第302話 国共合作(2)
「毛同志、浮かない顔をしてどうされたのですか?」
自室に戻った毛沢東を、妻の江青が優しく迎える。彼女は毛沢東の4番目の妻だ。毛沢東が先妻とまだ婚姻関係だったころから、毛沢東と交際するようになった。いわゆる不倫略奪婚だ。元々女優で都会的な美人だった江青は、共産党の中では非常に目立つ存在だった。しかし、結婚した後は表に出ることも無くなり、毛沢東の貞淑な妻として振る舞っていた。
「ああ、国民党から停戦の申し出があったよ。これ以上の内戦は国土を疲弊させるだけだとね。そして、総選挙をおこなって、共に中国の発展に尽くして欲しいという事らしい」
その言葉を聞いた江青の表情はぱぁーと明るくなり、満面の笑みを浮かべて毛沢東の顔をまっすぐに見つめる。そして、毛沢東の手を両手で握り、
「毛同志、素晴らしいことですわ。これで戦いが無くなり、人民が戦争で死ぬことや飢えることが無くなるのですね。全土で総選挙をおこなうのでしたら、人民は必ず毛同志のことを支持します。民が苦しむこと無く、毛同志がこの中国の指導者になることが出来るでしょう」
「しかし、総選挙で共産党が政権を取れるかどうかはわからぬ」
「毛同志、自信を持って下さい。私も全ての力を毛同志の為に捧げましょう。人民は毛同志の誠意を理解し、その指導力に付き従うでしょう。必ず良い結果になります」
「そうか、そうだな。例え内戦で勝ったとしても、人民の支持が無ければ国家の建設は出来ぬ。ならば、人民の支持を得てから国家を建設すれば良いと言うことだな。よく言ってくれた。これで私の心は決まったよ」
毛沢東には、江青のその笑顔がまるで天使のように見えていた。夫である自分を支える貞淑で聡明な妻がそう言っているのだ。その言葉に間違いは無いと思った。
そして、毛沢東は蒋介石に対して国共内戦の終結と、総選挙への参加を受諾する。
――――
宇宙軍本部
「中国内戦の終結か。まさか実現するとは意外だったな」
高城蒼龍は報告書を読み、安堵の表情を浮かべる。
「しかし、本当に共産党が大人しく選挙に応じるのか?どうにも信じ難いな」
テレビ会議システムの向こうで、有馬勝巳が訝しげに言葉を続ける。
「KGBの調査では、毛沢東は共産革命の野望を諦めていないという報告だったんだけどな」
「ルルイエ機関による周恩来や董必武といった日本留学組への調略が奏功したんじゃないかな。日本の農民の生活を見て、共産革命によらずとも生活の向上が出来ると考えてくれたんだと思う。特に周恩来は、合理的思考の出来る人間だよ」
「いずれにしても、このまま中国が安定してくれるに越したことはないね」
――――
1941年1月に、国民党と共産党とが共同で憲法を制定し、その憲法下で総選挙がおこなわれる事が決定された。
アジアの国々は中国の安定化を、諸手を挙げて歓迎していた。
――――
1940年12月
ヨーロッパの戦線は膠着状態に陥っていた。
ルーマニアから進軍した日露軍は、東はドニプロ川まで占領し西はポーランドのワルシャワ直前まで軍を進めている。
ドイツ軍はワルシャワの中心部を流れるビスワ川を防衛ラインとし、ここに集結を完了していた。
ル号作戦が開始されて二ヶ月、日露軍の進軍する先々では筆舌に尽くしがたい戦いが繰り広げられていた。
東のソ連軍との戦闘では、村の女子供にまで手榴弾を持たせて日露軍に突撃をさせてくるのだ。そのあまりにも非人道的なやり方に、日露軍の兵士達はソ連共産党に対して激しい怒りを燃やしている。そして、進軍はどうしても慎重にならざるを得ず、ドニプロ川までで戦線の拡大を停止してしまった。
また、西のドイツ軍との戦闘では、ドイツ軍は住民を皆殺しにしながら撤退していく。日露軍に対抗できないことが解るとドイツ軍は遅滞戦闘に転換し、そして焦土作戦をおこないながらじりじりと撤退していった。そして、ドイツ軍が居なくなった町や村に日露軍が進駐した際には、必ずおぞましい光景が目に入ってくる。町の至る所で銃殺された女子供の死体、死体、死体。特に、カミンスキー旅団や第36SS武装擲弾兵師団が通った町は辛酸を極めていた。
多くの婦女子が陵辱され切り刻まれた姿で放置されていたのだ。その傷のほとんどには生体反応があり、それは生きたまま切り刻まれた事を物語っていた。
※史実では、第36SS武装擲弾兵師団のあまりの残虐行為に対して、責任者であるディルレヴァンガーがドイツ軍法会議によって裁かれることになった。しかし、ゴットロープ・ベルガー親衛隊少将がディルレヴァンガーをかばい、軍法会議はうやむやの内に開催されることはなかった。
この事が伝えられると、ポーランド亡命政府は一刻も早いポーランド解放を要請し、また、ポーランド国内で反ドイツ活動をしている“ポーランド国内軍”に対してワルシャワ解放の指示を出す。
そして1940年12月15日、ポーランド国内軍はワルシャワにて一斉蜂起を開始した。
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