第301話 国共合作(1)
1940年12月
中華民国がアジア経済連合に接近するという判断を下したため、アメリカは中国内戦(国民党と共産党との内戦)への関与を薄めていた。
このため、国民党は共産党と戦うための武器と資金の不足に直面する。そして、その援助を日本をはじめとする東アジア条約機構に要請したのだが、ドイツ・ソ連と戦争をしているため、中国大陸への関与は出来ないと返答された。
そして、蒋介石は共産党との停戦を模索する。
「毛主席、停戦に応じていただければ、蒋総統は共産党の合法化を認めるとおっしゃっています。そして、憲法を制定した後に総選挙を実施、民意に基づいた国家を共に建設していこうではないですか」
剿匪司令(盗賊を倒す司令。ここでの盗賊とは共産党のこと)に任じられていた張学良が、全権特使として毛沢東の下に訪れていた。
「しかし張司令、我々が停戦に応じたとたんに寝首を掻くのではないですか?今までの国民党の行いを見ると、とてもすぐには信じられません」
そう言われた張学良は、“お前が言うか?”と心の中でつぶやく。
共産党はその勢力を拡大するために、近隣の村々を支配下に置いていった。そしてその過程で、地主や富農、中央からの役人を“人民から食料を搾取する犯罪者”に仕立て上げ、ことごとくを公開処刑していたのだ。
『国民党の手先は人民を欺し、気付かないうちに食料を搾取しているのだ!人民が貧しいのは全て国民党の犯罪行為によるものだ!みんな欺されている!造反有理だ!』
※造反有理 1939年のスターリン誕生60年祝賀大会で初めて使われた
無学な人民は、この共産党のプロパガンダを真実としてすり込まれてしまう。実際、国民党から派遣されている役人は皆偉そうにして、当然のごとく賄賂を要求していた。そういった事情を知っていた人民にとって、共産党の主張は真実に聞こえてしまったのだ。
そして共産党を受け入れた村々には、それまで以上の苛烈な搾取が待ち受けていた。
「蒋総統は、国民の生活を豊かにするためには農業改革と貿易の拡大が急務と考えています。その為、アジア経済連合への加盟を申請したのですが、国内で統一した総選挙が行われていない事と、共産党との内戦を理由に準加盟扱いです。正式加盟になれば、農業分野への多大な援助を約束しています。何としても国内の安定化を図り、国民から貧困を駆逐したいと思っているのです。その思いは毛主席も同じであると信じています」
「それはその通りだ。しかし、総選挙が公正に行われる保証は無い。そこはどのように担保してくれるのだ?」
「はい、毛主席。アジア経済連合への正式加盟条件として“公正な総選挙”が求められています。もし、公正で無かった場合は正式加盟を拒否されてしまうため、本末転倒の結果となるでしょう。蒋総統はそのような愚かな指導者ではありません」
「それはつまり“担保は無い”と言っているに等しいのではないか?我々を油断させておいて寝首を掻くことが目的なら、アジア経済連合への正式加盟を先送りにしても良いと判断した可能性もある」
「そこは、蒋総統を信じてもらうしかありません。毛主席も、ソ連からの援助が途絶え懐事情は厳しいのではないですか?」
毛沢東は考える。確かに、日ソ戦が始まって以来ソ連からの援助はほとんど途絶えてしまっている。しかし、国民党政府はアメリカとの関係が冷えてしまい、軍事援助も減らされているという分析もある。だからこそ、国民党政府は停戦の打診をして来たのだろう。自分たちが苦しいときは、敵も同じように苦しいと言うことだ。
「張司令、わかりました。即答は出来ないので検討させてください。一週間以内には返答しましょう」
――――
「毛主席。これ以上の内戦は国土の疲弊を招くばかりです。それに、ソ連からの援助が望めない以上、我々が殲滅させられる可能性も十分にあります。国民党と協調して、政権運営に関われるようにするのが得策ではないでしょうか」
元々宥和派だった周恩来は、蒋介石からの提案に乗るべきだと主張した。また、ベトナムの独立準備に向けて、緩やかな社会主義国家建設をアジア経済連合が後押ししている事も判断材料になった。周恩来は学生時代を日本で過ごしており、日本が推し進める、ベトナムの緩やかな社会主義国家建設に可能性を感じていたのだ。
また、中国共産党の創立メンバーである董必武も、周恩来の主張に同調した。彼も日本に留学した経験があり、その当時の知己から日本の現状を聞き、急激な共産化でなくても人民を豊かに出来るのではないかと思うようになっていた。
中国共産党幹部には、学生時代に日本に留学した者も多い。そして、彼らは日本に親しい友人を持っている。高城蒼龍は、そういった日本の知人を介して共産党幹部の懐柔を図っていたのだ。
この日の共産党中央委員会では結論に至らず、最終的に毛沢東の判断に一任されることになった。
「わかった。一晩考えさせてくれ」
毛沢東のその言葉で中央委員会は一度解散になる。
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