第260話 シベリア決戦(10)
オムスク北方に布陣するソ連軍部隊に榴弾砲攻撃をした日露軍砲兵部隊は、続いてソ連中央軍を攻撃するために陣地移動を完了させた。
「目標、ソ連中央軍!撃てーー!」
発射の大号令と共に、日露軍の榴弾砲とロケット砲が発射された。敵の布陣は偵察機によって詳細に判明している。高射砲陣地と榴弾砲陣地を集中的に狙って砲撃を続けた。
――――
西少佐率いる戦車部隊は、九九式襲撃機が取りこぼしたソ連軍戦車を蹴散らし、その後方から接近しつつあった対空車両やその他装甲車両に対して攻撃を開始した。
ソ連軍のGAZ-MMやGAZ-AAAといったトラックベースの対空車両は、果敢にも九六式主力戦車に対して水平射撃を敢行するが、25mm対空機銃では履帯を切ることすら出来なかった。
九六式主力戦車の105mm砲では、トラックベースの対空車両に対してはオーバーキルなのだが、他に攻撃の手段も無いため砲撃を加え続けた。そして、九六式主力戦車は一発も外すこと無く、確実にソ連軍車両を破壊していく。
「あらかた片付けた!全車後退を開始!補給地点まで急げ!」
搭載している榴弾を撃ち尽くした九六式主力戦車は後退を始めた。まだAPFSDS弾は残っているが、装甲の無い対空車両に向けて撃ったとしても、効果は限定的だ。西少佐は無理をせず、一度補給のため後退をすることにしたのだ。
西少佐の部隊はソ連軍の北方を食い破ることが出来た。これにより、ソ連軍中央を挟撃することが出来る。今は、味方の榴弾砲攻撃によってソ連軍中央を釘付けにできている。その間に、急いで補給をしなければならなかった。
――――
「ロコソフスキー総司令!北方方面に向かった第三・第四・第五戦隊から、戦車部隊は壊滅との報告です!現在、対空車両と歩兵によって、日露軍戦車部隊の足止めをしています!」
「くそっ!日露軍に後背を突かれたらまずい!滑走路の復旧はまだか!?」
ロコソフスキーは航空支援に一縷の望みを託すが、復旧の出来た滑走路から飛び立った友軍機はほとんどが撃墜されたと連絡があった。しかも、迎撃に来た日本軍機はMig3の二倍の速さだったという。Mig3は最高速度600km/hほどなので1,200km/hも速度が出ていたというのか?ほぼ音速ではないか!さらに滑走路を爆撃した爆撃機に至っては、高度18,000mで速度は1,700km/hだったとのことだ。測距儀によって計測したので間違いないという。そんなバカなことがあるか!そんな高度で侵入してきて、しかも音速の1.5倍も出る爆撃機だと!?
我々はいったい“何”と戦っているというのだ?イルクーツク攻防戦以降、収集した情報によって日本軍の兵器が非常に高性能であることはわかっていた。しかし、音速を超えるような航空機の情報は無かったではないか。こんな連中とまともな戦争が出来るわけがない。
今のところ、有線電話によって各部隊との通信はとれている。30kmほど南に布陣している南方方面軍は無傷だ。そして、この中央軍は榴弾砲の攻撃を受けてはいるが、歩兵のほとんどは無事で有り、戦車も多数残っている。まだまだ戦えるはずだ。しかし、ロコソフスキーの頭には、どうやっても日露軍に勝てるイメージが無かった。
「ロコソフスキー総司令!北方方面軍を突破してきた敵戦車隊が後退しています!」
「なんだと!対空車両と歩兵で押し返すことが出来たのか!?」
「いえ。報告では、有効な反撃は出来ておりません!おそらく、弾切れなのでは?」
「補給ということか?」
「ロコソフスキー総司令!チャンスです!戦車部隊を向かわせましょう!敵の航空攻撃によってかなりの損害を受けるでしょうが、少しでも補給中の敵戦車部隊に肉薄できれば、かなりの打撃を与えることが出来ます!」
「しかし、もし成功したとしても、我々はほとんどの戦車を失ってしまう。そうなれば、反攻作戦が出来なくなってしまう・・」
「総司令!朝からの北方方面への攻撃では、戦車壕に潜んでいた友軍戦車のほとんどが撃破されています!待ち構えていてもやられるだけです!敵戦車の補給が終わったら、もう我々には抵抗する手段が無いんですよ!他にどんな作戦があるというんですか!ありはしませんよ!」
「そうだな。よし!動ける戦車部隊は転進して後背にいる日露軍戦車部隊を急襲する!連中は補給中だ!全速力で向え!」
前方にいる日露軍との間には地雷原がある。ロコソフスキーは、この地雷原を日中に突破することは不可能だと判断した。
――――
「西少佐!ソ連軍戦車部隊が転進してこちらに向かっているようです!数は1,000以上!」
「補給中を狙うつもりか。航空機の支援を依頼しろ!補給を急げ!APFSDS弾は全弾の補給じゃなくていい!20発補給できたら戦闘に戻れ!あと30分で終わらせるぞ!」
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