第263話 イタリア上陸作戦(1)
地中海の制海権を完全に掌握した日英軍は、リビアを放置することにした。リビアの航空戦力は完全に奪った。港湾施設も破壊した。リビアの海岸から120km以内を飛行および航行禁止区域に設定し、航空機や船舶を無条件に攻撃した。リビアをこの世界から完全に隔離したのだ。
そして、次の攻略目標は宗主国であるイタリアだ。
4月のオペレーション・ケチャップによって、イタリアは海軍力を完全に失い、そして、発電所や鉄道、橋梁などへの爆撃によって、イタリア国民は既に2ヶ月以上電気や鉄道の無い生活を強いられていた。
ついに、物流も麻痺し都市への食糧供給に滞りが出始め、ローマやミラノと言った都市では毎日のように食料を求めるデモが発生していた。
また、デモの発生頻度に比例して、イタリア国内での反政府パルチザン活動も活発になっていた。このままでも、イタリアの崩壊は近いと誰もが思っていたが、これを放置するとイタリア国内で内戦が起こり、市民の犠牲が増大することを懸念した日本政府の意向によって、イタリア上陸作戦が実行されることになったのだ。
それに、ドイツ軍をイタリアやフランス方面に釘付けにするという意図もある。これは、高城蒼龍が強く進言し、天皇の意向で統合幕僚本部の方針とさせた。
――――
「くそっ!バカにしおって!」
イタリアローマにある総統府では、ムッソリーニが報告書をテーブルにたたきつけていた。その報告書には、イギリスで発行された新聞が添えられている。
『イタリア上陸作戦開始の準備は完了!』
『無敵の日本軍九六式主力戦車!』
『戦艦15隻による艦砲射撃でローマを火の海に!』
『モントゴメリー将軍が宣言!ローマは一日にして落ちる!』
そこには、演習をする九六式主力戦車の姿や、マルタ島沖に集結しているイギリス戦艦15隻をはじめとした、海を埋め尽くしている揚陸艦や補給艦の写真があった。
「ソッドゥ大将!この日本軍の九六式主力戦車の性能は本当なのか!?正面装甲が800mmで105mm砲は400mmの装甲を撃ち抜けるのか!?」
もたらされた新聞には、日本の九六式主力戦車の性能が詳しく書かれていた。正面装甲はどんな対戦車砲でも撃ち抜くことは出来ず、主砲の105mm砲はレーダー連動射撃によって走行間射撃でも命中率は100%、さらに強力なエンジンによって不整地でも70kmの速度を出せるとある。
「こんな戦車が存在するはずはないだろう!」
ムッソリーニは叫ぶが、それに対してソッドゥ陸軍大将が苦々しい顔をしながら返事をする。
「ドゥーチェ。おそらくその新聞報道は間違いないと思います。シベリアでのソ連軍と日本軍の戦闘で、この九六式主力戦車は85mm砲を跳ね返し、ソ連軍新型戦車の分厚い前面装甲も軽々と撃ち抜いているとの報告がされております。また、不整地を70km以上で疾走し、さらに、その速度で射撃をしても命中させるようです」
※この頃にはシベリアの戦闘によって、各国の諜報部には九六式主力戦車の表面的な性能は既に漏洩していた。その為、イタリアの戦意をくじくため、あえて性能を公開することにした。
「そんな、バカな!どうやったらそんな戦車を作れるというのだ!しかも九六式は4年も前の戦車と書いてある!どうして、どうしてこうなったのだ!」
「ドゥーチェ。日本海軍の対空砲やロケットは百発百中でした。その技術が戦車に応用されているのだと思います。我が空軍はこの2ヶ月間でほぼ壊滅し、爆撃によって交通網も遮断され、戦車をこのローマに集めることも出来ません。なんとかローマの沿岸に防衛陣地の構築は出来ましたが、おそらく、上陸作戦に対して十分な抵抗は出来ません」
「上陸作戦を止めることは出来ないというのか!ドイツ軍の援軍はどうなっておる!サンマリノまでは来ているのだろう!なぜそこから前進してこない!我々を見捨てるつもりか!」
「ドイツ軍からは、街道や橋が爆破されており、これ以上の進軍が出来ないと連絡が来ております。航空支援の約束はしていますが、もしかすると北アペニン山脈を防衛ラインとして考えているのかもしれません」
※北アペニン山脈とは、ローマの北東側に位置し、ミラノやトリノの北部地域とそれ以南の地域とを隔てる山脈
1940年7月1日
シベリアのオムスク攻略と時を同じくして、ローマから西80kmほどの海上に日英艦隊が集結していた。
「サマヴィル提督。戦艦が15隻も集結すると壮観ですな」
戦艦ネルソンの艦橋に招かれた小沢中将は、眼前に広がる大艦隊を見て感嘆の表情を浮かべる。
その中でも、整然と並んでいる戦艦15隻の姿は見る者を圧倒させる力強さがあった。その周りにも巡洋艦や揚陸艦が多数浮いてはいるが、やはり戦艦は他の艦船とは一線を画す。まさにそれは黒鉄の城だ。小沢が軍人になってから、憧れて止まなかった海軍の象徴。戦艦を中心とした大艦隊を指揮することを、何度夢に見たことだろう。日本が戦艦の全廃を決めたとき、これも時代の流れかと残念に思った物だが、やはり、戦艦群を目の当たりにすると、男の浪漫だと魂を揺さぶられる。
小沢は、これだけの艦隊を指揮するサマヴィル提督を心底うらやましく思った。自分自身、空母瑞鳳と巡洋艦10隻を指揮する司令だが、この作戦でサマヴィル提督が指揮をするのは、戦艦15隻、空母5隻、巡洋艦18隻、駆逐艦40隻、揚陸艦220隻の合計約300隻にも及ぶ。間違いなく、有史以来最大の作戦だ。その栄誉に預かれるサマヴィル提督は、なんと海軍軍人冥利に尽きることだろう。
今回のイタリア上陸作戦には、イギリスは持てる海軍戦力のほとんどを投入してきた。これは、日本軍の情報によって敵の位置が確実にわかるため、奇襲等に備えて戦力を分散配備しなくても良くなったことが大きい。それに、北海方面は山口艦隊によって完全にドイツ軍を封じ込めているので安心だ。
サマヴィルは15隻の戦艦による艦砲射撃を想像して、顔がにやけていた。
イギリス海軍戦力
ネルソン 戦艦 40.6cm 9門
ロドニー 戦艦 40.6cm 9門
ヤマグチ(長門) 戦艦 41cm 8門
トーゴー(陸奥) 戦艦 41cm 8門
フッド 戦艦 38.1cm 8門
プリンセス オブ ダイアモンド(金剛)戦艦 35.6cm 8門
プリンセス オブ エメラルド(霧島)戦艦 35.6cm 8門
プリンセス オブ サファイア(榛名)戦艦 35.6cm 8門
エリザベス 戦艦 38.1cm 8門
ウォースパイト 戦艦 38.1cm 8門
ヴァリアント 戦艦 38.1cm 8門
バーラム 戦艦 38.1cm 8門
マレーヤ 戦艦 38.1cm 8門
レナウン 戦艦 38.1cm 6門
レパルス 戦艦 38.1cm 6門
アークロイヤル 空母
カレイジャス 空母
ヒューリアス 空母
グローリアス 空母
イーグル 空母
その他巡洋艦
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