第308話 ワルシャワ蜂起(6)
「ティレヴァンガー師団長、敵小型偵察機の撃墜に成功したそうです!」
第36SS武装擲弾兵師団の少尉がティレヴァンガー師団長の元へ駆けてきて報告をする。
「それは本当か!?」
「はい、師団長。全長1メートルくらいの大きさで、小型のエンジンで四つのプロペラを回しているようです。中央には、小さいカメラが装着されていました。どうやら、ラジオコントロールで操縦をしているようです」
「よし、よくやった。お前はそれをすぐにベルリンに送れ!最優先だ!これで日本軍の技術の解析が出来るぞ」
ティレヴァンガーにとって、この小型偵察機を確保できたことは僥倖であった。現在の戦況を考えると、このワルシャワを失陥してもおかしくは無い。しかし、その原因がこの未知の新兵器のせいだとすれば、言い訳にもなるし新技術を獲得できるきっかけにもなる。
これなら、万が一ワルシャワを失陥しても、全面的に責任を負わされることはないはずだ。
「しかし、音速を超える戦闘機にモンスター戦車、さらに無人の小型機か。一体日本軍の装備はどうなっているんだ?」
――――
「第二中隊は右の路地だ!第三中隊は左の路地を固めろ!絶対に敵を通すなよ!」
攻撃ヘリの援護を要請しているが、現状斉藤の所に来る事は出来ていない。
広い場所と防塁を確保できる元ポーランド王宮に、避難民を集める計画が立案された。この王宮には優先的に攻撃をしかけ、既に日露軍が確保しており比較的安全な地域となっている。しかし、散発的に榴弾や迫撃弾が撃ち込まれていて、避難民や日露軍兵士に被害が出ていた。その為、その榴弾砲や迫撃砲の排除の対応に攻撃ヘリが当たっているのだ。それに、ワルシャワ全域の至る所で避難民がドイツ軍に襲われていて、その支援にも攻撃ヘリがかり出されている。
ドイツ軍に比べて日本軍の戦闘能力が圧倒的に高いとしても、敵は無限に湧き出てくるので弾薬の消耗も激しい。
「くそっ!弾薬が無くなったら銃剣で戦うか?それだけは避けたいんだがな」
撤退戦の訓練は何度も行っているが、実戦での撤退戦は斉藤にとって初めてだった。しかも、大量の避難民の殿(しんがり)を務めるという状況は訓練でも実施したことがない。
――――
「斉藤少佐の部隊が苦戦しています。弾薬の残りも少なくなっています」
“アルテミスの女神”からの情報は、現地の阿南司令もリアルタイムに受信している。司令部天幕にある50インチの液晶ディスプレイには、ワルシャワ各所での戦況が映し出されていた。
「攻撃ヘリ第15小隊は補給ができ次第、斉藤少佐の援護に向かってくれ!それと、重傷者を回収する。輸送ヘリも向かわせろ!」
阿南は自分自身が陣頭に立って指揮をしたいという欲求を抑えつつ、祈るようにディスプレイを見ている。自分だけ安全な場所から前線部隊へ指示を出すというのは、どうしても兵士に対して申し訳ないという意識を持ってしまう。しかし現在の日本軍の運用では、この野戦司令部にもっとも早くて正確な情報が集まるのだ。責任者が責任を持って指揮しなければならない。そうしなければ、戦場を俯瞰した戦いなど出来ないのだ。
“しかし、女神の分析能力はすさまじいな”
対独対ソ戦が始まった頃は、ここまでのバックアップ体制は構築できていなかった。当初、偵察機からの情報は画像として野戦司令部に送られてくるだけだった。それでも、その画像を見れば敵味方の位置を把握でき、有利に戦いを運ぶことができた。そして今では、日本の宇宙軍本部で分析をして、敵味方の位置情報そして詳細な戦力と一緒に野戦司令部に送られてくるのだ。
阿南は、このシステムを構築した宇宙軍の能力に心底驚愕していた。自分自身が陛下の侍従武官を務めていた頃、宇宙軍の高城蒼龍(たかしろそうりゅう)が陛下に頻繁に呼び出されていた事を思い出す。思えばあの頃からこの大戦を睨んだ計画を立てていたのだろう。
“しかし、なぜ?”
そういえば何年か前、石原莞爾が退役の挨拶に来たとき「高城蒼龍は現代の人間ではありませんよ」と言っていた。その時は、それほどまでに優秀な人材だという意味だと捉えていたが、もしかすると石原は“言葉そのものの意味”で言っていたのではないか?そうで無ければ説明のつかないことが多すぎる。
“まさかな。空想科学小説でもあるまいに”
「阿南司令!攻撃ヘリ第15小隊の補給が完了しました!これより斉藤少佐の支援に向かわせます!」
「うむ、頼んだぞ!」
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