始まりであり終わりであり、永遠であり無限である存在。そんな御方が啓示を与えるのは、宇宙開闢(うちゅうかいびゃく)以来熾天使と、選ばれた一部の預言者だけと決まっている。


「そう、神の言葉は熾天使が聞いてみんなに伝えている。時々人間に啓示を与えることもあるわ。ありがたいお話よね。私たちのような下々の前には姿を現さないの。でもね、ルシフェル様は神の言葉も聞いたことはないし、神にお会いしたことも無いそうよ。12枚の光り輝く翼を持ち、明けの明星の現し身である大天使長ルシフェル様でさえ、神の言葉を聞いたことが無いの。そんな事ってある?おかしいと思わない?」


 ※明けの明星 金星のこと


「な、なにを・・・、そんなこと信じると思う?神様と会ったことが無いのに神の計画を知ったって矛盾してるわよ!それに、天使の力の源は神様から与えられていることを知っているでしょ!それを疑ったから、あなた達は属性が反転して堕天した!そうじゃないの?」


「そう、その通りよ。神の祝福を私は疑ったわ。ルシフェル様から“真理”を教えてもらったの。だから、神を信じることが出来なくなった。神を憎んでしまった。そして堕天したの。でも、不思議だと思わない?天使のエネルギーが神から与えられているのだとしたら、悪魔のエネルギーは誰から与えられているのかしら?天使と同じ強大な力はどこから来ているのかしら?」


「悲しみを持って死んだ人間の魂からでしょ!だから、あなた達は人間をたくさん殺してエネルギーを得ているんじゃない!バカにしてるの?」


「エネルギーの材料はその通りよ。じゃあ、その魂は誰が集めて悪魔達に分配しているのかしら?悪魔に出来るのは、その魂を刈り取ること。直接その魂を食べることも出来るけど、それは私たちみたいに現世に顕現できた者だけ。ほとんどの悪魔はコアにエネルギーが供給されているのよ。その仕組みは天使と同じだわ。ただ、供給されるのが負のエネルギーだと言うこと。そして、そのエネルギーを供給しているのは・・・・ここまでね。ちょっとしゃべりすぎたみたい」


 高城蒼龍はここまでの話を聞いて、天使と悪魔のエネルギー源を考察してみる。完全に物理法則を超越している様に思えるが、何かしらの“原理”はあるようだ。エネルギーがどこかから供給されないと、天使も悪魔も存在できないらしい。量子テレポーテーションのような技術によって、コアとエネルギーの供給元が同期しているとしたら、どんなに離れていてもエネルギーの伝達は可能かも知れない。しかし、そんなに巨大なエネルギーを本当に供給できるものなのだろうか?


 高城蒼龍は、前世の研究者としての血が騒ぐのを感じていた。


 “戦争が終わったら、天使と悪魔について研究してみたいな。悪魔の解剖とかできるんだろうか?リリエルなら解剖に協力してくれるかな?”


 そんな益体(やくたい)のないことを考えていると、


「ちょっとアンタ!どうでもいいこと考えてるんじゃないわよ!集中できないじゃない!」


 リリエルに怒られてしまった。


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