第328話 ルメイ vs 高城蒼龍
「ルメイが羽田行きの民間機に乗っただと?」
中国大陸においてルメイの動向を調査しているルルイエ機関から、宇宙軍本部に連絡が入った。カーチス・ルメイが数人の米軍人と共に羽田行きの民間機に乗ったとのことだ。
「日本の軍人との会談予定などは入っているのか?」
「いえ、現在のところ日本の要人と会う予定は無いようです。電信の盗聴でも、英仏の大使館に行く予定はありません。直前の電信で、アメリカ大使館に行くとだけですね。秘匿している可能性はありますが」
電話機の向こうで、ルルイエ機関の女性士官が返答する。各国の電話回線や電信を盗聴してはいるが、手紙の中身まで検閲することは出来ない。また、アメリカ軍の一部で運用している、完全にクローズド(閉じた)通信回線の盗聴も出来ていない。
「わかった。引き続きルメイの監視を続けてくれ」
――――
「しかし、何故専用機では無くて民間機なんだ?」
ロシアの有馬公爵と緊急テレビ会議を開催する。集まることの出来た宇宙軍メンバーも出席していた。
「専用機だと、来日の手続きが面倒だからじゃないか?民間機だったらパスポートとビザだけだしね」
専用機なら、事前の入国申し込みなどがあるため、ルメイの動向を把握できたのだが、民間機だと搭乗するまで行き先はわからない。その為、来日の情報がギリギリになってしまったのだ。
「羽田に到着まであと2時間か。大虐殺を主導している張本人が日本に何の用だろうな」
宇宙軍のメンバーには、予知夢によって未来の出来事や技術がある程度解ると伝えてある。しかし、天使や悪魔の存在については伝えていない。さすがに20世紀の科学文明で天使だの悪魔だとの言っていると、頭がおかしいのではと思われてしまうからだ。
「ちょうどいいチャンスじゃないか。不慮の事故で他界してもらうというのはどうかな?無差別爆撃を主導する人間がいなくなれば、中国大陸での虐殺も抑えることができるかもしれないよ」
テレビ電話システムの向こうで、有馬公爵が提案する。さすが、暗殺機関でもあるKGBの責任者だ。
「しかし、日本国内でそんなことになったら、日本の謀略を一番に疑われるだろうな。民間機だと、事故を装って撃墜も出来ない。さすがに、無関係の民間人を巻き添えにはできないしね」
高城蒼龍はそこまで言って、民間機を使ったのは暗殺を警戒してのことではないかとも思った。
“考えすぎか・・・”
「いずれにしても、何かしらの意図があるはずだ。引き続き監視と情報収集を続けよう」
――――
「ルメイが羽田に到着したら、リリエルに気付くんじゃないのか?」
9年前、ウクライナへの食料援助作戦の際にクレムリンを爆撃したとき、近づいただけでスターリンに憑依している悪魔の波動をリリエルは感じたことがあった。ルメイに悪魔が憑依しているのであれば、リリエルの存在に気付かれる可能性がある。
「そうね。でも、スターリンやヒトラーに憑依しているほどの大悪魔じゃないと思うの。だって、あいつらに比べたら、ルメイって小物でしょ?」
9年前、スターリンに憑依している悪魔にあれほど怯えていた天使とは思えない強気な発言だった。リリエルは小物に対しては強気に出ることが出来るようだ。
「小物かぁ。確かに殺戮した人数からしたらそうだけど、それでも史実では日本の民間人を100万人以上焼き殺しているからね。今は中国人を焼き殺している真最中だし、小物とは言っても油断は出来ないよ。それに、そんなやつが日本に来るのは良い気分じゃないな」
「だからよ。良い機会だしルメイと会ってみるのはどうかしら?9年前に比べたら、あんたの身辺警護体制も充実してるから、暗殺も難しいでしょ。それに、憑依している人物以外に悪魔の力を顕現することは出来ないからね。私もその悪魔と話がしてみたいのよ」
「それで、悪魔の目的を聞き出すのか?」
「うーん、目的は人をたくさん殺して魂を集めることなんだろうけど、どういう指示でそうしているのか興味があるのよね。例えば、ルシフェル様から直接命令を受けているのかとか」
「なるほど。悪魔の指揮命令系統を知りたいわけか。それは俺も興味があるな。じゃあ、こちらから出向いてみるか」
高城蒼龍はアメリカ大使館に対して、カーチス・ルメイと会談を持ちたいとの連絡を入れた。そして、その申し込みは快諾される。
――――
アメリカ大使館
「初めまして、ルメイ大佐。大日本帝国宇宙軍高城蒼龍大佐であります。お目にかかれて光栄です」
「初めまして、高城大佐。とても流ちょうな英語を話されるのですね。驚きました」
そう言って二人は握手を交わす。
ルメイは現在35歳。アメリカ陸軍の大佐としては非常に若い。戦略爆撃の構想をまとめ、アメリカ陸軍内に新しいドクトリンを確立したことが評価されてのことだ。そのドクトリンとは、焼夷弾による無差別爆撃によって、敵国の生産能力と戦意をくじくという物だ。民間人の犠牲を顧みない、非人道的なドクトリンと言って良い。
高城蒼龍は、握手をしながら背中に冷たい物を感じていた。ルメイの手から伝わってくる、なんとも言えないおぞましい波動に恐怖を感じていたのだ。
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