第258話 パレスチナ紛争

 日ソ開戦とともに、完全に孤立していたウラジオストクは、その後何度かの小規模な戦闘を経て、日露軍に占領されていた。


 補給も無く、燃料も食料も完全に底をついたため、ついに一部の軍属が反乱を起こしたのだ。そして、その反乱に乗じて日露軍が攻勢をかけ、占領に成功した。


 もちろん、反乱を起こした軍属を率いたのは、ロシアKGBのエージェントである。


 ウラジオストクに居住していた約10万人の軍人と軍属は全員、ハバロフスクに移動させた。そして、ウラジオストクを中心とした沿海州に、ユダヤ人の移送が始まった。


 ナチスの台頭ともにヨーロッパを追われたユダヤ人達は、主にアメリカとパレスチナに移住していた。しかし、アメリカは全てのユダヤ人を無制限に受け入れているわけでは無く、アメリカに移住できなかったユダヤ人達は、パレスチナに難民として流入していたのだ。(※史実)


 このパレスチナに流入したユダヤ人と、それまで居住していたパレスチナ人との紛争がたびたび発生するようになり、イギリスは1939年にユダヤ人のパレスチナ移民と土地の取得に制限をかける政策をとった。(マクドナルド白書※史実)


 しかし、ユダヤ人のパレスチナへの流入は止まらず、現地のユダヤ人は自らを守るために自警団を組織し、反アラブ、反イギリスの立場をとるようになる。(※史実)


 特に、「ハガナー」「イルグン」「レヒ」といったユダヤ人武装組織は、たびたびイギリス軍やアラブ人を襲撃し、パレスチナ問題をさらに混迷化させていた。(※史実)


 そして、イギリスが日英同盟の合意によって、ユダヤ人のパレスチナへの移住を完全に禁止し、難民キャンプに収容されていたユダヤ人を半強制的にウラジオストクへ移送したことから、ユダヤ人武装組織がイギリスに対して「独立戦争」を開始すると宣言したのだ。


 この時のパレスチナはイギリスの委任統治領であった為、軍事基地を作ることは条約上出来なかった。その為、現地に駐留しているのは警察に毛の生えた程度のイギリス部隊だけだったのだ。


 そして、ユダヤ人武装組織はイギリス部隊を急襲し、その多くを殺害するという暴挙に出てしまった。


 さらにユダヤ人武装組織は、その支配地域に居住しているパレスチナ人を襲撃し、家を壊して追い立てることを始め、独立宣言から一週間で15万人ものパレスチナ難民が発生するに至る。


 この事件に対して国連は緊急安全保障会議を開催し、満場一致で武装組織への非難決議と、即時武装解除決議を採択する。そして武装解除を実行するために、イギリス軍は2万人規模の陸軍を派遣し武装組織の壊滅にあたったのだが、ここで、さらに混乱を加速させる事態が発生した。


 エジプトやヨルダンの支援を受けたパレスチナ人武装組織が戦闘に加わったのだ。


 この当時、ヨルダンはイギリスの委任統治領下にあったが、ある程度の自治が認められていた。その為、水面下で武器や資金の支援をする。エジプトはイギリスから既に独立をしていたが、現実は保護国のような扱いだった。しかし、このパレスチナ紛争に対しては、イギリスを支援するという大義名分の元、パレスチナ人武装組織を大々的に支援したのだ。


 これにより、イギリス軍、ユダヤ人武装組織、パレスチナ人武装組織三つ巴の泥沼の紛争が開始された。


 この紛争によって、それまで比較的平穏に暮らしていたユダヤ人達も家を焼かれ、そのほとんどが難民となってしまう。


 結果、多くのユダヤ人が家を失い難民化してしまったため、ウラジオストクへの避難が促進されてしまったのだ。


 この紛争は約一年続くことになるのだが、ほとんどのユダヤ人がウラジオストクをはじめとした極東沿海州に移住してしまったため、最後まで残っていたユダヤ人武装組織とそれを強硬に支援する一部の市民のほとんどが、パレスチナ人武装組織に壊滅させられて終結することになった。


 パレスチナからユダヤ人がほぼ避難してしまったため、パレスチナ問題の火種を消すことには成功したのだが、その過程で数万人もの犠牲者が出てしまうという、後味の悪い結末となってしまった。

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