第265話 イタリア上陸作戦(3)

1940年7月2日午前4時


 巡洋艦の護衛の元、数多の揚陸艦が海岸線めがけて進んでいく。イタリア軍陣地は完全に破壊してある。イタリア航空戦力もほとんど壊滅させた。今現在、揚陸中の部隊を妨げるものは何もない。


 上陸地点に選んだのは、テベレ川河口付近の砂浜だ。テベレ川が運んだ砂によって、広範囲に砂浜が形成されていて橋頭堡を確保するための十分な場所があった。


「急げ!戦車を優先させろ!」


 戦時急造揚陸艇は、非常に簡素な作りではあるが合理的に建造されていた。船底は平らで、砂浜に正面から乗り上げ前面の扉が“バタン”と前に倒れてすぐに戦車や車両が陸揚げできる。


 次々に上陸した戦車はおよそ400両。そのほとんどが九六式主力戦車だ。そして、九七式自走高射機関砲や155mm自走榴弾砲も陸揚げされていく。


 この上陸部隊のほとんどはイギリス兵とインド兵だった。日本陸軍はシベリア戦線にその大部分を裂かれているため、ヨーロッパ方面に回すことが出来ないのだ。


 そして、フランス兵も訓練の遅れを理由に参加していない。今回の作戦では、カトリックの歴史ある聖堂などが破壊されることが危惧されているため、同じカトリック教徒であるフランス兵をあえて外したのだ。もちろん、歴史的建造物を狙って破壊することは無いが、市街戦になってしまえば巻き添えになる可能性は十分にあったのだ。


 ――――


「モントゴメリー将軍は、うまく上陸が出来たようだな」


 戦艦ネルソンの艦橋で、サマヴィルが参謀に話しかける。


「はい、サマヴィル提督。敵の抵抗は一切無く、順調に陸揚げが進んでいます」


「しかし、全戦力を安心して投入できることがこれほどまでに効果があるとはな。やはり、戦争は数を揃えなければならないと改めて感じるよ」


「そうですね。ランチェスターの法則というやつですね。恥ずかしながら、我が国の学者の理論にもかかわらず、日本の小沢司令から教えてもらうまで知りませんでした・・」


「そうだな。まあ、戦力を集中できたのも日本軍が敵の位置を正確に把握できているからだ。敵の位置が解らなければどうしても戦力を分散せねばならん。日本の技術は、先の欧州大戦での無線機以上の革命だな」


「敵の位置の把握とは、例の人工衛星の件ですね。グリニッジ(天文台)の報告によれば、30以上の人工物が宇宙を飛んでいるとのことです。日本は否定していますが、MI6の分析でも、おそらく日本が打ち上げたスパイ衛星だろうとの事ですな」


「ああ。あれが日本の物で無いわけが無い。あのスパイ衛星によって敵の位置を捉えていたのだとすると、今までの事も納得がいく。まあ、あのような技術は同盟国にも極秘にしたいのは良くわかるよ。しかし、日本人は研究熱心なことだな。20年前から科学力の向上に全力を挙げていたとのことだが、様々な面でここまで差が付いてしまうとは」


「はい、提督。経済の面でも差を付けられてしまいましたな。日本を中心としたアジア経済連合の発展は目をみはるものがあります。ヨーロッパの戦争が終結したら、我が国が盟主になって、アジア経済連合の様な組織をヨーロッパで構築したいものです。まあ、それは政治家が考えることでしょうが・・・」


「提督!日本軍から入電です!北アペニン山脈を越えて敵機が接近しているとのこと。おそらくドイツ軍機です!数はおよそ300!まだ増えているようです!」


「とうとうお出ましか。戦闘機隊は全機出撃だ!一機も近づけさせるな!」


 ――――


 北アペニン山脈上空


「第8小隊!高度が高い!もっと下げろ!敵のレーダーに見つかるぞ!」


 北アペニン山脈の山沿いを、ドイツ軍機700機がローマを目指して飛行していた。時間は午前5時前。日の出の時間は4時半頃なので、空はもう十分に明るくなっている。


 今回の作戦には、ドイツ空軍第2航空艦隊の5個航空団が投入されている。これは、バルカン半島方面に展開するドイツ空軍戦力の四分の一に相当する戦力だ。ドイツとしては、北アペニン山脈以南は失陥しても、山脈を防衛ラインとして日英軍の侵攻をそこで防ぎたいという意向があったのだ。


 ※航空艦隊  日本やイギリスのような空母艦隊の事では無く、ドイツでは空軍の戦闘団の事を“航空艦隊”と呼称していた。


 今回の上陸阻止作戦は、Bf109 370機とJu87 330機の合計700機での出撃だ。上陸阻止作戦と呼称しているが、実際には上陸遅滞作戦だ。既に上陸を許しているし海に押し返せるとも思っていない。多少でも日英軍の進軍を足止めして北アペニン山脈の防衛陣地構築の時間を稼ぐのだ。


「そろそろ見つかってもおかしくない。敵の妨害電波で無線も使えなくなるから、各中隊は友軍との連携を再確認しておくように!」


 第四航空団125機のBf109を率いるヘルベルト・イーレフェルト中佐は隷下の部隊に指示を出す。今回の作戦では、双発の爆撃機は動員されていない。これは、機動性の低い大型の双発機爆撃機では生還が期待できないためだ。


 そして、本作戦のBf109とJu87には、日本軍のターボプロップエンジンをコピーしたエンジンが搭載されている。これにより、Bf109は710km/h、Ju87は550km/hの最高速度を獲得していた。さらに、スパイが持ち帰った日ソ戦争の情報によって、極低空を飛行すれば、日本軍ロケットの命中率が下がる事がわかっていた。また、レーダー欺瞞アルミ箔も全機搭載している。


「これならかなり良い戦いが出来るはずだ」

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