第264話 イタリア上陸作戦(2)
「マルタ宣言」
1.われわれ連合国は、数億の民を代表して協議し、この戦争終結の機会をイタリアに与えることで一致した。
2.イタリアを破滅に導く知性の無い愚かなファシストに支配される状態を望むのか、あるいはイタリアが世界の真理に従って歩むのか、その決断の時が来た。
3.イタリアから無知で無責任なファシストが駆逐され、平和を求める新秩序が確立されるまで、連合国がイタリアを占領する。イタリア政府は当然に我々の支配下(subject to)にはいる。
4.イタリアの主権はイタリア半島およびシチリア島とその沿岸から4海里のみとし、周辺の島嶼については我々が決定したものに限定される。ヨーロッパ大陸との国境は、われわれが決定する。
5.われわれはイタリア人を奴隷化するつもりもなければ絶滅させるつもりもない。しかし、我々の捕虜を虐待したものを含めて、全ての戦争犯罪人に対しては断固たる処断をする。
6.言論、宗教、思想の自由及び基本的人権の尊重をイタリアに確立する。
7.われわれの占領軍は、これらの目的が達成され、かつ、イタリア国民の自由意志によって、平和で責任ある政府が樹立されたときに、イタリアから撤収する。
8.われわれはイタリア政府に対し、イタリア軍の無条件降伏をすぐに宣言し、その履行に十分な保証を与えることを求める。イタリアにとってのもう一つの選択肢は、迅速かつ完全な破滅である。
イタリア上陸作戦を前に、連合国はムッソリーニに対して「マルタ宣言」を突きつけた。この宣言は、新聞やラジオにも公開され、世界中の人々の知るところとなる。これは明らかな無条件降伏勧告であったが、もちろん、こんなものをムッソリーニが受諾するとは誰も思っていなかった。
イタリアは、連合国に対しての返答を行わなかったのだが、自国の新聞記者からの質問に、窮することになる。
「ドゥーチェはこの宣言に対してどう返答するのですか!?」
しつこい新聞記者からの質問に対して、総統府のスポークスマンはいらだちこう返答した。
「このような愚かな要求に対して返答をする事は無い!」
そしてこの発言は日英軍に伝わり、イタリア上陸作戦が決行されることになる。
しかし、このイタリア上陸作戦に対して、反対の声明を出した聖職者がいた。
――――
「ローマには人類全体の価値がある。このローマを戦火に投じることに強く反対をする。ローマを可能な限り苦痛と荒廃から遠ざけ、貴重な聖堂の取り返しがつかない破滅を可能な限り遠ざけるように」
こう声明を発表したのは、バチカン市国の教皇ピウス12世だ。バチカン市国は建前上中立を表明していたが、1933年にナチスとライヒスコンコルダートと呼ばれる条約を結ぶなど、ある程度親ナチス的な立ち振る舞いをしていた。そして、現教皇のピウス12世も教皇に就任する前からナチスと親交があり、ユダヤ人差別政策に対しても、表だった反対表明をしてはいなかった。
このバチカンの声明に対してイギリスのチャーチル首相は、
「ローマを焼け野原にするかどうかの決断は、ムッソリーニがする事だ。そういった心配はムッソリーニに言ってくれ。それと、地上戦になった場合には民間人に対して攻撃をする事は無いが、イタリア軍の隠れることができる建造物はその限りでは無い。それがどんなに古くてオンボロな建物でもだ。それに、万が一にも巻き添えにならないとは限らない。心配なら事前に逃げておけ」
と、返答した。
――――
1940年7月2日午前0時
「定刻だな。それでは、全艦目標に向かって主砲発射!」
イギリス海軍提督のサマヴィルが、全戦艦に対して主砲の発砲を命じた。
現在イギリス艦隊は、テベレ川の河口から15km地点に布陣している。テベレ川の河口からローマまでは、直線距離にして25kmほどしか無い。まさに目と鼻の先だ。制海権も有効な反撃手段も喪失したイタリアに対して、日英軍は首都の目前に上陸をするというとんでもなく大胆な作戦を選択したのだ。
ネルソンを旗艦としたイギリス軍艦隊の15隻の戦艦は、その号令の元、一斉に砲撃を開始した。主砲の門数は合計118門にも及び、そこから止めどなく巨大な主砲弾がイタリアを目指して飛んでいく。そして、まずは沿岸の防衛陣地、続いて、海岸からローマまでの間に存在するイタリア軍陣地や駐屯地を粉々に粉砕していった。
日本軍の偵察によって、イタリア軍トーチカや陣地の詳細な場所はわかっている。ネルソンやロドニーなどには、日本軍から提供された火器管制システムが搭載されているため、目標座標を入力しての砲撃が実施された。その他の旧式戦艦には高度な砲撃システムが無いため、従来通りの計算尺に頼った射撃になるが、日本軍哨戒機からの着弾観測によって、かなり正確に照準の修正がなされている。
――――
「ドゥーチェ!日英軍からの艦砲射撃が始まりました!地下壕に避難して下さい!」
「反撃の手段は無いのか!ドイツ軍はどうなのだ!援軍はまだか!」
「ドイツ空軍は夜が明けなければ十分な活動は出来ません!」
「くそっ!そうだ!私が直接ドイツ軍に掛けあってくる!車を用意しろ!私が直接行けばドイツ軍も重い腰を上げるだろう!」
「し、しかしドゥーチェ、主要な道路や鉄道、橋梁もほとんどが破壊されてとてもではありませんが北アペニン山脈を越えることは不可能です。それに、その地域はパルチザンが活動している地域でもあります。あまりにも危険です!」
「ここにいても日英軍の侵攻を防げるわけではあるまい!私がなんとしてもドイツ軍を連れて戻ってくる!車を用意するんだ!」
総統府に居た側近達は、ムッソリーニの意図していることが手に取るようにわかった。この男は日英軍を目の前にして、ただ逃げたいだけなのだと。
――――
「サマヴィル提督。予定の艦砲射撃が終了しました。これより機雷の除去にはいります」
戦艦15隻からの艦砲射撃によって、約5,000発の主砲弾が撃ち込まれた。その破壊力はすさまじく、テベレ川河口付近の地形は攻撃前と比べて随分と変わってしまっている。イタリア軍の構築した沿岸防衛陣地は、既に跡形も無く消え去っていた。
そして、沿岸から10km付近までイタリア軍の設置した機雷が確認されている。これは、事前に日本の潜水艦のソナーによって場所を特定してあった。沿岸からの砲撃が無い事を確認し、掃海機能を持った大淀型巡洋艦が素早く処理に当たった。
「掃海完了との報告です!幅5kmの安全海域を確保しています!」
「よし、それでは揚陸艦前進!」
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