第282話 プロイエスティ爆撃(4)

「ドイツ軍機62機が離脱。西に向かっています。おそらく重爆撃機隊を攻撃するものと思われます。速度は950km/h」


 哨戒機から岩本大尉へ通信が入る。


「こちら岩本大尉。速度が950km/hというのは本当か?ということは情報のあった新型のジェット機だな」


 宇宙軍からは、ドイツ軍でジェット戦闘機が開発中との情報が寄せられていた。最高速度は1,000km/h、機首に15mmもしくは20mm機関砲4門を搭載している重武装との事だった。


 九八式重爆撃には自衛用の武器はない。もしMe262に襲われたらかなりの損害が出てしまうだろう。岩本大尉は220機の九七式戦闘攻撃機の内、半数の110機を引き連れて重爆撃機の護衛に向かった。


 ――――


「もうすぐ日本軍の重爆撃機が見えるはずだ」


 Me262の操縦桿を握るガーランドは、西の空を睨んで日本軍機を探していた。四発の大型重爆撃機ということなので、そろそろ目視できるはずだ。プロイエスティからかなり距離を取ったので、日本軍が我々に気付いたとしてももう迎撃には間に合うまい。


「敵機発見!日本の重爆撃機隊だ!護衛の戦闘機はもういない!全機突入!」


 ガーランドは無線で発見の知らせを流すが、もちろん誰からも返答は無い。妨害電波によって完全に無線封鎖されている。


 ガーランドは翼を振って、前方に爆撃機を発見したと僚機に合図を出した。Me262隊はガーランド機を先頭に紡錘陣形のような形で日本軍爆撃機隊に突撃していく。


 高度12,000m、速度も950km/h出ている。敵の爆撃機は速度550km/h程度ということなので、これなら確実に撃退できるはずだ。


 と、そのとき、


「うぉっ!何だ!?」


 突然、後方の下側から前方に抜けていく物体が見えた。そして、その直後“バン”という音とともに機体が振動する。


「あ、あれは何だ!こ、航空機なのか?」


 その物体はオレンジ色の炎を吐きながら、すでに遙か前方で小さくなっている。そして上昇しながら旋回をしているのが見えた。


「さっきの日本軍機か!?もう追いついたのか!」


 ガーランドは機体を少し傾け、後続の僚機がどうなったか確認する。もう、いやな予感しかしない。


「なんてことだ・・」


 そこには、62機いたはずの僚機はすでに半分ほどしか存在せず、後方では炎上しながら降下していく物体がいくつも見えていた。


「いったい何が起こっているんだ!」


 これは悪い夢に違いない!こっちは高度12,000mを速度950km/hで飛行しているんだぞ!それを、自分たちを追い越して遙か上空で旋回するなんて、そんなことが出来るはずがない!


 しかし、現実はもっと残酷だ。


 追い越していった日本軍機は遥か上空で旋回し、自分たちの後方に回り込んだ。あっという間だった。そして、後方上空より襲いかかってくる。それはすさまじい速度と旋回能力だ。明らかにこのMe262の2倍は速度が出ている。


「ふざけるな!Me262は大ドイツの科学の結晶なんだぞ!」


 ――――


「お前達の相手をしているのは日本の技術の結晶、九七式だ!」


 爆撃機隊に向かったドイツ軍Me262を追いかける岩本大尉は、アフターバーナーを全開にして加速をした。九七式戦闘攻撃機のエンジンは、アフターバーナー使用時の最大推力は14,420kgにも達するが、最大でも10分程度しか使用できない。燃料を使い切ってしまうからだ。しかし、敵が爆撃機隊に到着するまでに、なんとしても追いついて全機撃墜しなければならなかった。


 岩本隊110機の九七式戦闘攻撃機は、2,000km/hという速度でMe262に追いついた。そして、相手の死角となる後ろ下方より接近し、追い越しざまに一斉射を加えた。


 九七式戦闘攻撃機には、コクピットの左側に6砲身20mmガトリング砲が装備されている。毎分6,000発の発射速度を誇り、弾道性も非常に良い高性能機関砲だ。


 岩本大尉はMe262をレチクルに捉えて発射ボタンを押し込む。1秒間ほど発射された100発近くの20mm弾は、連射速度が速いためまるで数珠つなぎのようになって敵機に向かっていった。そしてその弾の列はMe262の主翼付け根付近から胴体にかけて命中し、機体を斜めに切断してしまったのだ。


「ひゅうっ」


 追い越しざまにその姿を確認した岩本大尉は、20mmガトリング砲の威力に感嘆の声を上げる。ドッグファイトで敵機を撃墜したのは初めてだった。


 相手との速度差が1,000km/hもあったため、110機の友軍機の内、敵機を捉えることが出来たのは30機ほどしかなかったが、それでも敵編隊の半数を撃墜した。あと1・2回攻撃をかければ全滅出来るはずだ。


「ドイツ軍!地獄へ落ちろ!」


 ――――


「ありえない・・・・このMe262が・・・」


 自分たちの二倍の速度を出し、12,000mより上空から襲いかかり旋回性能も高い。さらにこちらの62機に対して100機以上は襲いかかってきている。しかも、最初の一撃で半数の約30機が墜とされてしまった。遥かに高性能な相手に対して30対100で戦闘が出来るはずも無かった。


 攻撃を躱すために旋回をしたMe262は、みるみる内に速度を落として降下していく。一度速度が落ちてしまうと、このMe262は加速するために時間がかかる。自動車に例えるなら、常に高速ギアに固定しているような物だ。最高速は速いが、その速度に達するまでにどうしても時間がかかってしまうのだ。


 速度の低下したMe262は旋回性能も極端に下がり、もう大空を飛び回る“ツバメ”にはなれない。それはまるで地面を逃げ回るアヒルのような様であった。


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あとがき


表紙を描いて頂ける先生との打ち合わせが3月17日に決まりました!


お会いできるのが本当に楽しみです!


打ち合わせの後、先生のお名前を発表しますね!



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