第270話 イタリア上陸作戦(8)

 20mm機関砲を撃ち尽くしたドイツ軍Bf109は、7.92mm機銃での空中戦に切り替えていた。そして、20mmより7.92mmの方が弾道性が良く連射速度も高い為、イギリス軍スピットファイアにも損害が増大していく。


「こちら45番機ベイリー曹長。右のエルロンに被弾。帰投の許可を求む」


「了解した。帰投を認める。よくやってくれた」


 イギリス軍ジョニー・ジョンソン大尉は、自身の中隊からも脱落機を出しつつあった。ほとんどが7.92mm弾による損傷のため、それほど撃墜はされていないが、それでも主翼が損傷すれば十分な戦いは出来ない。しかし、無理な戦闘をすれば必ず戦死者が増えてしまう。パイロットの育成には時間も費用もかかるのだ。無理をしてパイロットを死なせるようなことがあってはならなかった。


「味方150機の内50機以上は被弾して帰投したか。残弾も残り少ない。そろそろ引き際だな」


 ジョニー・ジョンソン大尉は艦隊司令部に、残弾が少ないことを告げて全機帰投の許可を願った。そして、全機帰投の命令が発せされる。


 ――――


「残存機数は約80機か。50機程度はJu87の直援に当たっているとしても、この新型Bf109が200機以上もやられたと言うことか・・・」


 ドイツ軍イーレフェルト中佐は、ロケット弾の攻撃を受けてからまだ20分も経過していないにも関わらず、既に壊滅的状況に陥っていることに驚愕する。


「くそっ!スピットファイアごときに・・・。しかし、我がルフトバッフェの新型ジェット戦闘機が量産化された暁には・・・・!?スピットファイアが退却していくだと?」


 それは突然の出来事だった。それまで熾烈な空中戦を繰り広げていたスピットファイアが、急に南に転進し全速力で去って行ったのだ。


「連中、弾切れか?もしそうなら、まだやれる!もうすぐ330機のJu87隊が到着するはずだ。戦闘機の脅威が無ければ、敵上陸部隊に大打撃を与えることが出来る!」


 ドイツ軍Bf109は、その照準器になかなかスピットファイアを捉えることが出来なかったため、機銃を発射するタイミングが無く、結果残弾がまだあったのだ。これだけ残弾があれば、まだ戦える。イーレフェルト中佐は何としてもJu87による地上攻撃を成功させると決意した。


 相変わらず無線は使えないが、そろそろJu87隊が到着するはずだった。前方にはローマの町並みが見えている。そして、日英軍の上陸部隊はその20km先の海岸に上陸しつつあるが、いま攻撃をかけることができればかなりの損害を与えることが出来るはずだ。


 イーレフェルト中佐は残存機を集めて編隊を立て直す。みなそれぞれバディー(相棒)を決めて小隊を組み直した。無線が使えなくなることを前提とした訓練が役に立っていたのだ。どんなに困難な状況になったとしても、それを立て直す事の出来るルフトバッフェは世界最高だとイーレフェルトは思う。


「Ju87はまだ来ないのか?・・・・・まさか!?」


 さすがにもう来ても良いはずだった。作戦では、先行するBf109が日英軍の迎撃機を押さえ込み、その間にJu87が敵地上部隊に攻撃を行うことになっていた。本来ならもうとっくに到着してもおかしくない時間だ。


「どいうことだ?まさか全滅?うぉっ!」


 イーレフェルト中佐は、前方の視界をすさまじい勢いで下方に抜けていった物体に驚く。何の前触れも無く突然にその物体が現れたのだ。


 そして次の瞬間、編隊を組んで飛行していた友軍機が、次々に煙を噴きながら脱落していくのが見えた。


「敵襲か!?スピットファイアじゃない?日本の九九式艦上戦闘機だ!」


 ――――


 日本軍の哨戒機によって捕捉されていたJu87部隊は、空母瑞鳳から飛び立った九九式艦上戦闘機72機の襲撃を受けていた。極低空を飛行していたJu87は、すぐ近くまで日本軍機が来ていることに気づくこと無く奇襲を受ける事になったのだ。


 最初の一撃で50機近くのJu87が撃墜された。奇襲に気づいた直援のBf109が必死に応戦をするが、練度も高くより高性能な九九式艦上戦闘機には全く歯が立たず、数回の反復攻撃によって全滅してしまった。


 そして、Ju87爆撃機を撃滅した九九式艦上戦闘機は、スピットファイアが撃墜しきれなかったBf109への攻撃に移った。


「これより残ったドイツ軍機の殲滅にかかる!全機残弾に注意!撃ち尽くした機は申告した後に帰投せよ!無理はするなよ!」


 羽切大尉は指揮する編隊に司令を出す。ドイツ軍のJu87爆撃機隊330機は片付けた。反復攻撃によってかなり弾丸を消費したが、それでもあと2機や3機は撃ち落とせるだけの残弾はあるはずだ。


 九九式艦上戦闘機72機編隊は一度高度をとり、Bf109の編隊を確認した。敵は高度5,000mくらいで編隊飛行をしている。まだこちらに気づいていないようだった。


「全機、前方下方の敵ドイツ軍機に攻撃開始!空中衝突に気をつけろ!」


 高度7,000mからBF109に向けて72機の九九式艦上戦闘機が襲いかかる。スロットルは全開だ。そしてコンピューター制御されたプロペラは、常に最適なピッチを保つようになっている。翼はこの時代のプロペラ戦闘機と比べて極端に薄く、音速風洞実験設備による研究によって、強度と速度と旋回能力の全てを高次元で実現することに成功していた。


『最後のプロペラ戦闘機(Prop Fighter The Last)』


 これが九九式艦上戦闘機に与えられた二つ名だ。


 2,800馬力ターボプロップエンジンを搭載し、最高速度800km/h、急降下制限速度900km/h以上を前提にして最初から設計された戦闘機と、エンジンだけすげ替えて補強を施した戦闘機(Bf109)とでは、そもそも勝負になるはずが無かったのだ。

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