第267話 イタリア上陸作戦(5)

「前方から接近する物有り!おそらくロケットだ!注意しろ!」


 ドイツ空軍のイーレフェルト中佐は、前方から接近する多数の物体を見つけ、友軍機に注意を促した。だが、無線からは何の復唱も帰ってこない。


「チッ!日本軍の妨害電波か!」


 妨害電波で無線が使えなくなることは想定済みだったので、イーレフェルト中佐は翼を振ってロケット弾の発見を友軍機に伝えた。イーレフェルト機を見たドイツ軍機は、あらかじめ指示されたとおりの行動をとる。


 各小隊の一機が操縦桿を引いて急上昇を始めた。そして、高度500mくらいになった時に、翼下に取り付けられた二つのポッドを切り離す。そして、そのポッドは切り離されたと同時に、大量のレーダー欺瞞アルミ箔をばらまいた。


 このレーダー欺瞞アルミ箔は、日本軍の使う火器管制レーダーの周波数に合わせて長さを調整してあった。これは、北海方面で何度か小規模な戦闘を繰り返す内にレーダー波長を調査をしたものだ。ドイツの科学者達は、これなら必ず効果があると自信を持っていた。


 急上昇した機体以外は、さらに地面ギリギリまで高度を下げた。シベリアの平坦な地形とは違い、北アペニン山脈を抜けたとは言え起伏のある地形が続いているのだ。この地形で、地面ギリギリを飛行することなど常人には不可能だったが、ドイツ軍パイロット達は練度を上げ、それを実現していた。驚異的な日本の誘導ロケットから逃れるため、必死で練習したのだ。


 ――――


「ドイツ軍機がチャフ(レーダー欺瞞アルミ箔)を蒔きました!こ、これは、かなり効果があると思われます!」


 哨戒機からの報告を空母瑞鳳のCDCオペレーターが叫ぶ。その報告を聞いた小沢司令は、目の前の液晶画面を見ながら渋い顔をする。


 今までも、イタリア軍がチャフを使用したケースがあった。しかし、そのどれもチャフの長さがレーダー周波数と合致しておらず、ほとんど効果を発揮してはいなかった。しかし、哨戒機からの報告では、今回のチャフは十分に効果を発揮しそうだとのことだ。


 小沢は、今までの戦いの中で最も苦戦する戦いになるのではないかとの不安を覚えた。


 ――――


 ドイツ空軍のイーレフェルト中佐は、じっと正面を見据えていた。先ほど発見したロケットは、見かけの大きさはほとんど変わってはいないが、すさまじい速度で近づいてきているはずだ。もし正面から近づいてきたなら、ギリギリで操縦桿を倒しロケットを躱してやる。そう思って操縦に集中をしていた。


「うおぉっ!」


 イーレフェルト中佐の左を飛行していた部下の機体が突然爆発をする。周りではいくつもの爆発が起こって友軍機が撃墜されていた。イーレフェルトにとって、味方の機がこんなにも多く撃墜された戦場は初めてだ。


 事前に、日本軍の誘導ロケット弾の予想性能は嫌と言うほど聞かされた。そのロケットを回避するための訓練も積んでいた。それでもなお、ロケットの速度はイーレフェルトの想像を遥かにこえる物だった。


「よ、避けることなんて不可能だ!」


 目をこらして見ていたのだが、急に大きく見えるようになったかと思ったら、次の瞬間には隣の機が爆発をしていた。速度が尋常じゃない。もし、このロケットの波状攻撃を受け続けてしまえば、どんなに戦力を揃えても日本軍に到達するのは不可能ではないかと恐怖する。


 しかし、冷静に状況を見てみると、目標をそれたのか編隊の上空を通り過ぎていくロケットも多数あった。


「こ、これは・・・・欺瞞アルミ箔が成功したのか?」


 見える範囲では、かなりの数の機体が撃墜されたようだが、それ以上の数のロケット弾が素通りしていったように思えた。そして、ロケット攻撃の第一波が終わったことを確認して、イーレフェルト中佐は少し上昇し友軍機の状態を見渡してみる。


 そこには、進軍を続けている200機以上の友軍機の姿があった。後方の山間には、遅れて着いてきているJu87爆撃機隊が居るはずだ。もしJu87隊が無傷なら、500機以上で日英上陸部隊に攻撃をかけることができる。


「よし!これなら勝てる!」


 ――――


「敵機104機の撃墜を確認!残存機数、約550機!戦爆の判別は出来ませんが、後方の部隊が爆撃機の可能性高し!」


「聞いたか!敵機は500機以上だ!小隊での行動を徹底しろ!無理をするんじゃないぞ!」


 哨戒機からの報告を聞いた羽切中尉は、部下に注意を促した。500機の内訳は解らないが、300機が戦闘機だとすると、彼我の戦力はかなり拮抗していることになる。


 イギリス空母からは、合計147機のシーファイアが出撃したとの連絡があった。空母瑞鳳からは九九式艦上戦闘機72機が出撃している。合計では219機だが、シーファイアには高性能な火器管制システムは装備されていない。同じエンジンを搭載しているとは言え、九九式艦上戦闘機に比べると、どうしても戦闘能力は劣っているのだ。


 ――――


「正面下方にドイツ軍機を発見!各中隊はそれぞれの判断で迎撃を開始!」


 イギリス軍のジョニー・ジョンソン大尉は指示を出す。日本軍から提供されたエンジンとプロペラによって、このシーファイアは見違えるように生まれ変わっていた。最高速こそ九九式艦上戦闘機には及ばないが、時速600kmくらいまでの加速であれば、同等か九九式を上回っている。これは、九九式よりシーファイアの方が少し軽量であることが奏功しているようだった。


 ――――


「やっと出てきたか!」


 ドイツ軍のイーレフェルト中佐は前方上空に敵機を発見し口角を上げた。見えるのは100機ほどの編隊のようだった。


「これなら勝てる!」


 イーレフェルト中佐はスロットルを全開にして加速を開始した。そして、速力が650km/hくらいになった時に操縦桿を引いて急上昇を始める。


 他の機体も、イーレフェルト中佐に従うように急上昇を始めた。そして、600km/hの速度を保ったまま右旋回を開始し、英軍機との距離を保ちつつ高度を稼ぐ。

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