第280話 プロイエスティ爆撃(2)
Me262の移動は、極秘の内に実施された。
日が落ちてからドイツの空港を飛び立ち、そして、夜間の内にブカレストのオトペニ滑走路に降り立ちハンガーに格納された。これは、高度16,000mを飛行する日本軍のものと思われる偵察機が確認されていたためだ。
そして、もし日英軍が攻めてきた場合、プロペラ戦闘機によってある程度敵を消耗させてから出撃する作戦が立てられる。誘導ロケットと機銃弾を消耗させてからMe262で叩くのだ。
1940年7月29日午前5時
「ユーゴスラビアの連絡所から通信です!アドリア海から東に向かって多数の爆撃機が侵攻中とのこと!目視できる限りで100機以上です!」
ブカレストに駐屯しているドイツ空軍現地司令部の通信士が叫ぶ。ユーゴスラビアとは軍事同盟を結んではいないが、地政学的な観点から、ドイツの連絡所を何カ所かに設置していた。
「He51とHs123を全機上がらせろ!Bf109とMe262には待機指示を出せ!レーダーに反応はあるか?」
1940年のこの時点で、ドイツは早期警戒レーダーの“フライヤ”を実用化していた。そして、急ピッチで量産され地上配備が進んでいたのだ。
「いえ、レーダーには反応ありません。全てクリアです・・え、あ、レーダーが真っ白になりました!妨害電波の可能性有り!」
「妨害電波か。敵襲に間違いない!高射砲部隊も迎撃準備をしろ!」
ドイツ軍は、合計600機もの複葉軍用機(He51やHs123)を用意していた。既に一線を退いて練習用途に使われるか、スクラップ待ちだった機体だ。この機体に新兵を乗せて離陸させ、日本軍誘導ロケットの的にさせるのだ。
――――
「ブカレスト近郊からドイツ軍の迎撃機が離陸してきます。数はおよそ400。まだ増えています」
日本軍哨戒機から連絡が入る。どうやら日本軍の侵攻は気付かれてしまったようだ。
「こちら第十一中隊岩本大尉。了解した。敵機が対空ミサイルの射程距離に入ったら発射する。指示を頼む」
九七式戦闘攻撃機のレーダー画面では、まだ敵機を捕捉できていないが、哨戒機の高性能フェイズドアレイレーダーでは既に捉えていた。そして、哨戒機のコンピューターは攻撃目標を自動的に割り振り始める。
しばらくすると、九七式戦闘攻撃機のレーダー画面にもドイツ軍機がうつり始めた。高度は高くないがかなりの数だ。そして、ミサイル発射の指示が出された。80機の九七式戦闘攻撃機から320発のミサイルが発射される。ミサイルは、哨戒機からの誘導に従ってそれぞれ割り振られた敵を目指して飛んでいく。
――――
He51の操縦桿を握るカール伍長は朝日を背に受けて西に向かって飛行していた。伍長の階級を拝命してはいるが、実際にはやっと離着陸ができるようになったばかりの新兵だ。自分たちの役割は、日本軍の誘導ロケット弾の的になることだと説明された。だから、この階級は“特進”込みの階級だろうとみんなで笑っていたのだ。
しかし、的になることを命令されたからといって、無駄に死ねと命令されたわけではない。日本軍のロケットを発見したら、すぐに欺瞞アルミ箔を投下する。そして、機体を捨ててパラシュート脱出するのだ。無人となった飛行機は、そのまま飛び続けてロケットの的になってくれるはずだ。同期の戦友達と、必ず生きて帰還することを誓って出撃した。
「ん?あれは、ロケットだ!発見したぞ!」
カール伍長は西の空に、朝日を反射している複数の何かを発見した。間違いない。日本軍のロケットだ。
このHe51には、最初から無線機は搭載されていない。ロケットを発見したことを僚機に合図をして欺瞞アルミ箔を投下した。そして、シートベルトを外し、コクピットから這い出す。
欺瞞アルミ箔が朝日に照らされてキラキラと舞う大空に、多くのパラシュートが開き降下していった。
――――
「ドイツ軍機120機の撃墜を確認!第二次攻撃開始!」
哨戒機の指示で、第二次攻撃のミサイルが発射される。直前に蒔かれたチャフによってかなりのミサイルが的を外してしまった。それに、いつもより敵機のレーダー反応が小さく表示されていた。哨戒機からでは敵の機種までは判別できないが、このレーダー反応に違和感を感じていたのだ。
今回の出撃では、九七式戦闘攻撃機は4本の対空ミサイルと、500kg爆弾2発を搭載している。零式戦闘攻撃機は対空ミサイル2本に500kg爆弾2発だ。上がってくる敵機をミサイルで撃退した後に、速度を上げて爆弾を投下する。そして、続く重爆撃機隊の護衛に当たる予定だ。
何回かのミサイル攻撃によって、ほぼ全てのドイツ軍機を撃墜することができた。
「こちら岩本大尉。これより速度を上げて油田を爆撃する」
九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機が速度を上げてプロイエスティ油田を目指す。今回、九七式と零式の爆弾には、21世紀のJDAMのような誘導装置が試験的に装着されていた。
プロイエスティの町は、中心の市街地の周りに製油所があり、さらにその周りは畑が広がっている。これを画像認識し、あらかじめプログラミングされた製油所に着弾するのだ。
高城蒼龍が自衛官をしていた2032年においては既に実用化されていた技術だが、今世では、なんとか試作にこぎ着けることができた。
「ドイツ軍機が離陸してきます!数は200以上!注意されたし!」
突然、哨戒機から通信が入った。どうやらまだドイツ軍は戦闘機を隠していたようだ。
「くそっ!まだ隠れていたのか!全機速度を上げる!爆弾を投下したら対空戦闘だ!」
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