第279話 プロイエスティ爆撃(1)

1940年7月23日 ベルリン


「プロイエスティ油田を爆撃だと!?」


 アドルフ・ヒトラーが空軍元帥のゲーリングから報告を受けていた。


「はい、総統。イギリス軍に潜入させているスパイからの情報です。日本から重爆撃機200機と戦闘攻撃機300機程度が到着しているとのこと。目標はルーマニアのプロイエスティ油田です」


 ヒトラーは報告書を手に取りパラパラとめくっていく。


「しかし、イギリスからだと距離がありすぎるのではないか?爆撃機なら往復は出来るだろうが、戦闘攻撃機では航続距離は足るまい」


「はい、総統。イタリアの滑走路を整備しているという情報があります。おそらくイタリアで給油をしてから向かうと思われます」


「そうか。この戦闘攻撃機は“未確認型”とあるが、詳細はわからないのかね?」


「はい、総統。詳細は不明ですが、おそらく、我が国のBf110のような双発戦闘機ではないかと分析しております。日本の高出力ターボプロップエンジンを二基搭載した場合、機体が大型になったとしても速度700km/h以上が可能という試算がでております。おそらく、このような機体ではないかと考えます」


「ゲーリングくん。こと日本に対する分析が当たったことはあったのかね?新型Bf109もスピットファイアとは良い勝負だったが、日本の戦闘機にはやはり歯が立たなかったのだろう?日本は強敵だと認識しなければならない。油断をしては勝てぬ。分析の数値より上振れしていると思って作戦をたてねばな」


「はい、総統。おっしゃるとおりでございます。日本軍の最大の脅威は誘導ロケット弾です。その対策として、今回は、旧型のHe51やHs123といった複葉機を600機用意して、誘導弾を引きつけます。地中海からかなり距離があるので、艦船からの誘導ロケットは届きません。戦闘機に搭載できるだけしか無いはずなので、これでロケットを撃ち尽くさせます。そして、新型Bf109で撃退する作戦です」


「なるほど。しかし、プロイエスティ油田は我が帝国の生命線だ。万が一があってはならぬ。例の新型機の訓練も進んでいるのだろう?初陣には最適だと思わないか?」


「はい、総統。Me262も62機出撃出来るよう準備をしております。ブカレストのオトペニ滑走路を拠点として迎撃任務に当たらせます」


 ――――


 戦闘訓練を終えたMe262が順番に着陸してくる。上面を濃緑に、下面を灰色に塗られた後退翼機は、正面から見ても横から見ても下から見ても“未来”を思わせるすばらしい姿をしていた。この美しい姿と異次元の性能に、ゲーリングはルフトバッフェの勝利を信じて疑わなかった。


「ガーランドくん、出撃が決まったよ。ブカレストに異動だ。そこで、日本軍の爆撃機隊を迎え撃つ」


「はい、元帥閣下。光栄です!この機体があれば、どんな敵でも撃退して見せましょう」


「頼もしいな。訓練はどうだ?他のパイロット達も十分に戦えるか?」


「はい。練度は十分です。最高速の1,000km/hは異次元の速度ですね。隊員達もこの速度での戦闘に順応してきました。それに、高度10,000m以上でも素晴らしい機動性を発揮します。まさに空のケーニッヒ(王)と言って良いでしょう」


 鹵獲した日本軍九九式艦上戦闘機からの知見によって、史実よりもジェットエンジンが高性能化されている。その為、最高速度1,000km/h(高度8,500m)という高性能を手に入れることが出来ていた。


 翌日、Me262の先行量産型62機がルーマニアのブカレストに向けて離陸していった。


 ――――


 1940年7月29日午前2時 イタリア


 日英軍によって占領されたイタリア半島に、コンクリート舗装の滑走路が2本整備されていた。そこに九七式戦闘攻撃機220機と零式戦闘攻撃機81機、そして陸軍九八式重爆撃機179機が駐機してある。


「給油急げ!まずは爆撃機からだ!GSP(グランド・セーフティー・ピン)の確認を怠るなよ!」


 深夜の滑走路で、地上整備員達が慌ただしく機体のチェックを進めている。今回は海軍と陸軍との合同作戦だ。その為、九八式重爆撃は陸軍が、九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機は海軍が分担して整備をする。今世では、海軍と陸軍は比較的仲が良い。


 今回爆撃に使われる陸軍九八式重爆撃機は、宇宙軍の開発した九二式大型飛行艇をベースに設計された物だ。星形エンジンをターボプロップエンジンに換装し、爆弾倉の強化等を行った結果、最大ペイロード17,000kg、航続距離11,000km(フェリー時・最大)を実現している。この爆撃機179機による“集中爆撃”によって、プロイエスティ油田の製油能力を完全に喪失させることが目的だ。


 そして、整備の完了した九八式重爆撃から順次離陸をしていく。


「源田大佐。全機出撃準備ができました。いつでも行けます!」


 九七式戦闘攻撃機の第十一中隊を率いる岩本徹三大尉が、源田実大佐に敬礼をする。源田はパイロットを卒業し、海軍航空隊作戦参謀としてこのイタリアに赴任してきていた。


「今回は昼間の爆撃任務だ。かなりの数のドイツ機が上がってくることが予想されている。くれぐれも気を抜くなよ」


 夜間爆撃も検討されたのだが、ドイツ軍機も12,000mまで上がって来られるため、万が一暗闇で格闘戦闘にでもなったら思わぬ事故の発生が懸念される。それに、10カ所ある製油施設を一度の爆撃で確実に葬らなければならない。そういったこともあり、有視界戦闘の出来る昼間の爆撃が選択されたのだ。


「はい!源田大佐!我が航空隊の練度を、ドイツ軍に見せつけてきます!」


 爆撃機に続いて、戦闘攻撃機隊も次々に離陸していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る