第273話 イタリア上陸作戦(11)

「初めまして、モントゴメリー将軍。イタリア首相のピエトロ・バドリオです。この度は会談に応じていただいてありがとうございます」


「イギリス陸軍モントゴメリーです。道中は穴だらけで大変だったでしょう。良く来てくれました。しかし、会談と言われましたが、当方は会談をするつもりは無いのですが・・・・。無条件降伏の受諾に来られたと解釈してよろしいのですかな?」


 ピエトロ・バドリオは、そのモントゴメリーの尊大な物言いに表情をこわばらせる。確かに、今のイタリアに日英軍を押し返すだけの力は無い。しかし、無条件降伏を突きつけられてはいるが、まだ、交渉の余地はあるとピエトロ・バドリオは思っていた。先の欧州大戦で敗戦したドイツであっても無条件降伏ではなかったのだ。


「いえ、将軍。我がイタリアとしてはまず一度停戦し、休戦協定の協議を行いたいと思っております。これ以上無益な戦争を続けても、双方に被害が拡大するだけ。ここでの休戦協定には、大きな意味があると思っております」


「“双方”に被害ですか・・・。それならば、連合国の提示した無条件降伏を受け入れれば良いことだと思いますが。そうすれば、すぐにこの戦争は終わり、貴国の兵士や市民が無意味に死ぬようなことは無くなります。そちらの方が、よりよい選択だと思いますがいかがでしょう?」


 モントゴメリーは、秘書官が入れた紅茶を飲みながらピエトロ・バドリオに告げる。


「貴国には、無条件降伏を受け入れるか、もしくは、今後何十年間も立ち直ることが出来ない徹底的な破壊かのどちらかしか選択肢は無いのですよ。あ、紅茶が冷めないうちにどうぞ。エスプレッソが無くて申し訳ありませんでしたな。我が国には、あのような泥水をすする習慣が無いもので」


 ピエトロ・バドリオはモントゴメリーの嫌みに、拳を握りしめ奥歯を噛む。くそライミーどもと思いながらも、なんとか感情を押しとどめる。


「そ、それではコロッセオ等の、ローマ遺跡への攻撃だけでも中止していただけませんか?あれは人類共通の財産です。これを破壊するのは、人類の歴史に対する冒涜です。このまま続ければ、我がイタリア国民は日英に対して未来永劫恨みを持ち続けることになりましょう。それに、文化財への攻撃はハーグ条約違反ですぞ」


 モントゴメリーは紅茶のカップ越しに、ピエトロ・バドリオの顔を見る。バドリオの目は真剣そのもので、遺跡を守りたいという言葉に嘘はなさそうだった。


「そうですな。遺跡は人類の歴史。貴国がローマの遺跡を守りたいという気持ちは、解らないでもないですが、それが人の命よりも重いとはどうしても思えないのですよ。貴国はローマへの攻撃を予測していたにもかかわらず、市民の避難に積極的では無かった。重要な遺跡があるから、我々が攻撃をためらうとでも思っていたのでしょう。しかし、私としては、あのような役に立たないガラクタよりも、貴国の市民一人の命の方が大事なのです。市民の避難を促せるのであれば、甘んじて冒涜者の汚名でも何でも受けましょう。それに、遺跡の陰にイタリア兵が隠れている確たる証拠もあるんですよ。遺跡を戦闘行為に使う方事こそ、ハーグ条約違反では?」


 そう言って、モントゴメリーは一枚の写真を差し出した。その写真には、日本軍が実施した偵察によって、遺跡の敷地内に出入りする軍人の姿が写っていたのだ。実際にそこを要塞化しているかどうかはもはやどうでも良く、”イタリア軍がいた”という事実だけあれば攻撃は可能だった。


「こ、これは・・・・・くっ・・・、しかし・・・・、それでも、なんとか、なんとか停戦について検討していただけないでしょうか?チャーチル首相に打診をして頂きたい。現在、貴国の妨害電波と発電設備の破壊によって、外交チャンネルも完全に閉ざされているのです」


 日英の方針としては、イタリアが無条件降伏するまでは攻撃を止めないというものだったが、一国の首相が停戦協議に来ていることもあり、とりあえずイギリス本国に問い合わせることにした。


 モントゴメリー将軍から問い合わせを受けたイギリス本国の陸軍大臣も、このような重要事項に対して判断できるわけも無く、チャーチル首相の指示を仰ぐことになった。


 1940年7月4日午前1時


「ご主人様。陸軍大臣から緊急のお電話です。いかがなさいますか?」


 執事の呼ぶ声にチャーチルは目を覚ます。こんな深夜にいったい何があったというのだ?


 チャーチルは眠りを妨げられたことに少々いらつきながら、陸軍大臣からの電話に出た。


「ムッソリーニを解任したから停戦してくれだと!?ふざけるな!無条件降伏の受諾以外の連絡はしてくるなと返答しろ!砲撃を強化しろとモントゴメリーに伝えろ!サマヴィルにも艦砲射撃を開始するように伝えるんだ!連中が無条件降伏するまで攻撃の手を緩めるな!」


 ――――


「と、言うことです。ピエトロ・バドリオ首相。お力になれず、本当に申し訳ありません。チャーチル首相の命令で、予定には無かった市街への艦砲射撃も実施されることになりました。市民は出来るだけバチカンに避難させてください。おそらく、今から24時間後には、この地球上からローマは完全に消えて無くなると思います。最後の時間まで、どうぞ神にお祈りください」


「そ、そんな・・・・・」


 ピエトロ・バドリオはモントゴメリーの言葉に絶望し、己の行いを後悔した。最悪のタイミングで停戦協議を持ちかけてしまったと。


 ――――


 機雷の除去が進み、海岸近くまで戦艦群が接近していた。ここからローマ市街地までは約30kmほどだ。戦艦の主砲であれば十分に攻撃ができる。


 そして、イタリア政府に対して、7月4日正午からローマ市街への艦砲射撃を開始すると通告されたのだ。


------------------------

あとがき


最近youtubeで面白い動画を発見したのでご紹介を。


www.youtube.com/watch?v=Ci-b4JKq5Sc


www.youtube.com/watch?v=KWlVo8mWPJs


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る