第278話 コード『チューブ・アロイズ』(2)
「この高城蒼龍(たかしろそうりゅう)という男がキーマンなのか?」
「はい、首相閣下。MI6の調査によると、天皇の同級生にして最側近。そして、日本の政策決定に影響力を持っているとのことです」
「天皇と同級生なのか?では、この写真はだいぶ前のものか?」
「いえ。この写真は最近のものです。年齢は39歳ですが、実年齢よりかなり若くみえますな」
「まあ、日本人は幼く見えると言うからな。しかし、こんな若造が・・・」
「はい。大日本帝国宇宙軍を組織して、その実質上のトップで有り続けています。これは近代的な軍組織としては非常に異例なことです」
「ロシア皇帝の夫の有馬公爵も同級生なのか」
「はい。ロシア皇帝アナスタシアの救出からサハリンでのロシア帝国建国も、高城蒼龍の手引きだったようです。当時高城はまだ19歳ですが、これだけのことを成し遂げるとはちょっと信じがたいですな」
「しかも、この年にウラン鉱山の買い付けをおこなっているのだろう。高城はどうやって核分裂のことを知ったのだ?」
「核分裂の最初の論文は1902年に発表されているので、学生のうちに勉強して兵器への転用を思いついたのかもしれませんが、もしそうだとしたら、相当の天才か、あるいは悪魔なのか・・」
「それに、日本軍の新兵器の数々も、ほとんど宇宙軍で開発されているのだろう?それも高城が開発したのか?」
「はい。ただ、宇宙軍の設立と同時に優秀な工学系の大学生を多数採用しています。現在も、宇宙軍人の3分の2は研究職ということなので、高城が開発したと言うよりは、高城が中心になって開発をさせたというのが実際のようです」
「そうか。近いうちに一度会ってみたいものだな」
――――
1940年7月某日
ドイツ ベルリン
「フロム大将閣下。ウラン鉱石の採掘ですが、フランス各地の鉱山で順調に進んでおります」
ここドイツでも、フリードリヒ・フロム大将の元で新型爆弾の開発が進められていた。当時のウラン鉱石入手は、主にフランス国内にあるウラン鉱山に頼っていた。含有率は低いのだが、時計の文字盤や研究室で使用するくらいしか需要がなかったため、それまでは十分だった。しかし、ヒトラーは日本に勝つためには新兵器の開発が必須であると判断し、核兵器の開発に舵を切り、急遽ウラン鉱の増産が開始されたのだ。
「そうか。ところで、ウラン235の分離実験はどうだ?うまくいっているか?」
「はい。現在、遠心分離機の性能向上に全力を挙げております。実験設備では酸素と窒素の分離には成功しているので、同じ方法でウラン235と238の分離ができるはずです。しかし、質量差が小さいのでさらに遠心力を上げる必要があり、遠心分離機の性能向上に取り組んでいるところです」
主任研究員のハンス・ガイガーがフリードリヒ・フロム大将に報告をする。ウラン235の純度を上げて行けば、自然に連鎖反応を起こすことは予言されていた。しかし、天然ウランの中に含まれるウラン235は0.7%しかなく、化学的に全く同じ振る舞いをするウラン238との分離が課題だった。そして、中間報告のためフロム大将と共にヒトラーを訪ねたときに、ヒトラーから“重さが違うのであれば遠心分離ができるのではないか?”と発言があったのだ。
それまでは、化学的性質の違いを見つけて分離しようとしていたのだが、このヒトラーの“ひらめき”によって、核兵器開発が大幅に進む事になった。
「フロム大将閣下。それと、研究員のヴァイツゼッカーからですが、核分裂の爆発力があれば、重水素の核融合反応を起こせると報告がありました。彼は核分裂ではなく核融合の専門家なので、このことに気付いたようです。そして、核融合の際に高速中性子が大量に発生するのですが、この中性子によって核分裂しないウラン238がプルトニウム239に変化します。このプルトニウム239はウラン235よりも核分裂を起こしやすく、うまく組み合わせると、膨大なエネルギー量になります」
「高速中性子といっても、良くわからんが、それが完成するとどの程度の爆発力になるのだ?」
「はい。試算ではTNT火薬換算で1億トン以上も可能です」
「1億トンだと!先日までは最大で1万トン程度と言っていなかったか?それでも大都市を完全に破壊できるのに1億トンだと!」
「はい、可能です。ただし、航空機に乗せるほどの小型化は現時点では難しいので、無人の潜水艦に乗せて港や敵艦隊に突入させると言った方法が考えられます」
「なるほど。それでも、TNT火薬1億トンの威力なら、一撃で敵艦隊を全滅できるな。ところで、その爆弾を何発用意できるのだ?」
「現在のウラン採掘量をベースに計算すると、年間10発程度の生産が可能です。もっとも、ウラン235の濃縮がうまく行けばの話ですが」
「そうか、これが完成すれば、世界は我がドイツの足下に屈服するのだな。総統閣下にお伝えして、予算の増額をしてもらおう」
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