第281話 プロイエスティ爆撃(3)
九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機はマッハ0.9でプロイエスティ油田を目指す。天気は快晴だ。
そして、地上からはドイツ軍の設置した88mm対空砲(8.8cm FlaK)が咆吼を上げ始めていた。
「なんだ!?あの機体は!?新型か?それに、速い!敵機の高度は12,000m以上!88mmでは届きません!」
この88mm対空砲の最大射高は10,000m程度なので、日本軍機の12,000mの高度までは届かない。それでも、奇跡を信じて高射砲兵達は撃ち続けた。
快晴の空に、何本もの飛行機雲を描きながら日本軍の航空機が侵攻してくる。そしてその周りでは、高射砲が炸裂する煙の華が咲いていた。
「先行しているのは戦闘機だ!後続の爆撃機を落とせば油田は守れる!」
バルカン半島各地に設置してある観測所から、重爆撃機の進路と速度が次々に報告されてくる。その情報に寄れば、敵重爆の到着までまだ30分近くある。これなら、十分にBf109とMe262は間に合うはずだ。離陸したBf109とMe262は大きく迂回しながら高度を上げていく。そして、左前方30kmほどの空域に、日本軍の戦闘機隊を発見した。
「日本軍の戦闘機だ!なんて速さだ!連中もこちらに気付いて向かってくるぞ!気を抜くな!」
しかし、日本の戦闘機と思われる大編隊はこちらには見向きもせずにプロイエスティを目出して飛んでいく。
「なんだと!どういうことだ?まさか爆装しているのか?」
――――
「全機、爆弾投下!」
マッハ0.9で飛行しているため、爆弾投下空域はプロイエスティの遥か手前となる。そして、全機ほぼ同時に爆弾を投下した。
順次爆撃していては、爆発の火災によって正常に画像認識誘導が出来ない為だ。
九七式戦闘攻撃機220機、零式戦闘攻撃機81機から合計602発の500kg爆弾が投下された。先端に取り付けられた赤外線及び紫外線スコープによって市街地と工場を識別し、あらかじめプログラミングされた目標をロックオンする。一度ロックオンしてしまえば、その後多少煙が上がったとしてもその場所に向けて落下していくようになっている。
この500kg爆弾には一発当たり230kgの炸薬が内蔵されている。合計140トンの炸薬が10カ所の製油所にめがけて正確に落下していった。
――――
「市民の避難を急がせろ!何をしている!家財は持ち出すな!とにかく防空壕へ走れ!」
プロイエスティの町では、警察や消防が市民の避難を誘導していた。朝5時台という早朝だったため、市民のほとんどはまだ寝ていた。そして、突然の空襲警報に驚き目を覚ます。
この町は、油田開発と共に大きくなった町だ。工場労働は給与が良いため、若い男達が集まってきた。そして、給与のある若い男は良い妻を娶り子供を産み育てる。この町は若い女子供が多い町でもあった。
「主人が!主人は夜勤でまだ製油所に居るんです!」
「工場は工場で避難をしているはずだ!子供を連れて早く防空壕へ行け!」
若い母親は生まれたばかりの子供を背負い、幼い子供二人の手を握って防空壕へ走る。子供たちは突然の出来事に泣きじゃくっている。夫のことも心配だが、今は子供たちの命を守らなければならない。その使命感が若い母親の足を動かしていた。
そして、郊外から激しい爆発音が響いてきた。その衝撃で地面や建物が揺れている。
「主よ!どうか夫をお守りください!夫はあなたの忠実な僕(しもべ)です!なにとぞお救いください!」
町の郊外からは、激しい黒煙が上がり始めた。
――――
「着弾を確認。重爆撃機隊が到着するまでにドイツ軍戦闘機を片付けるぞ!」
爆撃を終えた九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機は、接近してくるドイツ軍機と一度距離を取るために、加速しながら上昇して行く。そして、高度11,000m付近で旋回し敵の後方上空から襲いかかった。
――――
「なんだ!あの機体は!なんという速度と上昇力だ!」
Me262を率いるガーランドは、距離を取りながら上昇して行く日本軍機を見て驚愕する。新型戦闘攻撃機の可能性が指摘されていたが、明らかに想像の遥か上を行っている。それに、機体の形が異様だ。今までに見たどんな航空機よりも尖っており、空力特性が良さそうに思えた。ガーランドは、敵の航空機であるにもかかわらず、不覚にも“かっこいい”と思ってしまった。
しかし、ガーランド達の目標はあの戦闘機ではない。遅れて接近しつつある重爆撃機隊だ。日本軍の戦闘機はBf109に任せて、自分たちは重爆撃機の予測地点へと舵を切った。
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