第266話 イタリア上陸作戦(4)
Bf109を率いるヘルベルト・イーレフェルト中佐はスロットルを80%程度にして、極低空を飛行していた。現在の速度は約600km/hで、北アペニン山脈の谷間を縫うように編隊は飛んでいる。
こんな速度で谷間を飛行出来るパイロットは、我がドイツ軍以外に存在しないだろう。イーレフェルトは、やはり我がルフトバッフェの技量は世界一だと確信する。
しかし、その世界に冠たるルフトバッフェも、日本軍が来てからは一方的に撃墜されるばかりだった。最も脅威だったのが、日本軍の放つ誘導ロケット弾だ。マッハ3以上の速度で飛翔し、その命中率は90%以上にも及ぶとの分析だ。イーレフェルト中佐は実際にその戦闘を見たわけではないが、生き残った兵士の証言から間違いではないのだろうと思う。実際に多数の友軍機が撃墜されているのだ。
だが、極低空で飛行していれば誘導ロケット弾の命中率は極端に下がるとの報告がある。さらに、欺瞞アルミ箔をばらまくことによっても防げるらしい。実戦では試していないようだが、ここは我がドイツの科学力を信じるしかあるまい。
そして、今自分が操縦しているこのBf109は新型エンジンに換装した性能向上型だ。最高速度は高度7,000mで710km/hにも達する。日本の新型機には多少及ばないが、我がルフトバッフェの技量を持ってすれば、十分に渡り合える性能だ。
高度が低いと、空気密度が高く抵抗になるためそこまでの速度を出すことは出来ないが、それでも、スロットル80%で600km/hも出ているのだ。これは、以前のBf109の最大速度よりも速い。さらに、この新型は航続距離が大幅に伸びている。今回の作戦では、想定戦闘空域まで距離が250kmある。この距離だと、従来のBf109だと行って帰るだけで精一杯だった。それほどまでに、かつてのBf109は航続距離が短かったのだ。しかし、日本のエンジンをコピーしたこの小型高出力の新型エンジンに換装されたことにより、燃料タンクを増設することができて航続距離が1,200kmにも増加した。これは従来の約2倍だ。この事によってドイツ軍の即応体制は強化され、制空権を確保できる空域も広がっていたのだ。
“しかし、日本軍がこんな高性能なエンジンを実用化していたとは。だが、この技術によって、我が国のジェットエンジン技術が飛躍的に進歩したと聞いている。そしてジェットエンジン戦闘機の量産も、今月から始まる。あのジェット戦闘機が大量投入されれば、このヨーロッパの空、いや、世界の空は我がルフトバッフェの物になるだろう”
イーレフェルト中佐は、ドイツ軍で開発されている新型ジェット戦闘機の試作機に乗ったときのことを思い出していた。
あれは従来の戦闘機とは全くの別物と言って良い機体だった。後退翼の主翼につり下げられた二発のジェットエンジンから噴き出す炎はすさまじく、轟音を上げながら機体はゆっくりと加速していく。確かに低速でのレスポンスは悪いが、速度が乗ってしまえばどんな高速戦闘機でも追いつくことは出来ない。なんと言っても最高時速は900km/hにも達するのだ。そして、機首に備え付けられた4丁のMG131 13mm機関銃はその弾道性も良く、一度狙いを付ければ必ず当てることが出来る。
“あの機体が量産化された暁には、日本軍の戦闘機など恐るるに足らん!”
――――
「シーファイア隊、発艦急げ!あと20分で敵はローマに到達するぞ!」
イギリス空母の飛行甲板では、慌ただしく発艦作業が行われていた。5隻の空母からスピットファイアの艦上機型“シーファイア”が次々に離陸をしていく。このシーファイアは、従来のシーファイアのエンジンを、日本軍から提供された2,800馬力ターボプロップエンジンに換装した、性能向上型だ。最高速度は高度8,000mで760km/hを出すことが出来る。
“従来とは比較にならない性能を手に入れたこのシーファイアなら、日本軍の九九式艦上戦闘機と同等の戦いが出来るはずだ”
イギリス軍のパイロット、ジョニー・ジョンソン大尉は、対空砲の危険のあるローマ市街地を避けて北アペニン山脈を目指す。まだ敵機は見えないが、日本軍の哨戒機からのサポートによって、敵の位置は把握できている。敵は地上すれすれを飛んでいるので、レーダーでも全機を捉えられてはいないようだが、どうやら500機以上の大編隊らしいということだ。
“この新型シーファイアの相手にとって不足はない”
日本の九九式艦上戦闘機が合計280発ほどのミサイルを発射すると連絡があったが、ドイツ軍機が極低空を飛んでいるため、命中率は50%以下になる可能性があるとのことだ。そうすると、300機以上はミサイルを避けてたどり着くかも知れない。これは、イギリス空軍にとって、初めて大々的な戦果を上げるチャンスだ。
――――
「敵機との距離50km、全機ミサイル発射」
哨戒機から九九式艦上戦闘機へミサイル発射の指示が発せられた。まだ敵機は見えないが、哨戒機のルックダウンレーダーによって捕捉は出来ている。ただし、敵機が極低空のため、通常よりかなり接近してからのミサイル発射となった。
「もうすぐ会敵するぞ!引き締めてかかれ!今回は英軍と共同だ!各隊の分担は必ず撃墜しろよ!」
羽切(はぎり)中尉は中隊の部下に対して注意を促した。イタリア軍相手に、日英合同で作戦をした事はあったが、ドイツ軍機を相手にこれほどの機数で戦闘を行うことはなかった。戦場では何が起こるか解らない。十分に気を引き締めてかからなければならない。それは自分自身にも言い聞かせる言葉だった。
ここに、日本・イギリス・ドイツのエースパイロットが相まみえることとなる。
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