第327話 核開発
アメリカ ワシントン
ホワイトハウス
「調査団の派遣を断ってきただと?」
ルーズベルト大統領は、ハル国務長官から報告を受けていた。
「はい、大統領。ベルリンへの支援物資の搬入と調査団の派遣を英日に打診していましたが、その両方を断ってきました。表向きの理由は、放射線の濃度が高いため危険であるとのことです」
ハル国務長官が報告書を片手に説明をする。核爆発の情報を得たアメリカは、今後の核兵器運用を見越して実際の被害状況を調査したかったのだが、それを英日に断られていたのだ。
「本当の理由はそこではないだろう。我々アメリカに、核兵器の被害状況を見せたくないと言うことか。核兵器開発のヒントになる事を恐れているのだろうな」
「はい、大統領。そう考えているのだと思います。しかし、現在確認できている状況からでも、核兵器の威力をうかがい知ることが出来ます」
「そうだな。たった一発の爆弾であれほどの威力があるとは、恐るべき兵器だ。今後の世界戦略には欠かせないだろう。ところで、ベルリンの件についてオッペンハイマーはなんと言っているのだ?」
※オッペンハイマー アメリカの核開発中心人物
「はい、おそらく航空機に乗せるほどの小型化が出来なかったため、地上で爆発させたのではないかとのことです。十分な量のウランを使うことが出来たので、あれほどの爆発になったようですな。現在最終段階にある我が軍の核兵器は、戦略爆撃機に搭載できるサイズに小型化しているため、あれほどの威力は望めないそうです」
「実際に運用するには、航空機に乗せる必要があるからな。それで威力はベルリンに比べてどの程度劣るのだ?」
「オッペンハイマーによれば、今回のベルリンを100とした場合、概ね30から50程度とのことです。ただし、地上ではなく上空600m程度で爆発させるため、広範囲に被害を与えることが出来ます。実際の効果としては、今回のベルリンと同程度だろうとの事でした」
※核兵器は、地上で爆発させるよりも上空数百メートルで爆発させた方が、広範囲にわたって被害を与えることが出来る。
「しかし、英仏日以外の核開発を許容しないとは大きく出たな。連中は何様のつもりだ?」
ルーズベルトは日英仏が出した“カイロ宣言”の内容を読み、怒りを露わにしていた。
「イギリスは今回の欧州戦争に我々アメリカが参戦しなかったことが、よほど気にくわないようですな。まだソ連との戦争が残っているので、今からでも参戦しますか?」
「ふん、ばかばかしい。ソ連を打ち倒したとしても、ロシア帝国に併合されるだけではないか。結局日本を中心とした東アジア条約機構を強化することになる。そんな事には手を貸せんよ。いずれにしても、ドイツ以外どこも核兵器の開発は出来ていないのだろう。核兵器は作った物勝ちだ。オッペンハイマーに開発を急がせろ」
―――――
イタリア北部では、ムッソリーニを中心とした共和ファシスト党の残党が活動しているが、ドイツの降伏によって西ヨーロッパの戦争は概ね片がついたと言って良い。あとはモスクワを落としてソ連を解体するだけとなった。
1941年5月31日
エストニア・ラトビア・リトアニアからソ連軍の駆逐に成功していた。そして、ウクライナ東部に集結した日露英連合軍が、ウラル山脈方面では日露連合軍がモスクワを目指して前進を開始した。
1940年11月頃から強化された爆撃によって、ソ連軍の機甲師団はほとんど壊滅状態と言って良かった。戦車や車両をどんなにカモフラージュしても、日本軍偵察機による索敵からは逃れられない。日本軍は戦車や車両だけをピンポイントで爆撃し、確実に破壊していった。
軍需工場や発電所、鉄道なども徹底的に破壊し、ソ連の工業生産はピーク時の5%にまで低下している。食糧の供給もままならなくなったため、ソ連の地方都市では飢餓が発生するまでに至っていた。
そして、何もかもが不足している前線部隊の士気は低かった。
「残存部隊を全てモスクワに集めよ」
スターリンは赤軍全軍に対して、モスクワに集結し守りを固めるように指示を出す。その際、道中にある町や村から食料を全て徴発するように命令を出した。モスクワでは、今日食べる小麦すら満足に確保できていないのだ。
こうして、赤軍は自国民から食料を略奪するという暴挙に出てしまう。兵士一人一人は略奪行為に抵抗があったが、上からの命令であれば心の負担も減るのだ。赤軍が通り過ぎた後には、何も残されていなかった。その為、進軍する連合軍は戦うことよりも、食料を配る事が主な仕事となってしまう。
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