第255話 仏印解放(2)
祝福のコメントをたくさん頂き、誠にありがとうございます。
本当に、読者の皆さんのおかげです。感謝に堪えません。
一応、2巻以降も発売予定なので、これから改稿作業が忙しくなりますね。
おそらく、4ヶ月に一巻程度の間隔での発売です。
今後とも応援よろしくお願いします!
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ホー・チ・ミン率いる“ベトナム独立同盟会(通称ベトミン)”は、日本軍の仏印進駐に時を同じくして作戦を開始した。
各地に待機していたベトミンの戦闘員は武器を手にして、仏印政府の地方駐留軍や警察署を襲撃する。まず送電線を切って電灯を使えないようにし、スタングレネードを投げ入れ、すさまじい音と閃光で仏印兵士の目と耳をつぶした。そして小銃を持ったベトミン達が突入して次々に制圧していったのだ。
ベトミンの攻撃は仏印政府軍に対して、とにかく反撃を許さないように、瞬時に徹底して行われた。万が一にも籠城されて朝が来てしまっては、周辺住民への被害が出る可能性がある。それだけは避けなければならなかった。
「抵抗する者は射殺しろ!2時間以内に全て制圧するんだ!」
顔を黒く墨で塗ったベトミン達は、真っ暗闇になった建物の中を全力で走り抜ける。彼らは農村部出身がほとんどで、皆夜目が利いた。人工的な光りがほとんど無い世界で育った為だ。そして、電気の途絶えた仏印政府施設の中では無敵だった。
士気の低い仏印政府軍はほとんど反撃の出来ないまま制圧されていった。
「仏印政府施設の制圧はほぼ終了した!次の目標に移動だ!」
一部の部隊を残して、皆次の目標に移動する。その目標とは、仏印に居住しているフランス人をはじめとした外国民間人の家だ。あらかじめ襲撃目標の割り振られた地区に、素早く移動を開始した。
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数人のベトミンの男達が玄関ドアに体当たりをする。そして、3回体当たりをしたところで、そのドアは鍵と蝶番が限界に達し内側に大きな音と共に倒れた。そして、屋敷のドアを一つ一つ開けて中の人間を確認する。
この家はフランス人貿易商一家が住む家だ。三階建ての豪華な作りをしている。ベトナム皇帝のカイディンが建てた離宮のアイディン宮殿を見たことがある者は、その宮殿にも匹敵すると言っていた。
ベトナム人から搾り取った血肉によって建てられた建物だ。そして、この豪邸の中で、貿易商のフランス人一家は、50人にもおよぶ使用人に囲まれて皇帝のような生活を送っていた。
「動くな!両手を出して床にうつぶせになれ!」
一階にいる使用人達の部屋を開けて制圧をしていく。そして、制圧部隊はこの屋敷の主人夫妻がいると思われる寝室のドアを蹴破った。
そこには、妻と幼い子供4人の前に立って拳銃を構えている主人の姿があった。
「入ってくるな!う、撃つぞ!」
その手はブルブルと震えていて、とても狙いを付けることは出来そうに無かった。それでも、その男は家族を守るためにリボルバー拳銃を構えて気丈に威嚇をする。
「銃を捨てろ!そんな拳銃で防ぎきれると思っているのか!抵抗しなければ命は保証する!銃を捨てるんだ!我々がその気になれば、貴様らなどすぐに皆殺しに出来るんだぞ!」
フランス語の出来るベトミンが投降するように促した。ベトミンが命令されているのは、一家の確保であって射殺では無い。抵抗されれば射殺しなければならないが、できれば命令を完遂したかったのだ。
「い、命は保証してくれるのか?家族の、妻と子供たちの命だけでいい。この屋敷にある金なら全部やる!だから命だけは・・・」
一人のベトミンが主人に近づき、手に持っている拳銃にそっと手をさしのべる。そしてその拳銃の撃鉄の間に親指を入れて発射できないようにし、奪い取った。
主人の後ろにいる妻は恐怖のために座り込んでガタガタと震えている。その妻の前に立っているのは長男だろうか。10歳くらいの少年が、こちらに向かって怒りのこもった視線を送っている。
銃を奪ったベトミンはその少年を見て“フン”と鼻で笑った後に、持っていた三八式歩兵銃の銃床で主人のみぞおちを激しく突いた。
「キャーーー!あなたーーー!」
後ろで座り込んでいた妻が、倒れた主人に覆い被さって叫んだ。自身の恐怖よりも、夫を心配する気持ちが勝ったのだろう。このままでは夫が殺されてしまうと。
主人に覆い被さる妻を見たベトミンの男は、自らの命よりも夫の命を心配する妻に対して怒りが湧く。そして、ベトミンはその妻の顔に蹴りを入れた。
悲鳴を上げた女は顔を押さえながら転げていった。そして、歯が何本か折れた様で、口からだらだらと血を流している。
「何が金を全部やるだ!お前達が俺たちベトナム人から搾取した金だろう!それにな、俺の妹は6歳の時に飢えで死んだんだよ。お前達が強制的にコメを持っていったせいだ。そんな鬼畜どもにも家族を愛する気持ちがあるのかよ・・」
自分たちベトナム人を支配し、搾取し、農村で飢餓が発生していてもコメの強制搬出を止めなかったフランス人は、彼にとって鬼畜で無ければならなかった。鬼畜であればこそ、あの様な残酷なことができるのだと思いたかった。しかし、目の前に居るフランス人は、自分の命を省みず家族を守ろうとしている。家族を愛することができる“人間”なのに、どうして我々ベトナム人に対してあんな酷い仕打ちができるのだろう。その事が、彼の心を苛立たせる。
「全員縛り上げろ!迎えのトラックに乗せて移動する!」
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