第320話 D-day(2)
4月3日の爆撃は熾烈を極めた。
延べ数5000機以上のイギリス軍機による爆撃によって、ノルマンディー地方の海岸線はまるで月面のようなクレーターだらけになってしまった。爆弾を投弾した爆撃機はイギリスの基地で補給をし、すぐにノルマンディーに舞い戻って再度爆弾をばらまく。容赦の無い攻撃は日没を過ぎても続き、海岸線では木も草も消し飛び、生命の息吹は全く存在しない荒野になったかに思えた。
しかし、強固に構築されたドイツ軍地下陣地はその爆撃に耐えたのだ。出入り口が爆撃によってふさがれても、すぐに地上まで通路を確保できるように工兵隊を十分に配置していた。
そしてその状況は、有線電話を使ってロンメルにも届けられた。
「よし、良く耐えた。敵の上陸部隊がイギリスを出航しているとの報告がある。おそらく夜明けと共に上陸をしてくるだろうが、夜の内に来る可能性もある!十分に準備をしておけ!」
イギリスに潜入させているスパイから、大量の上陸部隊が出航したとの連絡が無線封鎖がされる直前に入っていた。出航の時間から夕方には上陸を開始するかとも思われたが、どうやら洋上で一夜を明かし、夜明けと共に上陸を開始するのだろう。小部隊ならいざ知らず、大軍を夜間に強襲揚陸させるなど常識的に考えて不可能だ。しかし、日本軍の支援を受けている為、その常識も疑わなければならない。
「しかし、妙だな・・・。確認された爆撃機はイギリス軍の物だけか?日本軍の重爆撃機やジェット戦闘機は確認されなかったのか?」
連合国軍の攻撃が一段落つき、今日の攻撃を冷静に分析したロンメルは、強烈な違和感に襲われた。
確かに大量の爆撃機による攻撃はあった。この攻撃でドイツ軍の防衛陣地を破壊し上陸部隊を接岸させるのだろう。常識的に考えればその通りだ。
しかし、それならば何故日本軍は参加していないのだ?過去の日本軍の精密爆撃によって、ドイツ軍の前線地下司令部もピンポイントで何カ所も破壊されている。それこそ、地下10メートル以上の深さでも破壊できる爆弾を日本軍は持っているのだ。
何故それを使わなかった?
――――
1941年4月4日午前零時
「モントゴメリー司令!本国から通信です!“ロンドン・エアポートは霧の為閉鎖”繰り返します!“ロンドン・エアポートは霧の為閉鎖”です!」
イギリス陸軍モントゴメリー総司令のもとに、“ロンドン・エアポートは霧の為閉鎖”という符丁が送られてきた。待ちに待ったこの時がやってきたのだ。あのチョビ髭をつるし上げてヨーロッパを開放するのだ。
「来たか!よし、諸君!これよりヨーロッパ再上陸作戦”オペレーション・ポテト”を開始する!心してかかれ!」
同時刻 北海
現在北海には、日本の空母大鳳・龍鳳・祥鳳の三隻が進出している。その三隻にも“ロンドン・エアポートは霧の為閉鎖”の符丁は届けられていた。
「賽は投げられた。戦闘攻撃機隊発進せよ!」
大鳳型超大型空母三隻から、九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機の編隊が次々に発艦していく。
――――
1941年4月4日午前5時
「なんだと!?デンマークのベジャービーチが爆撃を受けているだと!?」
ロンメルの元に急報がもたらされた。午前0時頃から、デンマークのベジャービーチが日本軍と思われる航空機によって爆撃を受けているとのことだ。
「くそっ!上陸作戦はあっちが本命か!欺されたのか!」
イギリスに忍ばせているスパイから、多数の上陸部隊がイギリス南部に集結しつつあるという情報を、かなり前から掴んでいた。そして、その部隊は強襲揚陸作戦の猛訓練をしているとの情報だった。
間違いなく、ヨーロッパ再上陸作戦の訓練だ。
そして同じ頃、連合国軍がノルマンディーに上陸するという情報がソ連からもたらされたのだ。
これは、ソ連がイギリス中枢部に忍ばせていた「ケンブリッジ・ファイブ」というスパイ組織が入手した情報だ。
彼らは皆ケンブリッジ大学の出身で、貴族階級の者も居る。その中のアンソニー・ブラントに至っては、エリザベス二世の母親である現エリザベス王妃の従兄弟なのだ。彼らは皆、エリートの愛国者だと思われていたのだが、その裏で共産主義に染まり、ソ連に情報を流していた。
しかしその事を当然知っていた高城蒼龍は、イギリス政府と協力して彼らに偽情報を掴ませたのだ。
“連合国はノルマンディーに上陸する”
ドイツは、ソ連に忍ばせていたスパイからその情報を入手し、連合国の上陸地点をノルマンディーであると判断した。
そしてその情報の通り、ノルマンディーに対して苛烈な爆撃が実行された。ロンメルはソ連からの情報が正しかったと、そう思った。
「なぜ今まで解らなかったのだ!攻撃が始まったのは午前0時なのだろう!?デンマーク方面の部隊は何をしていたのだ!」
ロンメルは報告に来た通信士を怒鳴りつけた。彼を責めてもどうしようもないのだが、ロンメルの焦りがそうさせてしまったのだ。
「げ、現在デンマーク方面とは全く連絡が取れません!その為、デンマーク方面軍の通信兵が、バイクでフレンスブルクまでたどり着いて連絡をしてきたのです」
デンマーク国内では、連合国軍が現地に忍ばせた工作員により、通信ケーブルの切断がされていた。無線も4月3日から北海沿岸全域にわたって使えなくしている。その為に、ロンメルの所まで情報がもたらされるのに5時間もかかってしまったのだ。
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