第251話 シベリア決戦(6)
「ソ連軍滑走路より航空機の離陸を確認。数は約40機。さらに増えています!」
上空で警戒していた哨戒機から連絡が入る。現在、合計8機の哨戒機が上空を飛び警戒活動と地上軍のサポートを行っていた。
「ちっ!もう滑走路を修復したのか!?進軍中の部隊に警報を出せ!連中は低空で侵攻してくるぞ!対空警戒を怠るなよ!陸軍航空隊にも迎撃の要請だ!」
総司令の梅津中将は全軍に警戒を促す。こんなにも早く滑走路を修復するとは正直予想外だった。おそらくこれまでの知見で、滑走路修復専用の部隊を配置していたのだろう。そして、ソ連機は必ず極低空で侵入してくるはずだ。哨戒機のルックダウンレーダーでの捕捉は出来るだろうが、前線部隊の九七式自走高射機関砲ではギリギリまで捕捉が出来ない。敵の数によっては侵攻軍に損害がでる可能性があった。
――――
「対空装備をしている機を全部上がらせろ!緊急だ!ソ連機が侵攻部隊に到着するまで40分しかない!対地攻撃を始める前に撃退しろ!」
河辺司令の号令が飛ぶ。ノヴォシビルスク近郊にある陸軍航空隊滑走路からオムスクまで250kmあるので、九九式戦闘機を向かわせても30分近くかかってしまうだろう。ソ連機よりも早く前線にたどり着くには新型機を投入するほかなかった。
「黒江大尉!疾風(はやて)は行けるか!」
「はい、司令!もちろんです!42機全機すぐに行けます!」
インカムから第三飛行戦隊隊長・黒江保彦大尉の返答が返ってくる。万が一に備えて戦闘機隊は何時でも出撃できるように準備をしていた。
三菱の堀越技師が中心になって開発をした陸軍零式戦闘攻撃機“疾風(はやて)”の先行量産型42機が、このシベリア方面軍に配備されていた。これは、小型ジェットエンジン2機を搭載し最高速度1,150kmを出すことが出来る戦闘攻撃機だ。今回の戦闘が初陣となる。
「よし!すぐに上がってくれ!加藤少佐!九七式戦闘攻撃機は爆装して再度ソ連軍滑走路の爆撃を頼む!」
もう明るくなってしまっているので九七式戦闘攻撃機の姿がソ連軍に捉えられる可能性があるのだが、ソ連軍滑走路をこのままにしておくわけにはいかない。九七式戦闘攻撃機は再度爆装して攻撃に向かうが、レーザー誘導の精密爆撃を行うには哨戒機かU2偵察機の随伴が必要になる。しかし、日中の作戦ではソ連軍の120mm高射砲が脅威となるので、哨戒機等の随伴は出来ない。その為、今回は通常爆弾を装備しての爆撃だ。命中精度はかなり下がるが、280機の九七式戦闘攻撃機から各機250kg爆弾12発、合計3,360発もの爆弾を投下するのだ。これなら十分にソ連軍滑走路を無力化出来るはずだ。
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42機の陸軍零式戦闘攻撃機“疾風”は各機8本の対空ミサイルを搭載し、轟音を響かせながら次々に離陸をしていく。アフターバーナーは装備されていないが双発ジェットエンジンの音はやはり豪快だ。2機ほぼ同時に離陸を開始し、42機全ての離陸が終わるまで10分とかからなかった。疾風隊の練度は非常に高い。
――――
ソ連軍航空隊は、離陸した機から順次編隊を組んでオムスクを目指した。オムスクまでは150kmほどの距離だ。戦闘機ならすぐに到着できるが爆撃機だと30分ほどかかってしまう。爆撃機を先に離陸させて、それを戦闘機が追いかけるように離陸をしていった。
爆撃機隊に追いついた戦闘機隊は、高度150mくらいの極低空を、時速320kmという低速でオムスクに向かう。この高度なら、日露軍に発見されずかなり近づける可能性があると考えていた。
「あと5分ほどで作戦空域だ!注意を怠るな!」
SB爆撃機の機長が、前方銃座の機銃手に注意を促す。日本軍は誘導ロケットを使って来る事がわかっていたが、ソ連軍にはそれに対抗する手段が全く無かった。わかっていたのは、極低空で飛行していれば外れてくれる可能性が高くなるということだけだったのだ。
「前方に何か見えます!おそらくロケットです!」
前方から近づいてくるロケットを発見したソ連軍機は、次々に降下を開始する。現在も高度150mくらいの極低空だが、さらに地上の木々スレスレにまで高度を下げた。ちょっと操縦を間違えば樹木に接触してしまうだろう。そんなギリギリの飛行をソ連軍機は実行したのだ。
そして、みるみる近づいてきたロケットは友軍機に着弾を始めた。コクピットから見えるだけでも、かなりの友軍機が爆発を起こして消えていった。極低空で飛行しているため、爆発を起こせば一瞬で地上に激突してしまう。上空での被弾と違い、脱出する時間など一切無かった。
それでも、かなりの数の機体が日本軍からの第一次攻撃を凌ぐことが出来たようだ。無線は全く使えないので正確な状況はわからないが、自機を含めて見えるだけでも50機以上は生き残っている。この様子なら、後続の部隊を含めれば数百機は作戦を続行しているのでは無いかと思えた。
「前方に航空機です!機数は約30!まっすぐ近づいてきます!」
「戦闘機隊、頼むぞ!」
SB爆撃機にも機銃はあるが、高速で飛行する日本軍機を撃ち落とすことはほとんど出来ていなかった。Mig3やYak1といった戦闘機でも優勢に戦うことは出来なかったが、日本軍機を大幅に上回る機数を集中投入することで、過去に何度か押し返すことに成功している。爆撃機隊は、自身の運命を護衛の戦闘機に預けることしか出来ない。なんとか、腹に抱えている爆弾を、日露地上軍の上にばらまくまで持ちこたえて欲しい。皆そう思っていた。
「な、なんだ!?いつものヤツじゃない?」
「速い!なんだ!?あれは!?」
ソ連軍機は時速320kmほどで飛行している。日本軍機は正面から近づいてきているので、その相対速度は通常より速く感じるのは当然なのだが、その速度が尋常では無かった。日本軍の九九式戦闘機は最高時速800kmということだが、こんな低空ではその速度を出せないはずだ。しかし、近づいてくる日本軍機はそんな速度にはとうてい思えなかった。
点の様に小さかった日本軍機はみるみるうちに大きくなり接近してくる。ソ連軍機は近づいていくる敵機に照準を合わせようとしたが、そんな動作は全く追いつかない。そして、すさまじい速度でソ連軍機の上空300m付近を通過した。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
日本軍機がすれ違った瞬間に、機体が“バンッ”という激しい音と共に一瞬震えたのだ。
「形が違うぞ!新型だ!」
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