第259話 シベリア決戦(9)

1940年7月2日正午


 ソ連軍主力の後背に回り込んだ日本軍戦車部隊と、オムスク北方への援軍に出たソ連軍第三・第四・第五戦隊が遭遇する。


「西少佐!前方5,000m付近に車両です!偵察機から連絡のあったソ連軍戦車隊だと思われます!」


「よし!あと300m前進して停車だ!連中を迎え撃つぞ!」


 ――――


「前方に日露軍の戦車を発見!距離5,000m!」


「全車止まれ!ここで防がなければ本体の後背を攻撃される!これ以上日露軍を前進させるな!」


 日露軍の戦車を発見したソ連軍第三・第四・第五戦隊の戦車部隊は、日露軍の進軍阻止が目的なので、その場で布陣を開始する。戦車などの無限軌道の車両は素早く進軍できたが、装輪対空砲や歩兵の随伴が遅れている。このままむやみに日露軍に突入しても損害が増えるだけだということがわかっていたのだ。


「第四戦隊は左翼を迂回して日露軍戦車隊の側面を突け!伝令を出すんだ!」


 既に妨害電波によって無線が使えなくなっているため、第四戦隊に伝令を走らせる。第四戦隊が動き出すまでに30分くらいはかかるだろうが、日露軍も前進を止めているので、なんとかなるだろう。


「いいか!我々の任務は日露軍の足止めだ!無茶な突撃をするなよ!敵が近づいてきたら一斉に射撃だ!履帯に当てることが出来ればどんなに強力な戦車でも動けなくできる!良く狙うんだ!」


 日露軍の戦車には、正面からでは太刀打ち出来ないことはわかっている。第四戦隊が側面を突くことが出来れば良いのだが、おそらく日露軍の索敵にかかってしまうだろう。それでも、それに対処するために、日露軍の戦車が横を向けば勝機はある。この新型T34の85mm砲で、日露軍戦車の側面を撃ち抜いた実績もある。それに、日露軍は足の速い戦車中心の進軍だ。脅威になる榴弾砲やロケット砲は付いて来れていないだろう。ならば、ここで連中の足止めが出来るはずだ。


「3時の方向に航空機です!数はおよそ100!」


「なんだとっ!」


 ソ連軍戦車隊の右方向から未確認の航空機が接近してきている。高度は500mと低空だ。味方機であってくれと願うが、深夜に味方航空基地が攻撃されていて航空支援は不可能なはずだ。おそらく北方方面の友軍が全滅して高射砲の脅威が無くなったため、日露軍の攻撃機が飛来したのだと思った。


 ――――


「こちらロシア帝国空軍シベリア方面軍第16攻撃大隊。前方のソ連軍戦車隊を排除する。誤射に気をつけてくれ」


「日本陸軍第一方面軍の西少佐だ。支援に感謝する」


 突如現れた航空機は、ロシア軍で運用している九九式襲撃機だ。日本陸軍で運用している九九式襲撃機を輸入して、対地攻撃部隊を編成している。


 ※九九式襲撃機 機首に35mm機関砲を搭載した対地攻撃専用の攻撃機(ターボプロップエンジン2発)


 オムスク北方のソ連軍を壊滅させて、対空砲や高射砲の脅威を排除することが出来たため、前線に於いて低空での航空機支援が行えるようになっていた。敵の戦車を目の前にして、対地攻撃専門の九九式襲撃機100機による支援は心強かった。


「全機、前方のソ連軍戦車隊に突入!対空射撃には気をつけろよ!」


 九九式襲撃機は機首を少し下げて、35mm機関砲の銃口をソ連軍戦車に向ける。そして照準器越しに目標を定めて、操縦桿の発射ボタンを押し込むと、35mm機関砲は毎分550発の速度で射撃を開始した。


 敵戦車との距離はおよそ600mだ。この距離から約2秒間射撃を行い、その間に約15発が発射される。そして、その内の何発かは戦車に命中していた。


 ロシア帝国軍の九九式襲撃機が反復してソ連軍戦車隊に何度も襲いかかる。機首の下に装備された35mm機関砲が火を噴く度に、ソ連軍戦車は次々に爆発していく。正面からの攻撃であれば、ソ連軍T34戦車は35mm弾をはじき返すことはできる。しかし、どんなに装甲の厚い戦車でも、その上面装甲に十分な防御力を与えることは不可能だった。


 ――――


「くそったれ!対空車両はまだ来ないのか!後退だ!対空車両のいる場所まで後退するぞ!」


 ソ連軍自慢の120mm高射砲は、その巨大さ故簡単に移動させることはできない。その為、戦車隊が前進する際は、トラックの荷台に対空機関砲を積んだGAZ-MMやGAZ-AAAを随伴させるのだが、このオムスクの平原は湿地帯が多く、無限軌道では無い装輪トラックはどうしても進軍速度が低下してしまう。現状、空からの攻撃に対して対抗する手段を何ら持ってはいなかった。


 ソ連軍の戦車部隊は後退を開始するが、九九式襲撃機の35mm弾から逃げることはできなかった。戦車のハッチを開けて、半身を出して小銃を撃っている兵士の姿も見える。しかし、機体の下部の重要部分を20mm厚チタン合金で防御している九九式襲撃機にとって、7.62mm小銃弾の攻撃など蚊に刺されたほどにも感じない。


 ――――


「ソ連軍戦車約300を撃破!弾切れなので一度帰投する!前方7kmの所に対空車両やトラックが近づいてきている。ご武運を祈る!」


「支援に感謝する。あとは任せてくれ!全部隊、進軍を開始だ!」


 西少佐はロシア帝国の支援に謝辞を述べて、全軍に前進を命令した。

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