第304話 ワルシャワ蜂起(2)
曇天の空を、埋め尽くさんばかりのパラシュートの花が開いた。友軍の降下訓練など聞いてはいない。それは、日露軍の空挺部隊に間違いは無かった。
「撃て!撃て!」
地上にいたドイツ兵達は、空から落ちてくるパラシュートに向かって小銃を撃ち始めた。対空砲も射撃を開始する。しかし、爆撃だと判断して多くの兵が防空壕や建物に避難したため、日露軍の空挺部隊に対する対空射撃は限定的なものとなってしまった。
さらに、雲の中から多数のオートジャイロが現れた。ウクライナの平原で、地上部隊に対して無双していた日露軍の攻撃型オートジャイロだ。機首の20mmガトリング砲と機体サイドに取り付けられている有線ミサイルやロケット弾によって、市街のあちらこちらにある防塁に対して攻撃を開始した。応戦をするが小銃弾では全く歯がたたず、12.7mm弾でも仕留めるのは困難だった。
――――
「ベルベデルスカ通りとドルナ通りの交差点に集結だ!急げ!」
降下に成功した日本陸軍第一空挺団の斉藤肇(さいとうはじめ)少佐は、インカムで団員に指示を出す。そして、降下中に撃たれた隊員の治療を衛生部隊に命令した。
空挺団は常に防弾ベストを着用しているが、今回はさらに足と腕にも防弾プロテクターを装備していた。これは、降下中に被弾した場合の負傷を、最小限にするためだ。団員達は、着地したと同時にパラシュートと手足のプロテクターを外して、すぐさま作戦行動に入った。
敵が支配する市街地への降下作戦を打診されたとき、斉藤の心拍数は跳ね上がり、野戦電話の受話器を持つ左手が震えているのがわかった。しかし、それは怖かったからでは無い。こんな無謀な作戦を打診されると言うことは、それだけ自分の率いる第一空挺団が信頼されていると言うことだ。阿南司令からの篤い信頼を感じ、その使命感に武者震いがしたのだ。
「敵前降下ですね。任せて下さい。我々なら必ず成功させます」
そして、作戦開始まで18時間。それまでに、ワルシャワ市街地の地図を頭にたたき込む。何処に着地したとしても、すぐに集合して作戦行動に移れるようにしなければならない。
今回の作戦には、日本陸軍は第一から第十一空挺団、ロシア陸軍空挺団の合計42,000名が参加している。まず、日本陸軍第一から第四空挺団の7,000名と攻撃ヘリによって、ワルシャワ市街の南側を制圧する。そして安全地帯を確保し、そこに残りの35,000名を降下させる作戦だ。
そして、空からは攻撃ヘリによってドイツ軍の防塁や装甲車両を撃破していった。赤外線照準器に映し出されたドイツ兵を20mmガトリング砲で粉砕していく。対空車両や戦車を有線ミサイルで撃破する。友軍による誤射を防ぐために、空挺団のヘルメットと肩と背嚢には赤外線照準器で見たときに識別できるマーカーを貼ってある。これによって、安心して敵に攻撃が出来るのだ。
今回の作戦では、ある程度の損害は覚悟の上だった。敵のまっただ中に空挺団が降下するのだ。こんな非常識な作戦を立てる司令部もどうかと思うが、その作戦に喜んで参加する空挺団の連中も、たぶん頭のネジが吹っ飛んでいるのだと思った。
そんなぶっ飛んだ連中をサポートするのが、ヘリ部隊の任務だ。作戦の失敗は、空挺団の孤立と全滅を意味している。この戦いは絶対に負けられない。
――――
「味方の増援よ!もうすぐ来てくれるわ!それまでここを死守するのよ!」
通りを塞いだバリケードで、ハンナ・ディデックは迫り来るドイツ兵に小銃を撃ち続ける。ポーランド国内軍がワルシャワ市内で一斉蜂起した際に、それに呼応して銃を取った。最初は市内のドイツ軍を撃退し占領地を広げることができたが、それも長くは続かずすぐに劣勢に立たされてしまった。そして、ポーランド国内軍は地下下水道を使って撤退を始めてしまう。しかし、一緒に蜂起した市民の多くは地上に取り残されてしまったのだ。ハンナは市民を守るために、仲間を集めてバリケードを構築し、ここを最終防衛ラインとして応戦をしていた。
そこに、空からポーランド国歌が流れてきたのだ。
「我々は日本軍です。市内にパラシュート部隊が降下し、市民の救出にあたります。もう少しの辛抱です。もう少しだけ持ちこたえて下さい」
そして、国歌の後にそんな言葉が聞こえてきた。声の主は、赤い丸の国章を付けたオートジャイロからだった。
――――
「くそっ!ダメだ!持ちこたえられない!」
街中の至る所で、ドイツ軍は敗退を重ねていた。ドイツ軍が装備しているKar98k小銃に比べて、日本軍の持っている自動小銃の火力は圧倒的だった。ボルトアクションのKar98kは、一発撃つとボルトを引いて排莢と再装填をしなければならない。しかも5発しか弾倉に入らないので、すぐに予備のクリップを取り出して補充しなければならないのだ。こっちが5発撃つ間に、日本軍は100発も撃ってくる。しかも、連中は被弾して倒れても、すぐに起き上がってくるのだ。高性能な防弾ベストを着ているという情報はあったが、小銃弾も通さないなんてインチキ以外の何物でも無い。
しかも、頼みの戦車は日本軍のオートジャイロによって撃破されているようで、全く援軍に来ない。来たとしても、一両や二両では、日本軍の持っている携帯ロケット弾によって簡単に撃破されてしまうのだ。配備されたばかりのV号戦車もロケット弾の前に全くの無力だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます