第275話 グロスター・ミーティア(1)
1940年7月20日
イギリス グロスターシャー州ハークルコート
グロスター社の開発陣とイギリス空軍の高官、そして日本海軍軍人達が見守る中、イギリス軍新型戦闘機のお披露目がされていた。
全長は13.6m、全幅11.33mと、全幅はスピットファイアと同じくらいだが、全長は4mほど長い。そして、主翼には二発のエンジンが装着されていて、プロペラが無かった。
その航空機は、ゴオオオォォォーーというジェットエンジン音を轟かせながら離陸していく。
昨年、山口艦隊がイギリスにもたらしたガスタービンエンジン技術によって、イギリスではジェットエンジンの開発が飛躍的に加速された。そして、1940年5月末には、静止推力1,000kgを越えることに成功していたのだ。
「パーマー大尉。今日は最高速試験だ!高度11,000mまで上昇して水平飛行に入ってくれ!」
ラウンデル・パーマー大尉はスロットルを全開にして上昇を始める。低高度での加速は新型スピットファイアに負けるが、6,000m以上になればプロペラ戦闘機ではとうてい及ばない高性能を発揮する。最高速度は1,050km/hにも達し、日本軍自慢の九九式艦上戦闘機より250km/hも優速なのだ。そして今日、このジェット機に『グロスター・ミーティア』の名前が与えられた。
「どうですか?我が軍のジェット戦闘機は?世界初の実用ジェット戦闘機です。昨年には初飛行をしていたのですが、ジェットエンジンの信頼性が低く制式化が出来ていなかったのですよ。しかし、貴国からターボプロップエンジンの技術を提供してもらえたことによって、飛躍的に開発が進み、やっと制式化にこぎ着けました。まさに英日の協力によって、世界最強の戦闘機を誕生させることが出来たのです」
グロスター社でミーティアの設計を担当したジョージ・カーターが、誇らしげに日本海軍の三池大尉に話す。今日は日本から増援部隊が到着するため、この飛行場に日本海軍の受け入れ部隊が来ていたのだ。イギリス空軍は日本を驚かせるため、この日に合わせてミーティアのお披露目を実施した。
それに、日本軍の指定した“内陸部にあるコンクリート舗装された長い滑走路”に該当する所は、ミーティアを開発しているハークルコートの飛行場しかなかったということもある。ミーティアの開発の為に、滑走路を延長してコンクリート舗装をしていたのだ。
「実用上昇限度は13,000m以上で、最大到達高度は16,000mにも達します。急降下では、一瞬ですが音速を超えることにも成功しているんですよ。ミーティアが量産の暁には、ドイツはもちろんソビエト連邦もあっという間に叩くことができるでしょう」
説明を受ける日本軍人達は、「ほほう」「そうですか」などの当たり障りの無い返事ばかりで、限界性能や開発経緯に関する質問が全く帰ってこなかった。ジョージ・カーターは、反応の低さに少々拍子抜けしながら説明を続ける。
「爆弾も1,000kg搭載することができます。これは戦闘機としては破格の搭載能力です。1,000km/hもの高速で敵地に浸透し爆撃任務をこなすことが出来るので、これまでの戦闘ドクトリンを塗り替えるエポックメイキングになるでしょう」
最高速試験を終えたミーティアが着陸してくる。今回の試験では、高度11,000mで1,060km/hもの高速を記録した。
日本からの増援は午後2時ごろの到着と言うことだったので、イギリス軍人と日本軍人達は天幕の下で昼食を取ることにした。
「午後から来る日本の増援は、九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機、それに九八式重爆撃ということですが、途中の給油はどのようにされたのですか?」
ラウンデル・パーマー大尉が三池大尉に質問をする。九八式重爆撃は対ソ戦でも使用が確認されており、基本的な性能もイギリスは把握をしていた。しかし、九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機については、現時点に於いても全く資料が無かったのだ。
「九八式重爆撃はチベット・エジプトの飛行場を経由して来ます。九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機は、チベットから地中海の空母瑞鳳を経由して来る事になっています」
「なるほど。九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機は艦上機型なんですね。どんな戦闘攻撃機なんですか?」
パーマー大尉は、戦闘攻撃機と聞いてイギリス軍のハリケーンのような機体を想像していた。ハリケーンも空戦をこなしつつ500ポンド爆弾2発を装備できる戦闘攻撃機なのだが、実際にはどっちつかずの性能はあまり評判が良くない。しかし、チベットから地中海までは3,000kmもあるので、航続距離の長いかなりの大型機なのかもしれない。
「九七式と零式については、到着するまで極秘なんですよ。本当に申し訳ありません」
三池大尉は山口中将から言われたことを思い出す。
「絶対に到着するまで黙っているんだぞ!イギリス人達の度肝を抜いてやれ!」
三池大尉としては、そんな意地悪なことをしなくてもよいのにと思っていた。
「そろそろ到着のはずですね」
東の空からゴオオオオォォォォーーというジェットエンジンの音が聞こえ始めた。
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