第311話 収容所開放
ワルシャワを解放した日露軍は、ワルシャワを拠点にしてポーランド国内に作られたユダヤ人収容所を次々に開放していった。
ポーランド国内には、アウシュビッツをはじめとして5カ所の収容所が作られていた。その全てが劣悪な環境で、収容者達は次々に死んでいく。現時点に於いては、ガス室などの積極的な虐殺は実施されていなかったが、次の春までには、半数くらいが死ぬだろうとナチスは見積もっていた。
そして、解放された収容所はどこも地獄だった。
収容所で撮影された写真や収容者の証言が、世界中の新聞に掲載される。この報道は、沿海州に建国準備中のユダヤ人国家にも衝撃を与えた。
――――
「高城よ、人間はこんなにまで残酷になれるものなのか?」
宮城(きゅうじょう 皇居)で天皇は高城蒼龍に問いかける。天皇は、アウシュビッツで起こっている事を高城から聞かされていたが、実際の惨状を見て強い衝撃を受けていた。
「はい、陛下。人の心は虚ろで何かの影響をすぐに受けてしまいます。それがルールであり正義であるとすり込まれれば、人は喜んで残虐な行為に手を染めるでしょう。残虐な行為を実行している人間も、誰かに指示をされてするのであれば、その責任の所在は自分に求めなくてすみます」
「たしかにそうだな。戦争とは人と人が殺し合う行為。通常では無い状態だが、それが国家の意思であるとされれば、皆、勇んで戦地に赴く。一番血に汚れた手をしているのは、朕なのであろうな」
天皇はそう言って、自分の両手を見る。戦争の詔勅を出し、日本をこの大戦に導いた責任は自分にあるのだと改めて思った。
「陛下。国を、世界を守るためには誰かが決断を下さなければなりません。その責務を背負われている陛下を、私は尊敬しております」
そう言って、高城は天皇に最敬礼をした。しかし、戦争の詔勅を出したのは天皇だが、そこに導いたのは高城蒼龍だ。宇宙軍を組織して、21世紀の兵器を開発した。それは、平和への努力が身を結ばず、第二次世界大戦が発生した場合に備えての事であった。だが、ヨーロッパの戦争なのだから、日本の若者を死なせるようなことをしなくても良かったのでは無いか。高城の中にも、常にその葛藤はあった。
しかし、ソ連とドイツの暴虐を誰かが止めなければ、この惨禍はもっと酷いものになっていただろう。リリエルの言を信じるなら、その後のアルマゲドンで人類は衰退してしまう。高城は人類の未来に希望を持っていた。憎み合い戦争で殺し合うこともあるが、いつかは和解し共に歩みを進めることが出来ることを知っている。人類の未来は、少しずつだが良い方向に向かうはずだ。高城蒼龍は、その可能性を消したく無かった。
――――
1941年2月
ヨーロッパ・シベリアの戦いは冬に入り、ほとんどの戦線で膠着状態に陥っていた。
シベリア方面では、ウラル山脈を挟んで日露軍とソ連軍がにらみ合っており、大規模な戦闘はしばらく発生していない。ヨーロッパ方面ではポーランド領土の大部分を取り返すことに成功した時点で進軍を止めている。ウクライナ方面は、相変わらずドニプロ川でソ連軍と対峙していた。
「次は、我がフランスの奪還ですね」
自由フランスの首班、シャルル・ド・ゴールとチャーチルおよび両軍の参謀達が会議をしていた。
「そうですな、ド・ゴール将軍。日露軍がドイツ軍を東方に貼り付けているので、今が好機でしょう。日本軍から提供された戦車や戦闘機、その他の兵器の習熟も進んできました」
英仏連合軍がフランス北部の海岸に上陸作戦を実行するため、日本から最新兵器が提供されていた。
九六式主力戦車 700両
九七式自走高射機関砲 400両
装輪戦闘車 500両
零式戦闘攻撃機 200機
携帯式地対空誘導弾 8000セット
その他多数
この戦力に、改修型のスピットファイア1100機他、イギリス軍の兵器が加わる。フランス軍12万人にイギリス軍35万人を中心とする大部隊が、準備を整えつつあった。
「日本が全面的に兵器を提供してくれたのはありがたかったですな、ド・ゴール将軍」
「ええ、私も九六式主力戦車に乗ってみましたが、あれはまさに未来の兵器ですね。敵戦車を捕捉すれば百発百中とは、ちょっと信じられません」
「本当ですな。先の欧州大戦から20年、その間に日本だけ時間が進んでしまったようですな。口惜しい限りですが、日本の協力がなければヨーロッパへの再上陸はもっと先になっていたことでしょう」
同席している参謀達も、確かにその通りだと思った。日本が居なければ、イギリスと自由フランスだけでヨーロッパへの再上陸は、先になるどころか未来永劫不可能だったかもしれない。そして誰もが思う。なぜアメリカは参戦してくれないのだろうかと。
「兵器のリバースエンジニアリングは固く禁止されていますが、整備兵や技官が解る限り調査をしたところ、その根幹はコンピューター技術だと言うことですな」
「そうらしいですね。ブラックボックスの中にあるコンピューターによって様々な計算をしている様ですが、それを実現するためには真空管が数万本も必要らしいですよ。日本は真空管を使わずに、何かしらの新技術を使っているのは間違いないでしょう」
「結局、一部しか技術開示をしてもらえなかったのは残念だが、この戦争が終わったら技術協力をすると言っておる。戦争が終わるまでは、どうやっても秘匿したいのだろう」
「それも致し方ありますまい。早くこの戦争を終わらせて、一緒に繁栄の道に戻りましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます